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36 父上との打ち合わせ

「全く面倒なことをしてくれたな」


 王都について、父上のいる宿について開口一番に言われたのがこの言葉だ。

 長旅に耐えた子供に労いの言葉もないのか、と言いたいが、疲れ果てている父上の姿を見ると文句を言うこともできない。


「申し訳ありません」


「……いや、こちらも悪かった。陛下はもちろん、中央貴族にもおべっかを使われたりでピリピリしていた」


「こちらもここまでの騒ぎになるとは」


「確かにな。辺境領にとってダンジョン攻略は昔話ではあっても身近なものだ」


「はい。我が領でも海洋交易が盛んになったことでダンジョン攻略は後回しになっていましたが、爺様からは攻略者の話は聞いていましたので」


「だな。私も父上や爺様に聞いていたからここまでの騒ぎになるのは驚きだ。……というか、爺様、マックスにとっては曾祖父にあたるが、爺様はダンジョン攻略者だしな」


「ですよね。それは爺様に聞いています。自分の父親がダンジョンを攻略したと」


 なんだよな。ゲーム内……特に中央領の人間にとってダンジョン攻略は偉業だけど、辺境に住む者にとっては昔話にはなっていても日常なんだ。

 だからこそ、辺境に住み続けるものにとってダンジョン攻略はそこまで大騒ぎするものじゃない。


「はあ、今日は到着したばかりだから仕方がないということにしてあるが、明日には陛下との謁見がある」


「早速ですか」


「陛下も王都貴族もお前を待っていたのだ」


「父上もですね」


「……そうだ。陛下は純粋にダンジョン攻略を称えるつもりだが、王都貴族は疑っている」


「でしょうね。こんな子供がダンジョンを攻略したなど、自分たちの落ち度を認めるようなもの……王都貴族は認めないのでは?」


「王都貴族はそれほどでもないな。王宮や王都から出ない王都貴族は国王派が多い。認めないのは王都周辺の中央貴族だ」


「……ふむ。明日は中央貴族は?」


「数人は来ているが、それほど数は多くないな。子飼いを王宮に派遣している連中だけだ」


「面倒なのは?」


「婚約の取りやめで面子を潰されたエルメライヒ公爵だろうな。その他は西側貴族だから交流がない」


 そうか、ラスボス悪役令嬢の父親、エルメライヒ公爵も来ているのか。

 婚約自体はエルメライヒ公爵とは関係がないというか、ミネッティ伯爵とゲルハルディ伯爵の取り決めだったが、寄り親としての面子もあるからな。


「私としては勇者の称号を受け取るつもりはありません」


「……ほう?」


「そもそも勇者は平民が偉業を成した際の称号。貴族が受け取るべきではないでしょう」


「確かにな」


「ダンジョン攻略の褒美には勇者制度の撤廃と、緊急時面会権を求めようかと」


「ふむ」


 緊急時面会権とは、国王陛下への謁見順番を飛ばせる権利で、これを行使すると即座に陛下との謁見が可能となる。

 謁見時の申し出が正当なものならば権利の行使とはみなされず、不当な要件だとその場で緊急時面会権がはく奪される。

 これがあれば、学園に通ってから主人公やメインヒロインが問題を起こした場合でも陛下に物申すことができるって寸法だ。


「この2つならば、中央貴族も強くは言えないのでは?」


「確かにな。陞爵や軍備増強、他領のダンジョン攻略権ならば騒ぎそうだな。……だが、ゲルハルディ領にとって旨味がなさすぎではないか?」


「私のような子供でも工夫をすればダンジョンの攻略は可能。ならば、他領の貴族が支援を行い傀儡の勇者を作り上げることもあるでしょう。そうなった場合にゲルハルディ領内をウロウロされる方が厄介でしょう」


「……ふむ」


「それに数年後には私やレナが貴族学園に通いますが、同年代には第三王女もいます」


「……問題を起こすと?」


「ミネッティ伯爵令嬢がアレだったのです。第三王女が影響されないとは言えないでしょう」


「その時への布石か」


「ま、その前に周辺領との摩擦もあり得ますからね」


「あるか? 言ってはなんだが、ゲルハルディ領と事を構えられる貴族は少ないぞ?」


「北東辺境伯との間にはエルメライヒ公爵の同盟貴族がいるでしょう? 南辺境伯との間にも中央貴族とつなぎを持っている貴族がいたはずです」


「……ふむ」


「意外と多いですよ。我が領の敵は」


「確かに、どこもかしこもがテオの所のようにはいかんのも事実か」


 この辺りはゲーム知識というか、前世の幼なじみの話もあるが、領主教育の一環で教えられている項目だ。

 ゲルハルディ伯爵を寄り親として慕ってくれている貴族がいる一方、こちらを目の敵にしている貴族がいるのもまた事実。

 ゲームとは違う行動をしている以上、何が起こるかもわからないし手札は多い方が良いだろう。


「わかった。その方向性で良いだろう。……だが、陛下が拒否した場合には従え」


「わかっておりますよ。これでもゲルハルディ伯爵を継ぐ身ですからね」


「わかっているのならよい」

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