06 婚約者になってもらうために押しまくれ
「レナ、婚約の返事は?」
「待ってください、若」
「レナの父親のバルディ男爵様も良いと言ってくれたんだろう?」
「そうですが、若はわたしのことが好きなわけではないですよね?」
「ん? 好きだよ」
「その好きは恋人に抱く好きではないでしょう」
領地に戻ってから体形を戻すためにも食事制限をしつつ、運動もしている俺だが、レナからの返事は色よいものではなかった。
「うーん、まあ俺もまだ5歳だしな好きだなんだのは正直よくわからんが、父上と母上を見ていてわかってることはある。貴族にとって必要なのは燃え上がる恋ではなく、相手を思いやる愛なんだということだ」
あ、ちなみに、領地に戻ってすぐに王都式の話し方は必要なくなったと両親と話し合って、多少砕けた口調で、呼び名も父上、母上呼びにしてもらった。
正直、お父様、お母様と呼ぶのはいちいち背筋がゾワってするから、困ってたしな。
「若、本当に5歳ですか? ……でも、これから出会う方に燃え上がるような恋をするかもしれませんよ?」
「俺が? はっ、ないな。……いや、ないと断言はできないが、婚約者がいるのに、他の相手に現を抜かすと? 見くびりすぎだぞ」
「そこまでは言いませんが、そうなった場合に若が困るでしょう?」
「レナも同い年のはずなのに、そこまで未来を考えなくてもいいとは思うが……。困りはしないよ、貴族としても男としても婚約者には誠実にありたいからな」
「でも……」
うーん、反応は悪くないと思うんだが、自己評価が低いのか、主家に嫁ぐのに抵抗があるのか、なかなか首を縦に振ってくれないな。
とはいえ、このまま婚約者を決めないと国王陛下の鶴の一声でカタリナ(ヒロイン)と婚約させられかねないし、困るんだよな。
「レナ、確かに俺は恋愛についてはわからないし、これから恋をすることもあるかもしれない。でも、レナのことを好きなのは本当だし、一緒にいたいというのも本当だ。もし、ここでレナと婚約できなければ、他の不本意な相手と婚約しなければならなくなるかもしれない」
「若……」
「だからというわけじゃないが、一生側にいても困らない……一緒に支えあえるレナと婚約したいというのはそこまで間違ったことか?」
「わ、わかりました」
「じゃあ?」
「はい、お父様に言って若との婚約を前向きに考えてみます」
「ありがとう、レナ。大切にするよ」
「若、そう言った言葉は本格的に婚約してからお願いします」
「そうだな」
「それと、婚約しても若の影は続けさせてもらいますから!」
「んー、まあそれがレナのやりたいことなら、まあいいよ。俺もレナが危険な目に遭わないように鍛えないとな。……それと、婚約したら若って呼び方はやめろよ」
「わ、わかりました」
なんとかなりそうか、これでレナと婚約できれば俗にいうシナリオの強制力とやらも発動しないと考えていいかもな。
まあ、シナリオの強制力があるなら領地に戻れているのがおかしいんだが、このまま婚約者なしだと危ないのは確かだしな。
バルディ男爵は婚約には前向きというか、婚約者になればどこでも影の仕事ができるから良いんじゃないかって考え方だったから大丈夫だろうな。
あとは破滅を防ぐ方法だが、貴族学園に通う10年後までやることがないと思われがちだが、やるべきことはいくつかある。
1つめはこれから3年後にある海外勢力からの侵攻を妨げることだ。
これから3年後、マックスが8歳の頃にゲルハルディ領は南大陸の国から侵略され、ゲルハルディ伯爵、伯爵夫人、前伯爵の活躍によって退けることができるも伯爵夫妻が亡くなってしまう。
一時的に前伯爵、つまりマックスの爺さんが伯爵代行となるが、領の戦力はガタ落ち、マックスの性格もねじくれてしまう。
まあ、そんなことを考えずとも、両親を死に追いやる侵攻を防ぐのは当然だし、次期領主として、ゲルハルディ領に侵攻することがいかにバカらしいか教えてやらないといけない。
2つめは侵攻にも関わるが、俺のレベル上げ、更には主人公が勇者になるのを防ぐためにダンジョンを制覇することだ。
一応、野生生物でもレベル上げはできるがすべての生物にはレベル上限があり、自身のレベル未満の敵を倒しても経験値が得られないので、必然的に強者を相手にする必要がある。
ダンジョンの敵は野生生物に比べても高レベルで、特にゲルハルディ領は最終決戦の地でもあるので高レベルダンジョンがいくつかある。
その中の1つに攻略方法さえ知っていれば比較的簡単に攻略出来て、さらにゲーム終盤に主人公が見つけるまで未発見というダンジョンがある。
ここを利用して、最低でもゲーム内のレベルに追いつく、欲を言えば最高レベルである50レベルになるのが目標だな。