33 レナとの再会
「あれ? 若様ですかい?」
「おー、みんな元気そうだな~」
「若様、帰ってきたの?」
「無事戻ったぞ~」
ゲルハルディ領の中でも屋敷のある街の近くまでくると、流石に領主の息子である俺の顔を知っている領民も増えてくる。
まあ、見回りって程じゃないけど、騎士たちと巡回に出たりはしていたからな。
「若様~、しばらく見なかったけどどこに行ってたの~?」
「ん~、領内を見回ってきたんだよ。俺も領主を継ぐためにいろいろやらなきゃならんからな~」
領民はほぼ全員が平民ってことで、こういう話し方をしてくると不敬だって言ってくる貴族も多いらしいが、ゲルハルディ領ではそういうのはない。
領主一族への敬意があれば、言葉遣いなんてどんなものでもいいし、そもそも辺境で敬語がどうのこうの言っても仕方ないからな。
「ぼく、領主邸に伝えに行ってくるよっ!」
「おいおい、もう目と鼻の先だから大丈夫だぞ?」
「やらせておきましょう、マックス様」
「クルト? 別に1時間もかからずにつくだろ?」
「だからこそですよ。旦那様も奥様もマックス様を出迎えるのに準備がいるでしょう」
「ん~??」
いるか? 確かに1か月ぶりの我が家だが、国王陛下を迎えるわけでもないのに準備なんていらんだろ。
あ~、でも温かい風呂とか準備されてた方が嬉しいか。
「マックス様、確かに帰還の手紙は出してはいますが、料理長たちも急にマックス様が戻られれば大変でしょう」
「あ~、確かに。昼はとってきたけど、屋敷に帰るころには夜飯も間近か」
貴族の屋敷だから食料自体は余分に保管してるだろうけど、それでも急に人数が増えるのは料理人たちの負担だからな、クルトの言うことももっともか。
その後も、街の人たちの歓迎を受けながら、俺たちは屋敷へと歩を進める。
「マックス様っ! とても……とても、心配しましたっ!」
「レナっ!」
屋敷までつくとレナが待っていてくれていた。
どうやら、俺たちの帰還を告げた住人の言葉を聞いてからずっと待っていてくれたらしい。
本当にいじらしい娘だ。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。レナも勉強が進んでいるようだね。旅に出る前よりもずっと所作がきれいになっているよ」
レナは元々、メイドや影としては教育を受けていたけれど、貴族令嬢としてはそこそこの教育しか受けていなかった。
だが、俺がいなかった1ヶ月の間、かなりの特訓を受けたようで、これなら伯爵家に嫁ぐ令嬢として恥ずかしくない程度になっている。
「いいえ、まだまだです。お義母様からは及第点はいただきましたが、合格点には程遠いのです」
「ふふ、嬉しいな。俺のことも若様じゃなくて、マックス様って呼んでくれているし。母上のことも奥様じゃなくてお義母様と呼んでくれているんだね」
「……それは、お義母様に厳しく言われましたので」
使用人や部下の娘なら母上もそのままでいいと思っていたのだろうけど、レナは既に俺の婚約者となっているから、母上も厳しく教育したんだろうな。
それにしても、自分の婚約者から名前で呼ばれるのがこれほどにうれしいとは……うん、レナのことを一層、守らなきゃと思うな。
「マ~ックス! 帰ってきて早々、門前で語らっている場合ではありません! 話がありますから、さっさと屋敷に入りなさい!」
おっと、婚約者との逢瀬を楽しんでいたのに、鬼……もとい、母上に怒られてしまった。
ま、クルトたちも早く解放してやらないとならないしな。
「みな、これまでの旅、ご苦労だった。明日から4日間は旅の間にとれなかった休暇、その後は騎士団のスケジュールに戻ってくれ。騎士団長への帰還の挨拶を忘れないように」
「「「「「はっ!」」」」」
騎士団とはいえ、休暇の概念はあって、シフト制だから休日は人それぞれだが、まあ、1週間に1日はとれるようにしてある。
4週間の旅だったから、クルトたちには4日間の休暇が与えられる手はずとなっている。
「「マックス様、お帰りなさいませ」」
「ああ、みなも息災のようだな」
屋敷に中に入ると、執事、メイド長を筆頭に、見習いやメイドたちが俺に頭を下げてくる。
うん、こういう光景を見ると自分が貴族だという実感がわくな。
「マックス、ようやく帰ってきましたねバカ息子」
「母上、皆がいる前でバカとはひどいですね。何をそんなにお怒りなのですか?」
いろいろやらかした自覚はあるが、旅には母上も賛成していたよな?
「ダンジョン攻略のことです! 旅は許しましたが、流石に貴方の年齢でダンジョンに入るなど何を考えているのですかっ!?」
「母上、落ち着いてください。いろいろと事情があったのです。それについては、執務室でお話ししますので、ここでは」
なるほど、確かにダンジョンの危険性は貴族なら知っていることだし、自分の息子がダンジョンに勝手に入っていたら親として叱るのは当然か。
とはいえ、流石にダンジョン攻略、ダンジョンの情報についてはいくら使用人とは言え、他人のいる場所で話すことではない。
プリプリと怒る母上をなだめながら、執務室へとさっさと行ってしまおう。




