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77/140

77 8歳

 思えば、7歳という年齢にはいろいろと事件が起こった。

 ダンジョンの攻略から始まり、王都での陛下や宰相閣下、エルメライヒ公爵とのやり取り。

 そして、ローズマリー嬢の突撃に、フィッシャー嬢との対面……うん、疲れたな。


 あれからもローズマリー嬢とは手紙のやり取りを、フィッシャー嬢とはお茶会で顔を合わせている。

 ローズマリー嬢からの手紙にはゲルハルディ領に行きたいという思いがひしひしと感じるが、そう易々と旅が出来るわけもなく、フラストレーションが溜まっているようだ。


 フィッシャー嬢とのお茶会はそこそこ和やかには過ごせているが、やはりフィッシャー嬢も俺も勝気だからかぶつかることも多い……ま、それがわかっていたから第二夫人は無理って言ってたんだけど。

 レナからはフィッシャー嬢ではなく、アイリーンと呼んではどうかといわれているが、それは時期尚早。

 流石にまだまだ、第二夫人として娶る判断はつかないって。


 そして今日、俺は8歳を迎える。

 ゲームではバルディ領の港が大陸の勢力に占領され、父上と母上が亡くなる年だ。

 中ボス悪役令息としての運命を変えるため……何よりも、大事な家族である父上と母上が亡くなるのを阻止するためにも重要な年だ。


「父上、母上、相談があります」


「一年前にも聞いたような話だな」


「あら、クラウス。奇遇ですわね、私もそう思っていたところですわ」


 あー、去年もそういえば誕生日直後に旅に出たいと父上と母上に相談したんだったか。


「……昨年同様、今年も旅に出させていただければ」


「領内の見回りなら普段からしているだろう」


「今度は領外……友好領のバルディ、エンケ、ヒッペ、カレンベルクを見て回りたいと」


「……む。流石に早くはないか?」


「そうですよ、マックス。本来なら領外に出るのは学園入学の年なのですよ」


 この辺の常識、というか貴族としての常識では自領から出るのは貴族学園に入学するためというのが当たり前だ。

 学園卒業後、成人したのちには様々な理由で領を行き来する人間もいるが、基本的に生まれ育った領で一生を過ごすことも珍しくはない。


「そうでしょうか? 私はむしろ遅いくらいかと」


「貴族学園入学まであと7年もある。数年後でも遅くはないだろう」


「南辺境伯と北東辺境伯への挨拶を考えると、遅いでしょう」


「む」


「北東辺境伯はゲルハルディ領との交易が盛ん、南辺境伯は元々の主家です。挨拶なしに貴族学園に通うのは不義理でしょう」


「……確かにそうだな。私の時は同級に次期辺境伯がいたから、学園でのあいさつとなったが、マックスが通ううちには辺境伯の関係者はいないか」


「数年後に辺境伯に挨拶に行くためには、今のうちに地盤固め……周辺の友好領へのあいさつ回りを済ませておくべきかと」


 この辺の言い訳はさんざん考えていた。馬鹿正直にバルディ領が危ないから、行かせてくれと話して、行かせてくれるわけがないからな。

 物語の強制力……なんてものがあるとは思っていないが、父上と母上がバルディ領に向かったところでシナリオ通りになる可能性が高い。

 それは強制力でも何でもなく、父上と母上では大陸の大船団……つまり、海戦に対応する能力がないからだ。


 本来なら爺様が出張るのが最も勝率が高いのだが、対外的には爺様は自主的に友好領を旅しているということになっているから、バルディ領に留まり続けるのも難しいだろう。

 シナリオ通りなら、バルディ領への侵攻は秋口……シナリオライターも正確な日時は設定していなかったから、夏が終わる前にバルディ領に入っていれば対処は可能だろう。


 俺には爺様ほどの海戦能力も、父上ほどの武力もないが、代わりに合成魔法がある。

 合成魔法にも射程やら、詠唱時間やら問題がないわけではないが、大勢力相手なら俺が一番対処能力が高いと言えるだろう。


「わかりました」


「ペトラ!?」


「クラウスにもマックスの覚悟は伝わったでしょう?」


「それはそうだが……」


「マックスの言い分には一理あります。周辺領への披露目は早いうちに済ました方が良いでしょう」


「だが、マックスはまだ8歳だぞ?」


「マックス、やれると判断したのですね?」


「はい、母上。父上、安全には十分に配慮をします」


「……はあ、言い出したら聞かんからな」


「では、同行者はどうします、マックス?」


「以前と同様に小隊長にクルトを、他に小隊員を何人か……それと、今回はレナを同行させます」


「レナを?」


「はい、ゲルハルディ領内ならともかく、領外となれば婚約者を伴った方が良いでしょう」


「……確かにハニートラップの可能性は否めませんからね」


 ま、流石に8歳相手に直接的に相手を送り込むことはないが、念には念を入れてだ。

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