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61 呼び方

「お呼びと聞きましたが」


「ふふっ、ゲルハルディ伯爵令息。あなたが私を案内してくれるのよね?」


「もちろんでございます」


 エルメライヒ公爵令嬢が客室に案内されてから、いくらかの時間が経ってから俺とレナは客室へと呼ばれた。

 相手は公爵令嬢であり、こちらは伯爵令息と男爵令嬢だから呼び出されること自体は問題ないが、勝手にきた人間に顎でこき使われるってのもムカつくもんだな。


「とりあえず、お茶でも飲みましょう」


 そう言って、エルメライヒ公爵令嬢は侍女に命じて3人分のお茶を淹れさせる。

 レナもきちんと認識しているのは良いのだが、そのお茶もウチの備品だよな。


「では、失礼いたします」


「失礼いたします」


 一応断りを入れて、エルメライヒ公爵令嬢の前に準備された椅子に座った。

 毒味は……まあ、お茶も茶器もウチの備品だし、問題ないだろ。

 淹れている侍女の動きもおかしなところはないし、何か問題があればエルメライヒ公爵令嬢についていた執事のヨーゼフが何か言うだろう。


「ふふっ、ゲルハルディ領のお茶は美味しいわね」


「こちらはゲルハルディ領ではなく、東隣のカレンベルク領産ですね」


「? ゲルハルディから東はすべてゲルハルディ領ではないの?」


「勘違いされているようですね。ゲルハルディ領は辺境にあっても辺境伯ではないので、協力的な領はあれど支配はしていないのですよ」


 公爵家や辺境伯家は周辺の領に領主を任命する権利を持つが、普通の伯爵家や男爵家にはそんなものはない。

 ゲルハルディ領内の代官として任命することはできるが、周辺のカレンベルク、エンケ、ヒッペ、バルディとは連携はしていても内政に干渉することは出来ない。

 おそらく、エルメライヒ公爵令嬢は公爵家のことしか知らないから、辺境にある伯爵家なら周辺領も傘下に収めていると思っているのだろう。


「ふ~ん、そうなのね」


「それよりも、エルメライヒ公爵令嬢。今回の旅の目的をお聞きになってもよろしいでしょうか?」


「……目的……ねぇ。……そうね~、教えても良いけど条件があるわ」


「条件……ですか?」


 おい、こいつ何言ってるんだ? まともな先触れもなしに勝手に他領に来ておきながら条件だと? 頭がおかしいんじゃないか?


「私のことをローズマリーと呼びなさい。エルメライヒ公爵令嬢なんて他人行儀じゃない」


「他人ですから」


「お父様からゲルハルディ伯爵令息は友人になると聞いていますわよ?」


「確かにそういう話もありますが、あくまでもアレは貴族学園入学後の話です」


「公爵令嬢である私の命令が聞けないと?」


「令嬢ですからねぇ。それにゲルハルディ領としましても、エルメライヒ領と取引が停止になっても打撃は受けませんし」


「お父様と契約したのでは?」


「そちらも、こちら側のメリットは薄いですし、切っても問題はありません」


 そもそもゲルハルディ領の最大の取引相手は王家、引いては王都であって、他の領との取引はマイナスにはならないものの大幅なプラスになるわけではない。

 特産品のある辺境伯領ならともかく、王都近郊の領の特産品は王領やゲルハルディ領でも作っているものばかりなので絶対に取引しなければならない相手ではない。

 ま、舶来物……南大陸からの品物はゲルハルディを通さなけらば手に入りにくいから、ウチと取引を切られたら相手側が大打撃だろうけど。


「なぜ、そこまで頑なですの?」


「はぁ~……エルメライヒ公爵令嬢、私の隣には大切な婚約者がいることをお忘れでは? 婚約者がいる身で他家の令嬢をファーストネームで呼べるわけがないでしょう」


「別にそれくらい……」


「エルメライヒ公爵令嬢のためでもあるのですよ。婚約者がいる男が令嬢のファーストネームを気軽に呼んでいる……これでは醜聞を広めてくれと言っているようなものです」


「む~」


「なによりも、私の大切な大切な婚約者のためです。私は婚約者をとてもとても大切にしているので、レナ以外の女性と気軽に親しくなるつもりはないのですよ」


 そう言うと、レナは赤くなりつつ顔を伏せてしまったけど、不安を覚えているレナの前で不用意に他家の女性と仲良くするつもりがないのは本当だ。

 実際にエルメライヒ公爵令嬢とファーストネームで呼び合う仲になれば、勘ぐる者も出てくるし王家派への取り込みや国王派からの切り離しを狙ってくるものも出てくるだろう。

 ま、そういう危ないやつらを釣る餌としては良いだろうけど、レナを傷つけてまでやるこっちゃないわな。

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