45話
脳震盪。
予想外の衝撃を受けた脳は頭蓋骨と衝突を起こし、脳は身体の機能停止を命じた。真っ白な世界に沈んでいく松田。それでもまだわずかに稼働していた眼球は薄れていく景色の中で確かに見た。
害虫を踏みつぶす人間の眼。
今自分自身の身に何が起きているのかは分からない。しかし分かることがある。それは糞餓鬼が自分を害虫としか見ていないという事。散々愚弄され、そして負けた。自分は負けたのだ。
悔しい。
小学生の時から鍛え続けた剣道が通じなかった。撃たれてもいい、その覚悟で本気で打ちに行った最後の攻撃は、当てることも触れることもできなかった。
罠?
最初から全部があいつの手の平の中だって言うのか。仕掛けた盗聴器を逆に利用され、誘い出され、警察を配置され、殺人未遂での現行犯逮捕。
悔しい。
美佳………。剣道の全国大会の会場で初めて見た。衝撃が走った。天使だと思った。金色の髪も顔もあまりにも美しかった。あの時絶対に俺のものにすると誓った美佳が、俺の美佳が………。
必死で生きて来た。だけど何も上手くいかなかった。何のために俺は生まれたんだ?誰かの踏み台になるために生まれたのか?
人生で一番最悪な思い出は中学三年の時、浅田優に剣道部の一年生マネージャー道枝佐江を奪われた時だ。俺の方が絶対に先に好きになっていたのに。先生が見ていない時にはいつも練習をサボってばかりのチャラチャラした屑に。
同じだ、あの時と全く同じだ。またしても俺は好きな女を屑野郎に奪われてしまった。
大勢の人間が自分を嘲笑う声が聞こえる。人生を破滅させられた自分を嘲笑う人間の声。
くやしい。
くやしいよぉ。
涙を流しながら後頭部をアスファルトに打ち付けた松田の元に警察官が突進する。
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