6話 ~サーバルキャット~
春の土曜日というワクワク感と気怠さが両立する空気の中を歩く、僕の名前は芦屋 鯰。
今日はバイトの初日。
道行く人達もどこか気品を感じる閑静な住宅街の中にある、その一軒家の表札には「鹿島」と表示されている。どうやらここで間違いなさそうだ。
白を基調とした二階建ての重厚な建物、そして庭もある。十字架もステンドグラスもないのになぜか「教会」という言葉が頭に浮かんだ。
なんでかわからないけど教会ってちょっと怖い。これは慣れの問題だろうか。そんなことを考えながら外壁に設置されたインターフォンを押した。
「いらっしゃい、待ってたわ」
スピーカーからすぐに声がした。僕が名乗るよりも早かった。そして少ししたら玄関の扉が開いた。
その瞬間「おうふっ」と思った。
太陽の光に照らされ輝いている金色の髪。そしてジーパンに白ニットという、シンプルながらも絶妙にいやらしさを感じる服装。
しかし忘れてはいけない。このお方は人妻であり警察官だ。思考を悟られないように表情を取り繕った。上手くできたどうかは自信が無い。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
日向さんは僕が本当にくるのかどうか不安だったのかもしれない。やけに対応が素早かったし、ずっと笑顔だ。
「素敵なお家ですね」
「ありがとう」
案内されたリビングで、今回の目的を確認した。
僕はこれから反抗期不登校の娘さんの部屋に行き、楽しくおしゃべりできれば任務完了、そして二万円ゲット。やっぱり美味しすぎて怪しいアルバイトだ。
「娘には今日から家庭教師がくると一応伝えてあるから」
「わかりました」
本当はただの話し相手だけど、名目上は家庭教師だ。
出されたお茶を飲んでのどを潤してから、階段を昇って二階の廊下を歩いて、「MIKA」と書かれた扉の前で立ち止まる。
彼女はもう僕の存在に気が付いているのだろうか?ひとつ息を吐いた後でノックした。扉はすぐに、そして勢い良く開いた。
飛び出てきたのは美少女。
サーバルキャットのように鋭くて大きな目。牙を剥き出しにしているわけでは無いけれど、歓迎されていない事はすぐに分かった。
驚いたのは金色の髪。
窓から差し込む光りを吸い込んだ本物の金髪は驚くほど美しい。肩よりも少し長いセミロングの髪型と整った容姿は若手女優のよう。
金色の髪ならさっき見たばかりなのに、それでも僕は魅了されてしまっている。ひょっとしたら僕は金髪フェチなのだろうか。
次に驚いたのはその身長、中学生なのに僕よりも背が高い。日向さんも背が高いのでこれは遺伝だと思う。決して僕が小さすぎるわけでは無いと思いたい。
それと目鼻立ちのはっきりとしたその顔は、嫉妬を受けそうなほど整っていて、睨みつけるようなその目さえなければ天使に見えたかもしれない。
「何?」
色白の華奢な喉から強めの声が出た。敵意剥き出しだ。けどこれくらいで怯んだりはしない。
それよりも、不登校になって落ち込んでいるかもしれないと心配していたけれど、それは大丈夫そうで安心した。
「今日から君の家庭教師になる芦屋鯰です、よろしくね」
「あんたが?」
「そうだよ」
「ふん!」
僕よりも高い所にある青みがかった綺麗な瞳で、僕を見下しながら、ほとんど鼻息だけで返事をした。
これは厳しい戦いになりそうだ。
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