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21話

 


「Excuse me………」


 交番へ向かい子供をおぶっている僕達の前に飛び出してきたのは、親子らしき黒人の3人だった。


「Excuse me, my phone was just stolen. Could you please help me?」


 身長2m以上はありそうながっちりした体格のお父さんらしき人が、まっすぐな目で僕を見つめてくる。


 優しそうな目をしているから恐怖感は無いけれど、残念がら僕には彼が何を言っているのかはさっぱり分からない。


 実は少し前から彼らの姿は僕の目にも入っていたのだけど、道行く人は全員逃げるようにして彼らから遠ざかっていた。なので、おんぶしているせいで歩くのが遅い僕達に目を付けたのだろう。


「美佳GO!」


「ふぇ!?」


「なんか困ってるみたいだから話を聞いてあげて」


「わたしが!?」


「そりゃそうだよ。この子達に頼むのはさすがに難しいでしょ」


 背中におぶっている子供たちに視線を送る。


「そうじゃなくて鯰が聞いてあげればいいでしょ?」


「僕に英語なんか理解できるわけないでしょ?」


 僕は笑った。


「私なんかよりずっと適任でしょ!?高校生だし、私の家庭教師じゃないの。鯰がなんとかしてよ」


「この前美佳が見せてくれた英語のテスト、ほとんど満点だったじゃないか。この場面で適任なのは君だ」


「学校のテストと実際の会話じゃ全然違うわよ!」


「できる、美佳ならできるよ!」


 僕達がこれだけ声を張り上げて醜い争いをしているというのに、周りの人たちはただ通り過ぎていくだけで助けようとはしてくれない。


「こまってるみたいだよ?」


「おねえちゃんたすけてあげる?」


 子供たちも心配そうな声で言った。


「さあ頑張れ美佳!日本人の親切さと頭の良さを見せてやるんだ」


「まったく何よ、適当なこと言ちゃって………」


 ぶつくさ言いながらも美佳は覚悟を決めたようだ。お父さんらしき人は僕に話しても駄目そうだと思ったようで、今度は美佳の方へ視線を移す。


「What can I do to help?」


「おお!英語だ英語だ!」


「「がんばえー!」」


 美佳の口から出てきた英語に僕たちは歓声をあげた。出来ないとか言ってた割にはかなりできているような気がする。


 その後も時には、つっかえたり止まったりしながらも美佳は何とか頑張って英語で会話を続ける。相手も気遣ってゆっくり喋ってくれているということもあるだろう。それでも僕には彼らが何を言っているのかは何も分からなかったけど。


「We're going to the police station. Do you want to come with us?」


「Thank you. We will go to the police station with you.」


「Come with us.」


「Thank you. 」


 いまサンキューって言ったぞ。いくら僕でもサンキュー位は分かる。雰囲気的にもお互いの間で何か話がまとまったようだ。


「なんかこの人たち、誰かにスマホを盗まれたみたい」


 美佳が振り返って言った。


「やっぱりちゃんと聞き取れたんだ、すごいよ」


「めちゃくちゃ大変だったわよ、発音がものすごい本格的で。途中からゆっくり喋ってくれたからよかったけど、そうじゃなかったら途中で逃げてたわ」


「頑張った頑張った」


「がんばったがんばった!」


 僕は子供たちと一緒に拍手した。


「そういうのいらないから」


 そう言いながらも美佳は明らかに照れていた。


 この子は言葉がキツイ時があるけれど、悪気なく言っていることが多いので額面通り受け取らないことが大事だ。


「だから私が、私たちは今から交番に行くつもりだから一緒に行くか?って聞いたら、彼らはぜひ一緒に行きたいって言ってる。あとは警察が何とかしてくれるでしょ」


「おー!」


「すごーい」


「おねーちゃんかっこいいー!」


「まったくもう、鯰のせいで全身汗だくになったわ」


 手を団扇のようにして顔を扇ぐ。


「さすがは美佳!えらい!」


「えらい!」


「そんなのでおだてられて喜ぶほど単純じゃないんだけど………」


 そう言いながらもどこか満足そうな顔をしている美佳。


「レッツゴー!」


 僕は適当な方向を指さしながら叫んだら、彼らも同じように指を指して叫んでくれた。


 こうして僕たちは新たな仲間を3人引き連れて交番へと向かった。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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