好き好きアピールする義妹と気付かない義兄
趣味の押し付けが嫌われる行為だと気付いたのは中学生の頃だ。
自分が一番好きなものは他の人だって好きに決まっている。そんな自分勝手な思想で自分の好きを布教しまくった結果、俺は孤立した。
いやまぁ、幼さゆえの過ちというか、自分の好きはあんまり一般受けしないんだなぁと悟るまで時間がかかったという感じだ。
別に布教がまったく成功しなかった訳じゃない。
とりあえずやってくれた人も中にはいた。
だけど続かない。
面白いのは認めるけど他にもやることいっぱいあるし、といった感じで優先順位がだいぶ下の方。そして一度やめてしまうと再開するだけの熱量を持ちえない。
お互いがお互いを理解できなかった。ただそれだけだ。
高校に上がってある程度人間関係がリセットしたから今はもう気にしていない。
昔のやらかしを知ってるヤツもいるがお互い成長したし不可侵の領域があるって理解したうえで友達付き合いができるようになった。
ただまぁ、やっぱりさみしいものはさみしい。
マイナージャンルで語り合える仲間がいないというのは地味にモチベーションに響いている。
そんな折、人生の転機があった。
「義兄さん、趣味の押し付け合いをしませんか?」
義理の妹が新しくできる経験をしたことがある人はいるだろうか。
弟が結婚したらその相手が義妹となるから割と自然にあるかもしれないが、俺の場合は親の再婚。そもそも一人っ子で兄弟なんかいない。
いや。いなかった、が正しいか。
とにかく、俺こと原田康太に新しい妹ができて、その妹、原田舞依がかなり変わっているという話だ。
「来歴で価値が変わるの納得いかないしそもそも西洋美術なんてアトリビュート知らねえと何描いてるかも分からねえじゃん」
残暑が終わり冬になる束の間の日曜日。
俺は舞依に連れ出されて美術館にきていた。2週間くらい前から西洋美術のイベントをしているらしく、それを見たいという舞依のお供だ。
目的の美術館は最寄り駅から歩いていけるところ。黙って歩くのもなんなので少し話しながら向かっている。
芸術の秋とか興味はなかったんだけど俺の義妹はそういうのが好きらしい。
人の好きはできるだけ否定したくないが俺達の間ではどの部分がハードルになっているかを言語化する場合はOKと取り決めているためそれをできるだけ具体的に伝える。
正直義兄妹歴が1年未満の距離感としてはかなり近いと思う。四月に同居が始まって、夏休みになるちょっと前くらいに趣味を曝け出しあってはや三ヶ月。
ついに二人きりでお出掛けするまで至ってしまった。
なんというか、年は二つ下――俺が高二で舞依が中二――なんだけど大人びているから普通にドキドキする。
中学の制服でも着てくれればまだ年下感があるけど今は私服で普通に男女のデートっぽい。
でも仮に恋人からのお願いだとしても美術館なんて興味なさすぎて誘われても断る自信がある。
そう考えると舞依は恋人というよりは家族寄りになるかもしれない。
「ゲームも似たようなものですよね。それにFPSとかリズムゲームとか、一つできるようになったら同じジャンルのゲームができるようになる期間短くなりますし、知っていけば案外分かるものですよ」
「悔しいけど納得してしまった」
最初のハードルはそこそこ高いが一度覚えてしまうと汎用的に使える。
そんなものは世の中にたくさんあって舞依の趣味もその類だった。
マイナージャンルは初心者にいかにそのハードルを乗り越えさせるかがキモとなる。というか無理矢理乗り越えさせた過去がある。
