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3、自分を知る

ズリュ…ズリュ…

ズリュ…ズリュ…


 さて、ここで問題です!タランッ!

 これは何の音でしょうか?

 正解は…俺が地べたを這いずって移動している音でした!

 わーぱちぱちぱちー!

 ……辞めよ。虚しくなってくる。


 俺がよく分からない泥の化け物に転生してそれなりに時間が過ぎた。

 実際に測った訳ではないので正確な事は言えないが、多分体感で数日は経過したかな?

 どっかの馬鹿が転生に失敗してくれたおかげで、俺は慣れ親しんだ人間としての肉体を捨て、動く泥として第二の生を歩むこととなった。

 おかげで人間では到底体験できないような日々を歩んでいられるよ。ありがとう、愛すべき糞よ。御礼にいつか出会うことがあったらその顔面を力の限り殴らせてくれ…。

 何よりこの体、移動がクッソ遅いのだ!

 先ほど言った通り、俺は今地面を這うようにして移動している。それしか移動方法がないのだ。

 何度も言うように、俺に体は完全に泥だ。もちろん、脚など生えていようはずがない。

 故に移動の時は完全にこの地面這いずりスタイルに落ち着く訳だが…まあこれが本当に遅い。

 当たり前だろう。地面を這いずってるだけなのだから。

 歩くなんかより歩幅も小さいし、体を引っ張っている分、どうしても遅くなる。

 行きたい場所にすぐ移動できないので、半端じゃないくらいもどかしい。

 いるのかどうかは分からないが、もし仮にモンスターなんかと遭遇しても逃げ切れる自信はない。そのくらいに遅い。

 本当に、よくもこんな体にしてくれたなあのクソ野郎…。やっぱりいつかぶん殴ろう。

 …とは言いつつ、何も悪いことだけではない。この体になって得したこともある。

 この体、腹が減らないのだ。

 転生してから体感約数日間。俺はこれまで碌な食事を取っていない。

 途中洞窟の中なのに生えていた木に食えそうな実がなっていたので食ってみた(クソ不味かった)が、それ以外には何も口にしていない。

 にも関わらず、俺は未だに腹が減っていない。

 いや、空腹にならないだけではない。この泥の体は、排泄も睡眠も必要ないらしい。

 これまでしたいとも思わなかったし、眠くもならなかった。

 早々にあれこれ考えても無駄だと判断し、多分この体は色々都合のいい体なのだろうと言うことで無理矢理納得する事にしていたが、よくよく考えれば何もない洞窟で何も食べず、眠らずに活動できることは非常にありがたい。

 そこだけは感謝するぞ。ありがとう、クソ野郎…。


 …さて、そんなことはさておきだ。

 冒頭でサラッと言った通り、俺は現在、それなりの鈍足で洞窟の中を移動している。

 どこに向かっているかって?そりゃ洞窟の外に決まっているだろう。

 ここ数日間ずっと洞窟の中を探索し続けていたが、ここの洞窟、広すぎるくせに何もないんだ。

 もう本当に何もない。俺以外になにか化け物がいるのかとも思ったが、化け物どころか動物1匹見かけなかった。

 強いて言うなら水と鍾乳石と岩と謎の光る結晶が無数にある程度だ。

 そんな物しか無い洞窟に、これ以上長居する理由が何かあるだろうか?

 答えは否だ。何もない。

 何も無いならば、次にやる事は簡単。何かある場所まで移動すれば良いのだ。

 相変わらずここが世界のどこなのかすら分からないが、まさかこの世界が全てこの洞窟だけで構築されているなんて馬鹿げた事は流石にないだろう。

 とりあえず転生したのは良いものの、この世界について分からないことが多すぎる。

 ひとまずは洞窟の外に出て、この世界に関する何かしらの情報を得ないことには何も分からんままだ。

 今は洞窟の外には別の何かが待っていると信じて、ひたすら前進あるのみなのだ。

 これでこの洞窟こそ世の全てです、なんて言ってみろ!俺は勝手にこの世界に泥として転生させたクソ野郎を死ぬまで恨んでやるからな!


<解答。この世の全ては洞窟ではない。>


 うおっ!びっくりした!!

 俺が心の中で悪態をついた直後、突如頭の中に何かの声が響いてきた。

 とても人間が発しているとは思えないくらいに冷たい、システム音声のような声だった。

 この世の全ては洞窟ではない?よくわかんないが、それは単にこの世界はこの洞窟だけで完結しないって解釈して良いのか?

 …いや、それよりちょっと待て。誰だお前。


<解答。『解説』。>

<解答。そのままの意味。>


 …は?いや、それだけ?

 頭の中の声はそれっきり一言も喋らなくなってしまった。

 いやいやいや、ちょっと待て!それで納得できるか!全く何のことなのか分からねぇよ!

 解説ってなんだ!まずはそこの解説から入るべきだろうが!分からないことを分かるように説明することが解説って言うもんだろうが!


<解答。オリジナルスキル『解説』は、現在あなたが獲得しているスキルの1つ。>

<効果:生物、物体、その他あらゆる事象に関しての説明を行う。それ以上でも、それ以下でもない、それ以外の事は何もないスキル。>

<なお、全ての情報の解答、開示には一定の知識が必要。最低限、自身が見聞きした事柄に対しての情報開示が可能。>


 ふむふむ、なるほど…?

