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15 ライバル

 茶会が終わった。終始何もなかったが、春扇の様子だけおかしい。チラチラと黄鴒の方を見ては、嫌な目つきをしていた。話す時はにこやかだが、それが違和感を引き立たせている。紫蒼は春扇が動くのをじっと待っていた。


(蒼 春扇…いつでも来てみなさい。その時は然るべき対応をしてあげるわ)


 改めて、自分は黄鴒への思い入れが強いように思う。少し前に会って関わり始めたばかりなのに。どうしてかは、自分でも薄々気づいていた。


(響江の言った通りなのよね。本当、小珊(シャオシャン)に似てる…)


突然、紫蒼の衣に水がかかった。少量だが、それは他に水を被った者がいると言うこと。辺りを見回すと、主が水をもろに受けていた。


「黄鴒様!」


紫蒼は手拭いを出し、黄鴒を拭こうとする。だが、それを黄鴒は静止した。


「黄鴒様?」


黄鴒は力強い笑みを見せる。


「いいんだ。ありがとう。木妃殿、なぜ水をかけたのか聞かせてくれるだろうか?」


静かに言った黄鴒を、春扇は先ほどとは全く違った形相で見ていた。黄鴒を睨みつけている。


「あんたが‘火の気’持ちだからかけたのよ。もちろんかけるつもりは無かったんだけどねー? あんたがどーしても綺麗事ばっかりいうもんだからさぁ。こんなやつが皇太姫になるとかありえなーいって思って」

「あなたの目的は皇太姫になることですか」

「そそ。土の件もぜーんぶ私がやったの」

「なぜ?」


簡単よお。と春扇は続ける。‘土の気’が痩せれば‘水の気’が荒ぶり、‘火の気’を持っている皇族が体調を崩すと思ったらしい。


(この時に黄鴒が‘火の気’持ちだと知られていなかったことが救いね)


最も、黄鴒は‘土の気’を持っているため大丈夫だったようだが。


「どうして皇族を?」


黄鴒がそう聞くと春扇の動きが止まる。じっと黄鴒を見つめてため息をついた。


「あんたさあ……いいや。今の皇帝、愚図だと思わない? ああいう奴らが政やるより私がやった方がいいと思うのよねえ。だから私は皇太姫になるの」

「ほう」

「あんたの邪魔をするわ。皇太姫にだって私がなるんだから」


黄鴒が黙っていると、視界から消えて、と言われ、退室を余儀なくされてしまった。隣を歩く黄鴒はずっと黙っている。どう声をかけたら良いものか。

悩んでいると、黄鴒が髪飾りを差し出してきた。


「持っててくれ。髪を一つにまとめたい」

「分かったわ」


沈黙が続く中、紫蒼は黄鴒に問いを投げる。これからどうするのかと。その答えに、黄鴒は堂々と皇太姫になると言ってのけた。すると、紫蒼は手を強く握った。


「…そう。応援してるわ」


吹っ切れた黄鴒とは裏腹に、紫蒼の表情は曇ったままだった。




 翌日、黄鴒は本宮に呼び出されていた。何が始まるかと思えば、立場について話し合うらしい。二階席には先日の鳳凰神がいる。


「皆の者、集まってもらい感謝する。今日の議題は、銀級妃・金 黄鴒の立場についてだ。もう知っていると思うが、この者の父親は金 鴒明である。だがそれは入れ替えられた後の立場であり、金 鴒明の本当の名は、紅 鳳炎だ。従って、血筋で見るとこの者は皇太姫にあたる。皇太后を問い詰めたところ、事実だと分かった」