「ふふっ。でも今のやりとりちょっと楽しかったです」
「そりゃあ言い負かした方は楽しいでしょ」
「そうじゃなくて」
そこで舞依は一度言葉を切る。
得意気に人差し指をたててポーズをとった。
「来歴やアトリビュートは専門用語ですからね。知らないから否定する人よりよっぽど議論し甲斐があります」
誰がその美術品を所有していたのかが来歴。
無名な作品も有名なコレクターが所有したらその時点で価値が上昇する。俺からすると意味不明な世界だ。
アトリビュートはまだ少し分かる。
誰を描いたか分かるようにモチーフを決めてそれを共有概念としたものだ。キリストを描く場合は子羊だったりな。
知っていればそこそこ楽しそうだがそれを知るには西洋美術にどっぷりハマらないといけない。ちょっと順序が逆じゃないかと言いたくなるがこれはよくよく考えたらゲームでもあるあるだ。
本気になりさえずればどの趣味もそこそこ楽しいんだよなぁ。
まぁゲームの場合は本気を要求される時点でクソゲーの烙印を押される訳だが。
「あ、義兄さん。カップル割引がありますよ」
「お前なぁ。……好きな人とかいるならやめといた方が良いぞ」
「美術館巡りに付き合ってくれる彼氏さんに心当たりはないですよ」
「あー。だろうな」
俺だって可愛い義妹の頼み、そこにプラスして布教しあってる契約関係があるから付き合ってるだけで、さっき言った通り例え恋人の頼み事であろうとここまでしない。
なんなら別れるまである。価値観が合わない人間と関わるのは時間の無駄だ。
まぁ誰かと付き合った経験なんてないからただの妄想だけど恋愛の優先順位が低いのは普通だと思う。
舞依もそれが分かっているからか俺の趣味にそれなり以上に挑んでくれている。
どのくらい熱量をもってくれているかは分からないが俺の方が先駆者なんだから舞依がどれほどの時間を費やしてくれているかくらいは簡単に分かる。
せめてその分くらいは返したい。
「そういう義兄さんこそどうなんです?」
「安心しろ。俺は恋人とかいらないタイプとできないタイプのハイブリッドだ」
「義兄さんがそう思ってるならそれで良いですが……」
学生証を取り出しながら受付へ向かう。
なんで学割とカップル割が併用できちゃうんだよ。
そういうのできないことの方が多いだろ。なんて内心毒づくが舞依はかなり可愛い女の子な訳だし俺にデメリットはない。
身内になったのはつい最近なんだがこういうのも身内贔屓なんだろうか。
いやデメリットあった。
舞依がかなりオシャレな所為で隣を歩く格好に気を遣わなきゃいけない。
服なんて着れればなんでも良かったはずだが舞依に合わせてそれなりに整えなくちゃいけなくなった。
寝ぐせも休日はほったらかしだったのに今じゃ出かけない日もちゃんと直すようになってしまった。
ドライヤーとかヘアアイロンとか、ちゃんと役に立つアイテムだったんだな。今まで無視しててごめん。
「義兄さんが思ってるほど義兄さんが恋愛下手とは思えないんですよね」
「はいはい。おだててもおだてなくても入館料くらいは払いますよ、と」
「むぅー。ありがとーございます」
中学では許されなかったバイトが解禁され、特に家にいれろともならなかったので俺が使える金額はそれなりに高い。
もちろん学生レベルだがお小遣いしかない舞依よりよほど自由にお金を使うことができる。
「カップル割ですね。ただ今カップルの証明のために名前で呼び合おうキャンペーンをやっています。やってもやらなくてもカップル割は適用されますがどうしますか?」
ん?
聞き間違えか?
