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24話

 


「まあそうだよね、お母さんが警察官だからって関係ないか。ごめんね、なんか勝手にそう思っちゃったな」


「立派な仕事だと思いますけど、私がもし警察官になったら、周りから親の七光りとか絶対に言われるので、警察官いだけはならないって決めてるんです」


「なるほど、そういうのあるよねぇ………」


 福本が腕組みしながら頷く。


「福本さんは警察官としてのお母さんを知っているんですか?」


「いや、実際に会ったことは無いよ。僕はまだ新人ですらないからね。ただ噂で聞く限りは鹿島警視正は相当すごい御方らしいね」


「お母さんはあまり仕事の話はしないんですよ」


「それは家族相手と言えども喋れない事が多すぎるからじゃないのかな」


「女性の警察キャリアは珍しいから有名なだけじゃないんですか?」


「それもあるかもしれないけど、事件がね………」


 福本がちょっと笑いながら答える。


「事件って母が何かしたんですか?」


「知らない?警大に入った初日にセクハラしてきた教官を成敗した話」


「ええ?!初めて聞きました」


「その瞬間、笑顔でつかつか近づいて行って滑らかに急所蹴りして、体勢が崩れた相手のこめかみに肘打ち食らわせたんだってさ」


「すご………」


「相手は柔道の全国大会常連でかなり体格のいい教官だったのに、それで泡を吹いて倒れて病院送りだってさ。それがあってからは皆が一目置くようになったって話」


「そんなことしてたなんて………」


 美佳が目を見開く。


「けど女性警官はかなり感謝してるらしいよ」


「え?」


「鹿島警視正ご本人に対してはもちろんだけど、他の女性警官にもセクハラしているって知られたら、自分も同じような目にあわされるかもしれないって、気を付ける人が増えたって聞いたよ」


「お母さんのおかげでセクハラが減ったっていう事ですか?」


「そういうことらしい」


「それなら良かったです!」


 美佳は笑顔を見せた。


「日向さんって古武術でもやってたの?」


 鯰が聞いた。


「え?」


「攻撃方法があまりにも実戦的だから。普通の人は中々使わないでしょ、急所蹴りと肘打ちなんて。容赦無しって感じだから、相当怒ってたんだろうね」


「そう言われてみれば確かに………お母さんの実家が道場だから子供の頃から剣道をやってたのは知ってるけど、古武術とかそう言うのは知らない」


「やっぱりすごいね日向さんって、なんか独特のオーラを身に纏ってるもんね」


「そう?私は気付かないけど」


「怒ったら絶対怖いでしょ」


「それは間違いなくそう!私がお母さんのメイク箱の中にミミズの干乾びたやつを入れたのがバレた時には、ものすごい目で睨んできて、それだけで子供の頃の私は泣いちゃった記憶があるもん」


 美佳がすごい勢いで喋り出した。


「そんなことしてたの?」


「幼稚園くらいの時の話よ」


「僕も怒らせないようにしないとね」


「鯰も一回くらい怒られておいた方が良いわよ」


「なんでよ!」


「なんとなく………」


「なんだか心配になって来たなぁ………」


 福本が不安そうな声を出した。


「どうしました?」


「もしかしたらさっきのって言っちゃいけない話だったりするのかなぁ」


「セクハラ教官を成敗した話ですか?」


「うん。鹿島警視正が自分から言わないってことはそういう事かもしれないでしょ?なんだか余計なことを言っちゃった気がするなぁ………」


「確かにそうですね、福本さんマズいんじゃないですか?警察って上下関係にすごく厳しいイメージがありますから、警察官になった途端に、日向さんに虐められたりするかもしれませんよ」


 鯰が笑いながら言ったが、福本は笑わなかった。


「ねぇ頼むよ、鹿島警視正には僕から話を聞いたなんてこと言わないでよ?僕なんかじゃとても太刀打ちできない御方なんだからさ」


 本気の表情で鯰の肩にしがみつく。


「言いませんよ」


「本当だよ!?冗談とかじゃないからね?」


「言いません」


「よかった、ありがとう」


 福本は心底ほっとした表情をした。


「そんなに怖がらなくてもいいんじゃないですか?」


「怖いよ、本当に怖い………」


 美佳の冗談のような言葉にも、一切笑みを浮かべることは無い。


「噂の通りやっぱり警察官って上下関係厳しいんだろうね」


「まあ、私達には関係ないからいいでしょ」


「そうだね」


「それじゃあそろそろ帰りましょうか」


「うん」


「ふたりとも今日はありがとうね」


 見送られながら警察署を後にした鯰と美佳はお土産を買いつつ家路についた。


 その道中も何だか清々しかった。そこまで大きなことをしたわけじゃないんだけど、達成感と満足感がすごくて、布団に入ってもずっといい気分だった。


 その後しばらくしてこの日のことをすっかり忘れていたある日、警察からこの日の件で感謝状が贈られることになったと連絡が来た。


 僕達にとってなかなかに思い出深い一日だった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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