3話 ~拒む~
粘度の高いガスの手に握られたかのように体が痺れて動かない。不快と快感が混ざり合った不思議な感覚。
「家庭教師、引き受けてもらえる?」
日向さんの目はまるで光を大量に吸い込んだルビーのように怪しく光り輝いている。
まただ、これが来ると僕の体は自由を失ってしまう。催眠術にかかったように体が勝手に動いて頷きそうになっていた。
「できません」
従わなかった。
強い意志を持って言葉を発すと、糸を切られたマリオネットのように体が解放されたのがわかった。思った通り、この催眠術は回避可能なのだ。
「え、」
日向さんは明らかに驚いた顔をしていた。今まではずっと大人の女性の顔をしていたが、ここにきてそれが初めて剥がれた。
「もちろん謝礼は払うわ」
「そういうことではなく、単純に勉強が苦手なんです」
美人のお願いは聞いてあげたいところだけど、出来ることとできないことがある。
「今の高校に入れたのもラッキーみたいなもので………家庭教師なんて、僕の学力ではとてもじゃないけどできません」
安易に引き受けてしまったら、誰も得をしない結果になるのは分かり切っている。
「うーん………それでも何とかお願いできないかしら?」
「え、」
まさか納得してもらえないとは思わなかった。
「どうしてそこまでして僕に………」
「それは………鯰君が良いと思ったから」
理由になっているようでなっていない。勉強の出来ない家庭教師に何の価値を見出しているのだろう。日向さんは明らかに不自然なことを言っている。
「それじゃあこういうのはどう?」
手を叩いてパッと顔を明るくした。
「家庭教師ではなく話し相手。それなら勉強が不得意でも大丈夫でしょ?」
やはり不自然だ。
「何か事情があるんですか?」
僕は問いかけると、日向さんの表情は明るいものから一転した。
「そうなの、実は………」
そして日向さんは語り始めた。
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