「やらなくても良いの?」
「はい、その通りです」
受付のお姉さんがおかしなことを言い出した。
かえってきた学生証をしまいながら意味を考える。
やらなくて良いなら普通はやらないよな。
あ、混んでない時限定ってポップに書いてある。
「じゃあやらずに……」
袖を掴まれた。
もちろん犯人は舞依だ。
どうしたのかと振り向くと
「康太……、さん」
遠慮がちではあったけど確かに、か細い声が聞こえた。
恥ずかしそうに一度目をふせてからこちらを見上げる。正直名前で呼ばれる機会なんて全然なかったから心臓が跳ね上がったよ。
いやいや、何故やった。やる必要ないって今聞いたばかりだろ。
「……あー、その」
改めて名前を呼びあうのって結構恥ずかしいな。
でも言わなきゃいけない雰囲気だよなぁ。
「舞依」
「はい。カップルの証明ありがとうございます。彼氏さん、彼女さん離しちゃ駄目ですよ」
受付のお姉さんはすごく良い笑顔でそんなことを言う。
『初々しいカップルからしかとれない栄養素がある』ってはっきり顔に書いてある。
当事者としての感想は、その。まぁ悪くない。
そもそもやらなくて良いことをやるってことは冷やかしてくださいって意味とほぼ同義なんだしこのキャンペーンの需要は分かりたくないが分かってしまった。俺達が供給している側かもしれないがそこは気にしたら負けだ。
義妹との疑似恋愛と聞くとアレだが一年前は知りもしなかった可愛い女の子を妹としてしか見ない奴は逆に変態と言って良い。
「ほら、行くぞ」
本来なら美術館巡りを主導するのは舞依だが今はキャパオーバーのようで、仕方ないから受付の邪魔にならない位置まで手をとって歩いていく。
手、やわっこいなぁ。
一緒に暮らしているとはいえ舞依は年下で異性だしあんまり関わらないように遠慮していたが思っていたより嫌われてないようだ。
「不覚です。義兄さん相手にかなりドキドキしました」
「いや、自爆しただけだったぞ」
恨みがましそうな目で見られても事実は事実だ。
だから言い返すことができないんだろう。
「まぁ、一生縁がないと思ってた恋人気分を味わえたので良しとします」
「それはあるな。恥ずかしい思いをした甲斐はあった」
ラブコメが今も昔も1ジャンルとしての地位を確固たるものとしている理由がちょっと分かる。
舞依は可愛いし会話も弾む身近な異性。なんなら一緒に暮らしている分そこらのカップルより進んだ関係と言える。
舞依が正気に戻った段階で手を離したのは早計だったかもしれないと感じながらも経路と書かれた矢印に従って進んでいった。
「えと、赤と青の服だから聖母マリア? お、当たった。赤ん坊二人いるけど片方がキリスト?」
聖母マリアのアトリビュートは赤と青の服。絵のタイトルで確認したらちゃんと合っていた。確かもう一つあったような? あぁ百合か。
マリアだけだと誰か分からなくなるので聖母マリアと一息に覚えたからどんな人なのか一発で分かる。キリストの母親だ。
「……。…………。……………………。……はい。そうです」
「なんか間があったけど」
「私も義兄さんもクリスチャンじゃないので良いかなぁ、と。実は"イエス"と"キリスト"と"イエス・キリスト"って全部違うんですよ」
おーう。
舞依の趣味の世界やべぇな。
別に西洋画が特別好きという訳じゃないらしいからこれは本当に基本中の基本なんだろう。既に心が折れそうだがせっかく美術館に来たんだしもうちょっと頑張る。
とりあえずその3つが違うとだけ頭に入れてから思考停止。せっかく舞依が初心者用に嚙み砕いてくれたのだからそれに乗っかろう。
「よろしければ解説いたしましょうか?」
美術館の制服を着た職員さんに声を掛けられた。
スラっとした俺達より少し年上な感じの女性で結構な美人さん。
「あ、じゃあお……」
くいくいっ。
舞依に袖を引かれたので言葉を止めて義妹の方を見る。
身長が高い――高いってほどじゃないが――ことによる利点は数多くあるけど一番は自然に女の子が上目遣いになってくれることじゃないかな。至近距離じゃないと効果がないから今まで知らなかった。
