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50話 

 

 日向は銀色の小さな玉を加賀刑事に手渡す。


「若い頃からいままで何万発も触ってきましたから間違えるはずが無いですよ。この大きさ、色、重さ、間違いなくパチンコ玉だ」


 加賀刑事が指の腹でそれを転がしながら言った。


「なるほどなるほど………ところで鯰君?」


 鯰はなぜかぐったりとしている。


「はい………」


「あなたはどうしてパチンコ玉なんか持ってるのかしら?」


「いや、それは、その………」


 鯰の顔が青い。


「加賀刑事、風営法で規定されている、パチンコができる年齢は何歳からだったかしら?」


「18歳です」


 加賀刑事が大きな声ではっきりと言い切った。


「鯰君、あなたいま何歳?」


「………」


「高校2年生よね?」


「それはたまたま拾ったやつで………」


 鯰の表情は無駄だと分かって言い訳しているように見えた。


「パチンコ玉?」


 美佳が小さな玉を見つめながら言う。


「そういえばさっき、将来はパチプロになりたいとか言ってたわよね?パチンコ玉とパチプロ、私には無関係とは思えない」


「そ、そうかな………?」


「しかもあなたは普段から勘の良さを自慢してるわよね?」


 ゆっくりと歩きながら語る美佳のその姿はまるでシャーロックホームズのようだった。


「これはただの推測なんだけど、あなたは気付いたんじゃない?それを生かしてお金を稼ぐ方法を。つまりそれがパチンコ」


「ぐ………」


「それでいま勝っているから、このまま働かずに楽して生きていこうなんて安易な考えからパチプロになりたいなんて言った、という推理も出来るわよね?」


「美佳、さすがにシャーロックホームズを読んで勉強しているだけあるわ。それはとてもいい推理よ」


「あー少年、いまちょうどあそこにパトカーがあるんだけど、乗っていくか?残念ながら席の空きがないから、さっきとっ捕まえた松田の隣ってことになるんだけどな」


 加賀刑事がやる気のなさそうな口調で聞く。


「待ってください、それってあんまりですよ。何で僕が松田と一緒に連行されないといけないんですか。犯人逮捕のために頑張ったじゃないですか!」


「気持ちはわかるんだが、それとこれとは別問題だしなぁ………」


「それに僕がパチンコ玉を持っていたとしても、パチンコをしていたという事にはならないんじゃないですか?」


「あー少年、それは悪手だな、悪手だ」


 ため息をつく。


「素直に謝ってくれれば見逃してやろうっていう気持ちにもなるんだけど、そんな逆切れみたいなことを言われたらこっちだって本気にならざるを得ないぞ」


「いや、ええと………」


「誰でも分かることだが、パチンコ屋には防犯カメラってもんが設置されてるんだよ。とりあえず近場を全部回って確かめてみようか?」


 それは日々悪人を追いかけてきた刑事の目だった。


「日向さん!」


 助けを求める鯰に、日向が少し寂しそうな視線を向けた。


「助けてあげたいところだけど難しいわよね。ルールはルールだし、何よりもさっきの鯰君からは反省の色が全く見られなかった」


「そんな………!?」


 絶望の表情で膝を付く。


「と、ここで私から鯰君に、とっても素晴らしい提案があるのだけど聞いててくれる?」


 ジャパネットたかたみたいな笑顔で言った。




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