18話
「すご………」
僕が最初に選んだ一枚だけがハートのエースで、残りの全部がジョーカー。思ってもいなかった光景に美佳の声がこぼれた。
「賭けは私の勝ちだね」
満面の笑みを浮かべたマーリンが言った。
賭けには負けた、だけど今はそんなことどうでもいい。あまりにも予想外であまりにも鮮やかで鳥肌が立っていた。
「手品ですか?」
「さあそれはどうだろね………何でもかんでもしゃべっちまったら面白くないだろ?」
「なるほど………」
「それじゃあ約束通り私のいう事を一つ聞いてもらうよ?」
「わかりました」
僕の返答に満足そうに頷いた後で、鞄の中を探しているマーリンの姿を見ながら思う。
さっきラブホテル街で占い師をやっていて儲かるのかと聞いたら、ぼろ儲けだと言っていたけど、それはきっと彼女の腕があってこそだ。こんなに鮮やかな手際を見せられたら人はお金を払ってしまう。
「なによ鯰、負けちゃったじゃないの」
美佳が少し拗ねたような表情で言う。
「あれはもうしょうがないよ」
「そうね、あまりにすごすぎて悔しいって気持ちにもならない」
美佳はあっさりと認めた。
「それじゃあ鯰と美佳にはこれを身に付けてもらおうかね」
体を起こしたマーリンがテーブルクロスの上に銀色の小さなものを二つ乗せた。
「指輪ですか?」
「きれい………」
細い方の指輪には緑色をした小さな宝石が付いていて、太い方の指輪には内側に同じものが付いている。
「細い方が女性用で、太い方が男性用ですか?」
「そうだよ」
「シンプルなデザインですけど、その分洗練されていて美しいですね」
美佳はすっかり見惚れている。
「いいだろ?地味なぶん時間が経っても古臭く感じないからね。大昔に骨董品屋で見つけた私のお気に入りの指輪さ………」
「お気に入りならどうして?」
マーリンは勝負に勝って、これを僕達にプレゼントしてくれようとしている、その理由が分からない。
「いいんだよ、だってそいつはもう私の指には嵌まらなくなっちまったからね」
「?」
「人間年を取ると指の太さが変わっちまうんだよ。だから私にとってそれはもう指輪じゃなくて置物さ」
今までずっと笑顔だったマーリンが寂しそうに言う。
「引き出しの中で見かけるたびに、こいつが新しい主人を探しているような気がしてたんだ」
細い方の指輪を撫でながら言う。
「お気に入りだからこそ指輪であってほしい。あんた達が貰ってくれるなら私としてはありがたいね」
「どうして僕達に?」
「勘だよ」
「勘ですか」
「そうだよ、私は自分の勘を信頼してここまで生きてきたからね」
静かに、そして力強く言い切った。
「ねえ鯰、どうしようか?」
「貰っちゃっていいと思うよ」
「軽いわねぇ………」
呆れたような顔をする美佳。
「思ったよりもずっと慎み深いんだね。若いんだから遠慮なんかしなくていいのにさ」
笑うマーリンの中ではもうとっくに心の整理がついているように見えた。
「それではありがたく頂きます」
言いづらそうな美佳に代わって僕が言った。
「そうしておくれ」
「ありがとうございます!」
マーリンは笑顔を見せた。
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