10話 ~鯰と鹿~
「川?一緒に行ってくれる?」
「はぁ!?なんで私があんたなんかと一緒に行かないといけないのよ!」
「僕だって別に川には行きたくないよ」
「それはあんたの名前が鯰だからでしょ!」
そんな事も分からないのかと、見下すように言ってきた。
普通の人にこんな感じで何か言われたら相当腹が立つと思うけど、許せる。
それは彼女が持つ金色の髪が窓からの光を浴びてふわふわで綺麗だし、美人な女子中学生だからなのかと思う。やはり言葉と言うのは誰が言うのかがすごく大事だ。
だから僕は怒ること無く冷静に頭を回して反撃した。
「それを言ったら鹿島さんだって鹿じゃない。奈良に行って鹿せんべい食べないといけないんじゃないの?」
「ぐむむっ、」
自分の唇を食べるつもりなんじゃないかと思うほどに、唇をかみしめた。我ながら良い反論だったと思う。
「名前理論で言ったらそうなるよね?」
「あんたさっきから、ああ言えばこう言うでいちいちうるさいのよ!」
ぎろりと睨みつけて来た。
「それは最初に「ああ言えば」があるから「こう言う」になるわけじゃない。お互い様じゃないの?」
「意味わかんない!」
怒り過ぎて頭が回らなくなっているらしい。
「そっちが何も言ってこなければ、こっちだって何も言わないって事だよ、分かる?」
「うるさい、マジでうるさいんだけど!」
「ごめんごめん」
「適当に謝るな!」
さてどうしようか、あまり有意義とは言えない会話を適当に続けつつ考える。僕に与えられた任務は、彼女の話し相手になってストレス解消させること。
今のところは全く達成出来ていないし、むしろ逆かもしれないけど無駄とは思わない。
ここまでのやり取りで彼女の性格とか人柄は何となくわかったし、それは向こうも同じだろう。僕達は今遠慮なく言い合えるだけの関係ではある。
ここらへんで、なにか仲良くなるきっかけはないだろか………。
男女が仲良くなるには一緒に食事をするのが良いらしいけど、それはさすがにそれは難しいだろう。
これだけ言いたいことを言い合ったのだから、なにかきっかけさえあれば仲良くなれるような気がする。なにか、なにか………。
ん?
あれってもしかして………。
「なによ?!なんで来んのよ!」
僕が一歩距離を詰めたことで彼女は身をこわばらせた。
ついに僕が怒り出したのかと思ったのかもしれないけど、気になったのは彼女の肩越しに見える奥のもの。
あれは………。
「シャーロックホームズ好きなの?」
僕は聞いた。
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