25話 ~事件~
僕は声に出して手紙を読んだ。
「ちゅ、美佳へ 君はこの薄汚い世界に舞い降りた天使だ。なんて美しい金色の髪。あぁ、嗅ぎたい、嗅ぎたい、頬張りたい。そのサクランボみたいな唇にキスをしたい、吸って吸って吸いまくりたい。君の制服姿が眩しい、すらりと伸びた首筋の美しさ、スカートの中に顔を突っ込んじゃったりして。でも一番好きなのは剣道着姿の君だ。初めて見たあの時の興奮は今でも覚えているよ、酒を直接脳味噌にぶち込まれたように真っ白になって動けなかった。気が付けば僕の息子は痛い位にそそり立っていた。また一緒に豆大福を食べようね。今度は君が半分食べたやつを食べたいな。君の唾液は餡子より甘露だろうからね。美佳、好きだ好きだ大好きだ、誰にも渡さない、絶対絶対誰にも渡さない。この手紙のことは二人だけの秘密、絶対に誰にも話しちゃいけないよ。約束だ。君の未来の王子様 芦田鯰より」
「………なんですかこれは?」
ここは鹿島家のリビング。
いつもなら大きな窓から差し込む太陽の光りによって明るい、木材を多く使った心安らぐお洒落な空間なのに、今日はなぜか死体安置所みたいに見える。
ダイニングテーブルには、顔を伏せている日向さんと、般若のような顔をしている美佳がいる。
「誤魔化さないで!あんたが書いた手紙でしょ!?」
古い刑事ドラマに出て来る若手刑事のように机を叩いたのは金色の髪をした少女。
「僕!?」
今日は家庭教師の日。
いつものように手土産を買ってやってきたらいつもとは明らかに雰囲気が違った。リビングに通されて唐突に手紙を押し付けられ朗読するように言われた。さっきの気色悪いやつがそれだ。
「あんたがこんなこと考えてるなんて全然知らなかった。もちろん最初から変な奴だとは思ってたけど、気持ち悪すぎて読んだ後本当に熱が出たんだからね!」
こんなに目が吊り上がっている美佳は久しぶりに見た。
「ちょっと落ち着きなよ」
「落ち着けるわけないでしょ!こんな手紙送られたら全女子が恐れ慄くわよ、マサイ族でもね!」
「そ、そうだよね………」
落ち着けと言うのはたしかに無理があったかもしれない。だけどマサイ族って………。
「腐りきったその脳内は手の施しようがないにしても、なんで手紙なのよ?好きなんだったら直接言え!」
「だから違うんだってば」
「一緒に買い物に行ったりしたから勘違いしちゃったのよね?それに関しては私にも少しは責任があるのかもしれない、けどそれにしたって………」
美佳が首を振りながら大きなため息をついた。
「こんなの本当に僕が書くと思う?」
「思う!お母さんが目の前にいるから誤魔化そうとしてるんだ!」
ここまではっきり断言されるとは思ってもみなかった、想像以上に信用がない。僕は助けを求めるつもりで日向さんを見た。いままで彼女はほとんど言葉を発していない。
「鯰君………」
「はい」
「まさかあなたがこんな人だなんて思わなかった」
本職の警察官ならきっとわかってくれるはず、そう思っていた僕の思いは薄氷のようにあっけなく破られた。
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