26話 ~推理合戦~
「違うんです」
「私の見る目がなかったわ………」
なんで分かってくれないんだろう、悲しさよりも気になるのは、彼女の白い手に握られている日本刀。
もちろん鞘に収まって入るものの、黒ずんだ包帯が巻かれていたりして、ただならぬ雰囲気を醸し出している。
「それって本物じゃないですよね?」
お願いだから、雑誌の広告に載っている中学生しか買わない模造刀であってほしい。
「私は警察官よ」
「はい」
「警察官は自分の子供に害を及ぼす人間を、問答無用で斬首しても構わないという法律があるの。いわゆる害即斬よ」
「そんな、るろうに剣心じゃないんですから!」
日向さんの口の両端が釣り上がった。まさか本当に斬首すつもりか?!いやまさかそんなことは………。
「僕が犯人だと思う根拠は何ですか?」
日向さんに聞く。
「だって最後の所に名前が書いてあるじゃないの」
「自筆でもないこんな手紙なんか誰にでも用意できます。警察官ならもっとちゃんとした証拠で判断するべきです!」
僕が真剣に語っても日向さんは微動だにしなかった。
「うだうだ言ってないで、ちゃんと自分の罪を認めて心の底から反省しなさい!土下座しながら丸坊主にしなさい、それでも絶対永久不滅に許すことは無いけど」
美佳は滅茶苦茶なことを言い始めた。
「どうしてそんなに僕を犯人にしたいのさ」
「だって私の近くにいる男なんてあんたくらいじゃない!」
「そんなことないよ。美佳くらい美人なら、体育教師からコンビニ店員まで犯人候補なんか選り取り見取りだよ」
「やっぱり!」
美佳が両手でテーブルを叩く。
「やっぱりってなにさ」
「やっぱり女たらしだ!そうやって適当なこと言って誤魔化すつもりなんでしょ」
「そうじゃなくて僕はただ、美人っていうのは普通に生きているだけで狙われるリスクがあるって事を言いたいだけだよ」
「こいつ、性懲りも無くまた女たらしを………」
歯をギシギシ鳴らす。
「そもそもこの手紙はおかしいよ」
「うるさい!」
「ねぇ美佳………」
日向さんが静かに口を開いた。もちろん日本刀は肌身離さず手に持ったままだ。
「なに?」
「もしかしたら鯰君は嘘を言ってないかもしれない」
「どういうこと?」
終始うつむいていた日向さんが顔をあげて言う。
「さっき鯰君からちゃんとした証拠をって言われたから、改めて読み返してみたの。そしたらこの手紙になにか違和感を感じたの」
「違和感?」
「具体的には分からないんだけど、何かがおかしいような気がする。もし間違いだとしたら、私たちは鯰君に対してすごく酷いことをしてる」
「それは無い!私の周りにこんな気持ち悪い手紙を書く奴なんかいない!」
「絶対に?」
「絶対!」
美佳が胸を張って断言する。
「この言葉を聞いても同じことが言えるかしら?」
「何よその感じ………」
金色の髪をした親子が見つめ合う。
「明白な事実ほど当てにならないものはない」
「そ、それは「ボスコム谷の惨劇」でホームズが言っていた言葉………」
シャーロックホームズは美佳が部屋にポスターを張るほど気に入って、暗記するほど読み返している作品。
「美佳はこの手紙を何回読んだ?」
「えーと………一回しか読んでない、あまりにも気持ち悪すぎて」
気まずそうにいって目を伏せた。
「たったの一回だけ?その言葉をホームズが聞いただろう思うかしらね?ホームズどころかレストレード警部でさえ鼻で笑うんじゃないかしら」
「ぐ………」
「地べたを這いずり回ってでも徹底的に調べ尽くす。それがホームズのやり方よ、美佳はただ鯰君が犯人だと思い込んでるだけじゃないの?」
「たしかにホームズは、ホームズだったら………私としたことが、そこはちょっと良くなかったかも」
猫をに怒られている大型犬のような顔で、僕の方をチラチラ見ながら言った。
「いまからでも挽回は十分に可能よ。美佳ならきっと私が感じた違和感の正体を探し出すことが出来ると思う」
「わたし!?」
「美佳はもうすでにホームズから推理の基本を学んでいるはずよ」
「たしかに………」
美佳は手紙と僕の顔とを交互に見合わせた。
「それから鯰さんも」
「僕も?」
「もし自分が犯人じゃないというのなら、自分の推理でそれを証明してみてちょうだい」
やるしかない。僕だって今まで何回もシャーロックホームズを読んできたんだ。
「わかりました」
挑発的な顔をした美佳と目が合った。
「覚悟しろ鯰!私の完璧な推理でお前が犯人だと証明してみせる!」
美佳はビシッと指をつき指した。
「それはこっちのセリフだ。僕の完璧な推理で犯人じゃないと証明してみせる!」
僕はビシッと指をつき指した。
「「シャーロックホームズの名にかけて!」」
同時に発声した。
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