34話
「と、と、と、盗聴器ーーー?!」
「最近何か人から貰ったものとかある?もしかしたらその中に仕掛けられているかもしれない」
慌てふためきキョロキョロと辺りを見渡している美佳。
「わかんない、わかんないよぉ………」
「美佳、大丈夫だから落ち着いて」
「こわい、こわいよぉ………」
今にも泣きだしそうな子供のような顔をしている美佳の肩に手を置く日向さん。それでもまだ美佳は震えた声を出している。
「ごめんなさい鯰君、美佳が落ち着くまで少し時間がかかるかもしれないわね………」
「そうですね………すいません」
「悪いのは犯人で、鯰君が悪いわけじゃないんだから気にしないで、時間が経てば落ち着くと思うから」
「美佳ごめん」
もし自分の部屋に盗聴器が仕掛けられているかもしれないと思ったら怖すぎだよな。
反省。
僕は自分の推理を披露することに夢中で、気遣うことが出来なかった。しかも美佳はまだ中学生、こうなることはちゃんと考えればわかったはずだ。
「ごめん」
うつむく美佳に頭を下げた。
「大丈夫、美佳ならきっとすぐに立ち直るわ」
それからしばらくの沈黙の時間が流れた。美佳はだんだん落ち着いてきているように見えるけど、それでもまだ呼吸が荒い。
今日は一旦帰った方が良いんじゃないか、そう思った時、僕の頭にひとつの考えが浮かんだ。
「お煎餅食べますか?」
「あら、またお土産を買ってきてくれたの?」
「そうなんです」
微笑む日向さんに紙袋を手渡した。
「これって人形町にあるお店ね」
日向さんはせんべいの袋に貼られているラベルを見ている。
「知ってましたか」
「有名だもの。何度か頂いたことがあるけど、すごくおいしくて自分でも買おうと思ってたけど、まだ一度も行けてないの。だからうれしい」
「ここのお店は明治座の役者さん、落語家さんから昔から人気だそうです。焼き上げるのに備長炭を使っているので、風味が豊かなんです」
「それは知らなかった。なんだかそういうのを聞いたら余計に美味しそうに思えちゃう。それじゃあさっそく頂いても良いかしら?」
「もちろんです」
日向さんが席を立って台所でお茶の準備をしてくれている所で、美佳に話しかける。
「とっても美味しいお煎餅だから、食べながらゆっくり心を整理しようよ」
五枚入りの手焼きお煎餅の袋を開けて差し出すと、美佳は一枚とってお皿の上に乗せた。
「うん………」
美佳の瞳が不安げに揺れているのを見ながら僕は待った。
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