97 ライナーとの話し合い
「初めまして、ライナー・フォン・バルと申します」
「こちらこそ、ゲルハルディ家が嫡子、マックス・フォン・ゲルハルディだ」
伯爵令息の俺、騎士爵のライナー、爵位の上では俺の方が上位に見えるが、実際は爵位持ちのライナーの方が上ということでライナーから先に挨拶してもらった。
正直、この上位の者が名乗るまで下位の者は話しかけてはダメというルールも、前世持だと慣れないんだよな。
前世では下位の者は上位の者を知っていて当然だから、下位の者が一方的に名乗るだけというのが普通だったし。
「して、メーリング領を治めていただけるのですよね?」
「ほっほっほ、慌てなさんな」
「メーリング領の領主が逃げ出し、ゲルハルディ領と友好が結びたいということだろ?」
「はい。ですが、それ以上に領主など私の手には余ります。ですので、どなたかに領主を譲りたいのです」
「その話だが、俺もゲルハルディ領を治めるので精一杯だ。カレンベルク領の先のメーリング領まで面倒を見ろと言われても困る」
「……そうですか」
「ただ、近隣領から補佐を募ることは出来る」
ガックリと落ち込んでしまったライナーに対して、救いの言葉を伝える。
ライナーが領主に向かないと言っているのは書類仕事が苦手だからだというのは、周囲からも聞こえてきていた。
それ以外の領民に寄り添うこと、モンスター討伐に関してはメーリング領の誰よりも向いているというのは本人に会ってもわかったので、領主補佐を複数人つけて領主代理とすることにした。
ま、最終的に決めるのは陛下だが、俺と爺様の連名で陛下宛てに推薦状も書くことにしたし、多分ライナーで決まりだろう。
補佐に関してはゲルハルディ領をはじめとして周辺4領では、士爵が余っているので直ぐに集まるだろう。
ただの文官よりも領主補佐の方が権限も給料も上なので、栄転って感じだな。
「しかし、ここまでされてよろしいのでしょうか?」
「ああ。条件としてはゲルハルディ領と友好を結び続ける事が第一だ」
これまではメーリング領が王家派の貴族だったために、北東辺境伯との連絡には苦労した。
メーリング領がゲルハルディ領と友好を結べば、北東辺境伯との交易も盛んになるし、ゲルハルディとしても大助かりなんだな。
「それはもちろんですが……」
「……ふむ。マックスや。ライナー殿はそれだけでは気が引けるみたいじゃ」
「わかっていますが、何かやれることがありますか?」
ゴールディ国が戻る前だったら、ゴールディ国との取引をメーリング領に一任することで、こちらの負担を減らすこともできたが後の祭りだしな。
海外との取引は得るものも大きいが、それ以上に手間がかかり、南大陸との交易でも人材の育成から設備への投資と、かなりの金額がかかっている。
「金を受け取るのは陛下の手前、難しいからの。……そうなると、やはり人材じゃろうな」
「これから立て直すメーリング領から人材を引き抜くのですか?」
それは悪手では? メーリング領の領主は領民のことなど全く考えない政策をしていたようで、領民には活気がなくモンスターもかなりいる。
文官は領政の立て直しを図るために引き抜けないし、騎士にしたって領内のモンスターをある程度まで減らすまでは動かせないだろう。
というか、文官にしろ、騎士にしろ、ゲルハルディを含む周辺領から派遣しないと立て直しが難しいレベルだ。
「マックスや。人材と言っても即戦力ばかりではないじゃろ。見習いを数人こちらで引き受けるのじゃよ」
「なるほど」
若い人材をこちらで引き取って教育し、ゲルハルディ領で使う……あるいは、ゲルハルディ領と友好関係を続けるためにメーリング領に戻すってことか。
ゲルハルディ領としては、若い人材の育成にも力を入れているから、そこまでの負担じゃないし良い手ではあるか。
「言い方は悪いが人質じゃな。メーリング領としても若者がゲルハルディ領にいるのに、反旗は起こしづらいじゃろ」
「それはそうですが、爺様。本当に言い方が悪いですよ」
「……ふむ。で、あるならば、私の娘もゲルハルディ領に向かわせましょう」
「ほう、娘を?」
「はい。ゲルハルディ伯爵令息と年齢も変わりませんし、騎士としての教育は受けています」
「……良いのですか?」
「ええ、若手を差し出しておきながら領主代理になる私が何の痛手も負わないのは許されないでしょう」
「……わかりました。ちょうど婚約者であるレナの護衛も欲しかったところですし、騎士として引き受けましょう」
預かるのがサブヒロインであるのは気になるが、レナとの婚姻も控えている今、女性騎士はどれだけいても足りないくらいだ。
それ以外にも騎士見習い、団員の子供、文官見習い、文官の子供を合計で20人くらい預かることにした。