 つまりお前は、俺が疑問に思ったことに関しての解答を答えてくれるスキル…言わば能力みたいな物なのか?

俺が見聞きした情報に関する事柄だけ情報開示が可能とのことだったが、さっきさりげなくこの世界が洞窟だけでできているわけではない事を教えてくれたよな?

 その事を問い詰めると、<解答。本当にこの世界が洞窟だけでできていると思っているのか。>と返された。

 あ、はい、すいません、思っていないです。

 どうやらさっきの情報開示は、このスキルにとっては情報開示などと言えるほどのものではなかったらしい。

 どちらかと言うと、呆れの方が正しいか?…とうとう自身の能力にまで呆れられたか…。

 …“説明を行う、それ以外に何もない”ってことは、本当に質問に対する解答しかできないって事か。

 "オリジナルスキル"って事は、スキルには他に種類があったりするのか?

 てかその前に、俺って他に何か持ってるスキルとか無いのか?

 頼む解説!今こそ出番だ!


<解答。スキルには計4つのランクが存在し、順に『技能(スキル)』『複合技能(オリジナル・スキル)』『群合技能(エクストラ・スキル)』『終結技能(ラスト・スキル)』と分けられている。>

<スキルは進化や体内の保有魔力の上昇など、肉体に何らかの成長が見られる度に習得可能であり、その複数のスキルを合成させる事で上位のスキルへと昇華させることが可能。>


<現在、あなたの保有スキルと効果…


解説:オリジナルスキル。生物、物体、その他あらゆる事象に関しての説明を行う。


一にして全:オリジナルスキル。自分を見失わない。


流動液状体(リキッド・ボディ):スキル。身体を液状に変化させる事ができる。自身が捕食した『生物』であれば、その生物に擬態する事も可能。


灼熱適応・極寒適応:スキル。環境的・人為的な熱さ、及び寒さに強くなる。なお、魔法的な熱さ寒さには適応されない。


…以上、計5つがあなたの保有スキルである。>


 …ん?ちょっと待て。

 直後、俺に電流走る。ざっくりとしか理解できていないが、なんかすごそうなスキルがいくつかあったな。

 解説、流動液状体と灼熱・極寒適応は理解できた。

 だが最後、一つどうしても意味不明なスキルがある。


 『一にして全』

 効果は非常にシンプルなものがたった一つだけ。


 『効果:自分を見失わない』


 はっきり言って、意味がわからない。

 自分を見失わない。言っていることは理解できるが、効果が全く理解できない。

 一応解説に聞いてみたりしたが…


<解答:そのままの意味>


 と返されただけだった。

 いや、そのままの意味なのは理解できるけど、そういうことを聞きたいわけじゃないんだよ!!

 全く意味がわからない。自分を見失う事がないって事は、催眠術とか洗脳とかそっち系のなにかを受ける事がないとか?

 いや、それなら普通に『催眠及び洗脳の効果を受けない』とかって表現をするはずだ。こんなまどろっこしい言い方はしないはず。

 一体どう言う意味だ?自分を見失わない…自分を忘れる事がない…自分?

 そんな事をぐるぐると考えていた時、俺はさらにある事を思い出してしまった。

 そういえば、俺って今何なんだ?

 俺はひとまず人間ではなくなった。こんなよく分からない動く泥の事をこっちの世界で人間と言うのか?それだったらこの世界だいぶやばいと思うけど…。

 解説!!教えろ解説!!

 俺は今何者なんだ!?俺のスキルについては情報開示出来たんだ。俺自身についても情報開示可能だろう!?

 今こそ出番だ!解説!


<解答。自身についての情報を開示。>

<…不明なエラーを検出。自身について不明な点が多数。情報の開示が可能な部分だけを抜粋して開示。>


<情報。


種族名:異形ナル者(ショゴス)


個体識別名:無し。


詳細:現状、世界に同種と思われる種族が存在しない完全新種と断定。類似種族に『液状生物種(スライム)』などが挙げられるが、あくまでも類似点が存在するというだけであり、非類似点の存在の方が多い。

食事、睡眠、排泄は不要。口に相当する部位は存在こそしているが、内臓の存在は確認されていない。身体魔力を活動エネルギーに変換して生存していると推測。>


 なんだと?

 それを聞いて、再びいくつかの疑問が浮かび上がった。

 やはりこの体は食事や睡眠、排泄などの必要性はないらしい。口は存在しているため、物を食べることはできる。だが、食べたものが俺の体の中でどうなっているのかは分からない。

 個体識別名…いわゆる名前?もついていない。人間だった時の名前は反映されないのか…。

 それよりも、だ。同族が存在しない?完全新種?

 つまり、結局俺がどういった生き物なのか詳しくはよく分からないって事か?

 それに…何か分からないが、ここでも“不明なエラー”が検出されたらしい。

 無理矢理転生させられた時にも、このエラーと言う単語は何度も耳にした。

 一体何を表しているんだ?

 俺の体から検出されているから、俺の体そのものに何か問題が?

 それとも、その転生を無理矢理行ったからこのエラーとか言うのが検出されている?

 ……どうやら多くの事を解説してくれるスキルを獲得したとは言え、俺がこの世界で知るべきことはまだまだ多そうだ。

 改めて俺はそう思ったのだった。


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