なんて思ったのは一瞬で舞依の視線はすぐに職員さんの方に向く。
ちょっと残念。
「あの、私が説明するのでその、大丈夫です」
「それは差し出がましいことを言ってしまいました。申し訳ありません」
「い、いえ。その」
「ごゆっくりおくつろぎください」
頭を下げられたのでこちらもぺこりとお辞儀を返す。
舞依はこういう解説聞くの好きだったと思うんだけど今日はどうしたんだろう。
「ごめんなさい。義兄さんもあんな人に解説してもらった方が良いですよね」
「え? あぁプロにってこと? 舞依が楽しそうに話してるの聞く方が断然良いよ」
「いやその、あぁいう美人さんじゃなくても良いんですか?」
「それなら尚のこと舞依に説明してほしいんだけど」
自分の容姿を理解できてない美少女はこれだから。
それに金を払った人にだけ優しくする職員さんがいくら美人だろうと空しいだけだ。
「……じゃあしょうがないですね。義兄さんがそう言うなら一つ一つ解説していきます」
「数多いし全部は無理だからな」
「え~」
え~、じゃない。
「今日一日でだいぶキリスト教に詳しくなった気がする」
「こんな場面でもないと使わない知識ですけどね」
「宗教はなぁ」
「人を纏めるのに便利な道具とは思います。スローガンとかを決めるのも広義の宗教みたいなものですよね」
「支配者側の発想じゃん」
別にこのまま家に帰っても良かったんだけど舞依の提案で寄り道することになった。
煩くならないように気を付けながら予定よりだいぶゆっくり回り、美術館の近くにあったファミレスのチェーン店でのんびりお茶にする。
舞依と向かい合って座り、適当に頼んだデザートをつつきながら美術館で見たことを振り返っているところだ。
「義兄さん、人を殺してはいけないのは何故ですか?」
「え? あー。罪に問われるから? 殺人罪とか」
「じゃあその刑法が全部なくなれば人を殺しても構わないですか?」
「うん? えー」
そりゃあもちろん駄目なんだろうけど、どう否定するべきか悩むな。
報復される可能性があるからだろうか。
それちょっと違うな。
「その倫理観が反映した世界じゃ安心して眠れないから、とかか?」
「深く考えなくて良いんですよ。殺してはならない。姦淫してはならない。盗んではならない。全部神様がそう言ったから駄目なんです」
宗教便利だなおい。
神が言ったから駄目、か。なるほど理屈全部吹っ飛ばして共通の思想を構築するなら手間はかからない。
「義兄さん、少し下世話な話をしません?」
「……どうぞ」
断る選択肢もあるにはあるのだが、今日は舞依に付き合う日。
嫌な予感がひしひしと迫ってくるのは分かってるんだが付いていけなくなるまでは頑張ろう。
「マリアと婚約していたヨセフって覚えてますか?」
「確か大工だったよな」
「はい。ヨセフは突如マリアに妊娠したって伝えられるんですけど、その時どんな想像をしたと思います?」
婚約者に妊娠を告げられる。
処女懐胎を真っ先に思い至るヤツはいないだろう。
行為をしたのなら心当たりがあるはずで、ないのだから……
「マジで下世話な話じゃん」
「だから前置きしたじゃないですか」
浮気。不貞。不倫。
まぁそういうことだろう。
えぇ……。キリストの誕生ってそういうことなの?
「だからってなぁ」
「女の子だって下ネタくらい話しますよ。むしろ男子よりえぐいんじゃないですかね」
「まぁ少年漫画と少女漫画じゃ次元が違うもんな」
「そんな感じです」
そういうのばっかりとは言わないけどえぐい奴同士を比較すると少女漫画の方がヤバい。
酒、タバコ、ギャンブルに手を出してる男の教師が教え子の女子高生に手を出そうとする漫画まである。
というか盗聴ストーカーは当たり前にやってて女の子側もそれ前提で行動するくらいにはぶっ飛んでた。
少年漫画なら一発アウトだ。ギャグか悪役側ならギリギリいけるかもしれないくらいか。
なんで少女漫画知ってるかって?
