38話
「犯人が盗聴器で僕達の話を聞いているという事を逆手に取ればいい。我慢できなくなって、何か行動を起こすようなことをわざと聞かせてやればいいんだ」
ホームズならきっとそうするだろう。
「すごい!でもどんな話を聞かせるの?」
「それはまぁ、これから………」
「なんだぁ………」
苦笑いする鯰に美佳が呆れたような顔をする。
「大丈夫、それはこれから皆で考えればいいいのよ。三人寄れば文殊の知恵っていうものね」
日向さんがにっこりと笑いながら言った。
「そうだよ、焦る必要はないんだから、みんなでじっくり考えよう。急いては事を仕損じるっていうからね」
「嫌よ!私の部屋に部屋に盗聴器があるのにゆっくりなんかしてられないわ!一刻も早く捨ててしまいたいんだから」
「ちょっと美佳、声が大きいわ。犯人に聞こえたら作戦は全て水の泡よ」
「ごめん」
美佳は自分の口を塞ぎながら言った。
「盗聴器の事はそんなに心配しなくていいと思うよ」
「なんでよ?」
「盗聴器がぬいぐるみの中に入っているなら、ぬいぐるみごと部屋の外に持ち出せばいいだけだから」
「あ………」
口をぽかんと開けたまま止まった。
「洗濯するとか誰かにあげるとか、そんな感じで理由を付ければ不自然じゃないと思うよ」
「そう言われてみればそうね………」
「回収したあとは私の方で調べるわ。もちろん犯人にはバレない様にね」
日向さんがニッコリ笑った。その笑顔は任せておけばきっと大丈夫だろうという安心感を与える。
「もしぬいぐるみに盗聴器が無かったら?」
「その時は多分部屋の中に仕掛けられているんだと思う。いずれにしてもやることは同じよ。盗聴器を使って犯人を誘き出して捕まえる、それだけ」
日向さんが落ち着いた様子で言う。
「こういう時に本物の警察官がいてくれるのは、とても心強いですよ」
「わかる、なんかいてくれるだけですごく安心する」
美佳も頷く。少し前までの動揺はすっかり無くなって、今の美佳の目には犯人を捕まえるという強い力が宿っている。
「犯人を誘き出す罠………なんだか本当にホームズになったみたいでドキドキする。がんばりましょうね、ワトソン」
「え、僕がワトソンなの?」
「そんなの当たり前じゃない!ホームズはどう考えても私なんだから。鯰はその助手に決まってるでしょ」
「できればホームズが良かったなぁ………」
「それは無理」
僕達のやり取りを楽しそうに見ていた日向さんが聞いてきた。
「私は?」
「お母さんは………ハドスン婦人?」
「えー嫌だ、すごくおばさんのイメージ」
ハドスン夫人というのはホームズが下宿しているところの主人で、料理を作ってくれたり、仕事の手助けをしてくれたりもする女性だ。
好感が持てるキャラクターではあるが、格好いい感じはないので嫌がるのも分かる。
「私はやっぱりアイリーン・アドラーがいい」
「おお!いいですね、ホームズに一矢報いる知的な女性ですもんね」
シャーロキアンの間では、ホームズは彼女に恋愛感情を持っていたのではないかと囁かれる存在だ。
「そうよ、私にピッタリでしょ?」
日向さんが満足げに言った。
「それじゃあホームズとワトソンとアイリーンのコンビで犯人逮捕の罠を考えましょう」
「絶対成功させる!」
それからリビングにはお煎餅を齧る音と、熱のこもった話が展開されていった。
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