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7話 ~パーマ~

 


 美人というのはやはり得だ。


 不機嫌そうに唇をひん曲げている顔を、窓から差し込む光りが陰影を作っているが、これはこれで何かの芸術作品に見えなくもない。


「帰って!」


 サーバルキャットが吼えるように言った。


「どうして?」


「いろいろ言いたいことはあるけど、一番はあなたの見た目が気に入らないの」


 腕組みをした指をトントンさせながら言う。


「そうなの?」


「そうだって言ってるでしょ!」


 噛みつくような勢いで来た。飛んできたツバが僕の顔にかかりましたよお嬢さん。


「そんなこと初めて言われたんだけど、具体的にはどこが気に入らないの?」


 任務達成するためには彼女がどんな人間なのかを知らないといけない。だからとりあえず会話を続けることにした。


「女たらしの顔してる」


「そうかな?」


「だからそうだって言ってるでしょ!」


 怒ってるなぁ………。


 出会ってからまだ十分も経ってないけど、彼女がかなり強気な性格だという事は分かった。普通は初めて会った年上の異性に対してここまで強くは言えない。


「私、格好つけてる男って嫌いなのよね、モテパーマなんかかけちゃってさ!」


 どうだとばかりに胸を張っている。見た目は大人びているけど、こういう所は中学生っぽいと感じる。


「そういうことね………」


「何笑ってるのよ」


 残念、それは悪手だ。


「天パ」


「は?」


「天然パーマなんだよね、これ、よく間違われるんだけどね」


 スパゲッティのように前髪を指でくるくる回した。


「………」


「生まれつきなの」


 さあどうだ、悪口の間違いは相当恥ずかしいだろう?


「モテパーマなんかかけてないの。っていうことは僕は君が嫌いな「格好つけてる男」じゃないんだからOKでしょ?」


 これは仕返しとかじゃなくて作戦。彼女のような強気なタイプにはこうやってガンガン突っかかっていった方が仲良くなれる気がした。


「OKなわけないじゃない!」


「なんでよ?さっき言ってたことと違うじゃない。理由を教えてよ」


 僕の問いかけに一瞬彼女が固まった。


「なにが天パよ、そんないい感じの天パなんて見たこと無いわ。っていうことは遺伝子よ。遺伝子からの女たらしってことじゃない!」


 胸を張ってドドンと言い切った。


「なるほどね………」


 ちょっと感心してしまった。間違いを認めて謝るか、顔を真っ赤にして恥ずかしがるだろうと思っていたら、逆に攻撃に転じて来た。彼女の強気は相当なものだ。


「なにが「なるほどね」よ!そんなやつを部屋に入れたくないし、そもそも私は勉強は得意だから家庭教師なんか必要ない、さっさと帰れ!」


 ものすごい勢いで一気にまくし立てたせいで、また唾が飛んできた。


「ずっと怒ってるね?」


「当たり前でしょ!」


「そうかな?」


 おかしい。人は初対面の相手に、こんなにも怒り続けられるものだろうか。


 僕は彼女をじっと見る。


「なによ!」


 サーバルキャットのような瞳が揺らいでいる。不自然な彼女の行動には、なんらかの意図があるはずなのだ。


 ああそうか………分かった。


 これは悪口作戦だ。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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