22話
ここは銀座4丁目に建つ築地警察署数寄屋橋交番。レンガ造りのカラフルな造りで屋根の上に待ち針が刺さっていることでも有名な交番だ。
大勢の人が行きかう交差点の横断歩道を渡っていく一団が、周囲の目を引き付けながらその交番の前で立ち止まった。
「すいません」
芦屋鯰が中にいる警察官に声を掛けた。
「はいどうしましたか、え!?」
驚きの声をあげたのは福本裕太。警察官の格好こそしているものの実際は警察大学校の生徒であり、現在はこの交番で実務実習の最中。
声を掛けられたので道案内か何かだろうと思って顔をあげた。
そうしたら高校生くらいの男女が背中に小さな子供を背負っていて、その後ろには親子らしき黒人の3人がいて、体の大きな男の人がドーベルマンの首輪を手で直接持っているという異様な光景があった。
「困っている人を見かけたので連れてきたんですけど………」
「なるほど、それじゃあ事情を聞かせてもらっていいかな?」
「いま僕が背負ってる子の名前は松橋健斗くんで、美佳が背負っているのが松橋瑠璃ちゃん。ふたりは内緒でお母さんのお誕生日プレゼントを買いに行こと思ったら途中で迷子になったそうです」
「ふんふん、ふたりは迷子ね………」
福本は少しずつ落ち着いてきているように見えた。
「こちらはスコッティ一家で、日本に観光でやって来たアメリカ人なんですが、写真を撮っている時に、自転車に乗っていた黒い服の男にスマホを持って行かれたそうです」
「ふんふん、こっちのご家族は盗難被害と………」
「この犬の名前はマイケルで、クラクションの音にびっくりして鎖を引き千切って走っていたら、自分がどこにいるのか分からなくなったみたいです」
「ふんふん、迷い犬か………ってどうやって犬から話を聞いたのさ」
「すいません、犬の話はただの想像です。首輪に付いている鎖が千切れているので、逃げてきた飼い犬だと思います」
「そういうことね」
「じゃあ僕たちはこれで………」
「ちょっと待って。困ってる人を連れてきてもらったのは感謝してるし立派なんだけど、規則で色々と書類を書いてもらわないと駄目なんだよ。あと………」
福本はドーベルマンのマイケルを見た。
「僕が大きい犬が苦手だからしばらくの間そのまま押さえててもらえるとありがたいんだけど」
「大人しい犬だから大丈夫ですよ」
「君たちにとってはそうかもしれないけど、僕は子供の頃に追いかけられてから苦手なんだ、ねえ頼むよ。ここにはリードも無いし繋いでおく場所もないんだから頼む」
福本は本当に犬が苦手らしく両手を合わせて頼み込む。
「わかりました、少しの間だけなら」
「ありがとう、助かるよ。いまから本物の警察官に連絡して来てもらうようにするからさ」
「本物の警察官?っていうことはあなたは偽物ですか?」
「交番に偽物の警察官なんて、そんなことある?!」
そこにいる全員が一斉に福本を疑いの目で見て、マイケルが勢いよく吠え始めた。
「いや、偽物とかそういうのじゃなくて………」
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