もちろん情報源は舞依だよ。
漫画の貸し借りなんて趣味の押し付け合いのだいぶ最初の方で終わらせたからな。全部読んで感想言うのを条件にすればすぐ貸してくれるしなんならこっちも無理矢理貸す。
電子書籍だったら家族でシェアできるから貸す必要すらない。
「で、浮気だとしてそこにマリアの意志ってあったと思いますか?」
「は? あー。うわマジで?」
「乱暴された可能性だってある訳です。その場合イエスを育てたヨセフは聖人って言って良いと思います」
「下手に話すと俺がセクハラ認定されない?」
「話題ふったの私なんですからしませんよ」
「そうだとしても女の子の口からはあんまり聞きたくない話題なんだけど。というかその……」
「知らないと自衛もできないじゃないですか。知ってますよ」
女の子にはキラキラしたものを求めていたんだと自覚させられた。
自慢じゃないが普段舞依以外の女の子と関わらないから全然知らなかった。
幻想だったみたいでちょっと悲しい。
「はぁ。まぁいいや。なんだっけ。あぁ、マリアが浮気したのか襲われたのかって話か」
予想通りロクでもない話題でだいぶエネルギーを消費した。
だけどまだもうちょい頑張れるはず。
「あと可能性としてあるのはヨセフがヤったけど隠してる、いやひょっとして忘れてるとかあるか?」
「……。あるかもしれませんね。聖書にもよくワインが出てくるので酔っぱらって記憶を失うは充分ありえそうです」
「ワインが水より安いって奴か」
「質によってはそうかもしれませんが、聖書だと水をワインに変えているので少なくともイエスの時代は水が貴重ってことはなさそうですよ」
「それ酔っぱらって味の区別がつかなくなったんじゃ」
「酔いがまわってからの話なのであるかもしれませんがそもそも色が違うじゃないですか」
「ガラスのコップが一般に出回ってた訳じゃないんだろ」
「知りませんけどそうでしょうね。いや待ってください。確か甕の水をワインに変えたのでそこから木か陶器か知りませんけどそのコップに移すはずです」
心理的なトリックか物理的なトリックか分からないな。
水をワインと言い張っただけ、みたいな場合はどうしようもない。
ただ世界を7日かけて作っただとか海を割っただとかよりよほど再現できそうだから何らかの手品を使ったのかも。
「酒で忘れるのがアリなら想像妊娠も考えられますね」
話を戻されてしまった。
俺としては水をワインに変える方法考える方が気が楽なんだけど。
「なに? こんな話好きなの?」
「話せる人いないんですよ。溜まってるんです」
前提として宗教の話だからなぁ。
政治と併せてタブーみたいなもんだ。
タブーじゃない人だっているかもしれないがそれこそ危ない話を持ち掛けられそうで自分からするのもされるのも怖い。
「それにこれと言ったオチがある訳じゃないですからね」
「あ、オチないんだ」
「はい。思ったことを言っているだけですし、単なる雑談でするような内容にしてはリスク高すぎる要素が複数あるので受け止めてくれるのは義兄さんくらいです」
だろうなぁ。
でもそんなレベルで良いのか。
じゃあ俺もただ思ったことだけ言えば良いや。
「ヨセフが聖人とアル中のどっちかってことね」
「私としては思ってたよりずっと聖人だって言いたかったんですけど、義兄さんの新説では酒に呑まれるクズな訳です」
「人聞きの悪いこと言わない」
腕を伸ばして右手をデコピンの形にする。
そうしたら舞依は何故か自分からおでこを差し出して来たので遠慮なく中指で弾いてやった。
「えへへ。義兄さんに怒られちゃいました」
嬉しそうな声を出す意味が分からん。
ただテーブルの向こう側でおでこを抑えながら笑っている姿は大変可愛らしい。
笑って誤魔化されるパターン多い気がするが嫌われて距離を置かれるよりずっと良い。
「こんな感じのスキンシップって実はちょっと憧れてたんですよ」
「兄妹っぽい感じの奴ね。この年になっても仲良い兄妹が実在するかは知らんけどフィクションならこれ以上だってよくある感じの」
義理の妹とか普通にヒロインの一人だからなぁ。
しかもちょいちょいメインだったりする。男向けだけかと思いきや少女漫画でもさほど珍しくはなさそうだ。
舞依が貸してくれる漫画もよく義妹が主人公だったりするし、最終的に付き合うかどうかは別として創作の中ではどちらも恋愛感情がない方が珍しい。
「Todo lo que puedes imaginar es real. ですよ、義兄さん。パブロ・ピカソの名言です」
「……なんて?」
「教えません。自分で調べてください」
声を弾ませて上機嫌な舞依を眺めるのはなかなか有意義な時間だと思うが如何せん英語もピカソも門外漢だ。
まぁ舞依は本当に知ってほしい事柄ならちゃんと(早口で)言うタイプだし言わないってことは特に気にしなくて良いんだろう。
「? どうかしました?」
「いや、こんな休日も悪くないなって」
今まで興味の欠片もなかった美術館だが意外と楽しめた。
趣味の押し付け合いから始まった関係だがあの時歩み寄ってくれたことには感謝しかない。
これからも俺と舞依はこうやって趣味を押し付け合って……いや、紹介しあっていくのだろう。
「なら、また付き合ってくださいね、義兄さん♪」
Todo lo que puedes imaginar es real
スペイン語で「想像できることは全て現実だ」
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