鳳凰神が話す後ろに皇太后の姿はない。地下牢に入れられたのだろう。鳳凰神は続けていく。


「我の言葉が受け入れられぬ者はいるか。いたら申しでてみよ」

「ここにおりますわ」


入り口の方を向くと、淑女でもなく、昨日のように荒ぶった様子でもない、堂々とした春扇がいた。黄鴒は目を丸くする。


「木妃よ、なんだ。ここには呼んでいなかったはずだが」

「ええ。どうしても言いたいことがあるので伝えに来ましたわ。お許し願います」

「だが…」


渋っている鳳凰神に、一人の官が声をあげた。


「あの、私は春季祀でご一緒しましたが、木妃殿は明るく聡明な方にございました。お話だけでも聞いてはどうでしょうか?」


聞いたことのある声だ。声の主の方へ目をやると、蒼色の髪をした官がいる。春季祀の時に話した三人組の官達の一人だ。多分、あれは春扇の仲間だろう。そして、その官の言葉に鳳凰神は耳を貸している。


「よい。許可しよう」

「ありがたき幸せにございますわ」


春扇は語り始める。


「確かに金 黄鴒妃は皇太姫の血筋を持っていますが、‘気’の使い方を習ったことはないです。この国において‘気‘は重要。扱える者が皇太姫の位に立つべきでは?」


鳳凰神は何も言わないが、表情が険しい。蒼 春扇を皇太姫にしたとしたら、金 黄鴒を皇太姫にしなかったとしたら、どんな利があってどんな不利があるのかと考えているのだろう。決めることはできなかったのか、鳳凰神は問い返した。


「仮に他の妃が皇太姫になったとして、どのような利点がある。凰国は火の国だ。金 黄鴒以外の皇太姫候補は誰一人‘火の気’を持っていないだろう」


春扇は黙った。確かにそうなのだ。火を象徴とする国なのに、木や金、まして水の性質を持った人間が皇帝になろうものなら、天災は免れない。


「…ですが、政をするには十分な能力が必要だと思います。箱入り娘より、殿下と政をしたことがある私達の方がいいのでは?」

(私()?)


黄鴒を含め全員がそう考えていると、またもや入り口の方に人影が見えた。しかも、今度は二人もいる。


「其方ら…」


鳳明は呆れた様子だ。そこに立っていたのは、後宮内で朱雀妃の位についている、金妃・銀 白雁(ぎん  はくがん)と、水妃・呂 冬鷸(ろ   とういつ)だった。


「偉大なる陛下を前に恐悦至極にございます」

「お、同じく、ご威光にひれ伏すばかりでございます」


白雁に続いて冬鷸が言う。春扇も口を開いた。


「この四人の中から皇太姫になる者を一人選び、即位させるというのはどうでしょうか?」


鳳凰神は黄鴒を見る。黄鴒は、皆様が良ければ。と答えた。この返答により、凰国史上初となる太姫競決が行われることとなった。




 その夜、木妃宮を銀 白雁と、呂 冬鷸が訪問していた。居間には蒼 春扇がいる。三人が揃うと、春扇は人払いをした。静かな居間に、春扇の話し声が響く。


「夜更けに集ってもらってありがとうございます。今日は話がありますの」


春扇の言葉に応答したのは白雁だった。


「いいわよそんな気取らなくて。そんな関係じゃないでしょ? で、話って?」

「そうですよ。あ、新しい標的の話ですか?」

「そうそう。今日見たでしょ? 金 黄鴒ってやつ。あいつ気に食わないのよねぇ。太姫競決でいじめない? あと、私のこと勝たせてくれたらいい地位につかせてあげるよ?」


春扇の言い分に、二人の顔は不気味に歪んでいく。同意した証だろう。その夜、居間から笑い声が絶えることはなかった。




 一週間が経ち、太姫競決の当日を迎えた。春扇は衣を見に纏い、本宮へ向かおうとしている。化粧を終え、宮を出る。だが、歩き方に違和感があった。太ももあたりが膨らんでいる。何かがあるのだろう。

 会場に着き、春扇は席に座る。白雁と冬鷸と目を合わせ、衣の口袋(ポケット)に手を突っ込む。春扇が口袋を見ると、小刀があった。


(待ってなさい。金 黄鴒…)


春扇は黄鴒を見つめ、機会を伺うのだった。

ご高覧いただきありがとうございました!

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