35話
「まさか盗聴器だなんて………」
台所の方で日向さんがお茶の準備をしてくれている音が聞こえている仲で、美佳がゆっくりと語り出した。
「ただの推測だけどね」
美佳がお煎餅を齧るのに合わせて僕も齧る。まだ動揺しているとは思うけど、それでも食べれているのは良いことだ。そして口の中が空になってから静かに語り出す。
「でもその推測の通りなら、全部の疑問が解決することになるわよね?どうして犯人が私達のことをあんなに知っていたのか」
「うん」
「大福も、剣道も、鯰の名前も………全部私の部屋で話したことだ」
僕は少し安心した。こんな状況でも美佳はしっかりと考えることが出来ている。
「さあ、お茶の用意が出来たわよ」
微笑む日向さんがそれぞれに湯飲みを渡してくれて、そこに濃い色をしたお茶を注いでくれる。
いい香りだ。
お茶の香りを楽しみながらお煎餅が入っている袋を開けて齧る。うん、こっちもいい香りがする。
「すごく美味しい」
「喜んでもらえて良かったです」
決して派手ではないけれど、しょうゆとお米の味がじわじわと美味しくて、いくらでも食べられそうだ。
そんな昔ながらの製法にこだわった素晴らしいお煎餅をぺりぺり食べているうちに、美佳の表情が少しずつ柔らかくなっていくのを感じた。
やっぱり美味しいものっていうのはいい。落ち込んでいる時でも食べている間だけは嫌なことを忘れることが出来る。
「ぬいぐるみだ………」
お茶を飲み干してから美佳が言った。
「ぬいぐるみ?」
「うん………」
「この前、家に担任の松田が来たときに寄せ書きとぬいぐるみを玄関の前に置いて行ったの。クラスのみんなからのプレゼントだって言って」
「それ怪しいよ!」
前にテレビか何かで、アイドルがファンから貰ったプレゼントに盗聴器を仕掛けられたという話を聞いたような気がする。
「すぐに捨ててくる!」
「ちょっと待って美佳」
立ち上がった美佳に対して日向さんが声を掛けた。
「怖いのは分かるわ。だけどそのぬいぐるみを捨ててもこの事件が解決するわけじゃない。それよりもっといい方法がある」
「え、何を言ってるの?」
「分からない?すごく簡単なことじゃない」
「まさか………」
「犯人を捕まえましょう」
はっきりと力強く、真っ直ぐな眼差しで言い切ったその姿は、まさに警察官だった。
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