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30 同窓会(国王視点)

 あー、今日も執務が滞っている。これもそれも、政治に口を出そうとする王族、政策に不満を陳べる貴族たちのせいだ。

 まったく、どいつもこいつも国全体ではなく自分たちの利益ばかりを追求して……いや、自分の利益を求めるのは良い、だが、それだけで国は回らないのだ。


「国王陛下、ゲルハルディ伯爵が参っております」


「そうか、ならば執務は一時中断だ。茶を入れてくれ」


「かしこまりました」


 傍にいた侍従に茶を入れさせ、我はクラウスを迎えるためにソファへと移る。

 もちろん、傍らで執務を手伝っていた宰相も来るが、宰相は我の後ろを陣取る。

 クラウスとは私的な会合をするだけだが、国益にかかわることも話すから、宰相が席を立つことはない。


「おお、クラウス、こっちだ」


「王国の至宝、国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」


「良い良い、堅苦しい挨拶は。いつも言っているだろう、これは私的な会合。貴族学園時代の同窓会のようなものだと」


「であれば、もう少し手心を加えた依頼をしてほしいものですが」


「うっ、このまえの派閥強化の件か。あれは正直すまなかった。まさかミネッティ伯爵の令嬢があのような人物とは」


「その後、何か情報は入りましたか?」


「ああ、公爵の派閥を抜けるのは止めたようだな。カタリナ嬢は例の執事見習いに夢中で、どこに行くにも連れて歩いているとか」


「はぁ、貴族令嬢として……いや、他家のことだ、私には関係ない。それよりも、そのような令嬢が我が家と関係を持たなくてよかった」


「うむ、エルメライヒ公爵が選んだ家臣だから、我が爵位をどうこうはできんが、あれは公爵の腰巾着が関の山だろう」


「ああ、陛下。マックスの婚約の件では骨を折っていただいたようで」


「そちらも良い。こちらの依頼がもとで王宮がざわついただけだ。そもそも貴族の婚姻に他家が口を出すものではないしな」


 我の依頼としては派閥の強化……手段までは口に出さなかったから言い訳がたつが、王宮にいる奴らは堂々と王家派や貴族派と婚約すべきと言い出したからな。

 そんなに派閥の強化をしたいなら、自分たちの娘や息子を差し出せばいいものを、口だけ出す輩ほど自分たちに不利益になると騒ぐからな。


「しかし、噂の嫡男にも会ってみたいものだが、連れてきていないのか?」


「あれは領内の見回りを始めましたので、今回は私だけです」


「見回り? 初等部くらいの子供だろ?」


「7歳になりましたよ。派閥の強化に関しての婚約にしてもすんなりと承知しましたし、やるべきことが見えているのでしょう」


「親バカ、ここに極まれりだな。ま、我もクラウスのことは言えんか。王太子もすごいぞ?」


「知っていますよ。17歳で辺境地をまわっているのでしょう?」


「はっはっは、国王を継いだら気軽には行けんからな。その前に戦地を見てみたいんだと」


「必要なことです。辺境地を預かる者として、辺境の現実を知っている方が玉座に着くというのは頼もしいですよ」


 我も玉座に着く前、貴族学園時代や、卒業直後には辺境地を含む王国内を見回ったものだ。

 ま、あちらに行けば、なぜこちらに来ないのかとか言い出すやつもいたから、我が見たいところだけというわけにはいかんがな。


「我も息子に玉座を譲ったら、辺境地にまた行きたいものだ」


「陛下、ご冗談を。宰相殿も目を吊り上げていますよ」


「陛下、陛下が玉座を降りても引継ぎがたっぷりとございます」


「硬いことを言うな、宰相よ」


「ま、王太子殿下に次期王太子がお生まれになれば少しは時間も取れますか」


「はぁ、まだまだ先の話だな」


「ご歓談中失礼します! 緊急案件がきましたので報告に!」


「ん? そんなに固くなるな。私的な会合だからな、緊急案件なら受けるぞ。……クラウス、少し待っていてくれ」


「かしこまりました」


 足早にやってきた文官から書類を受け取り、クラウスには見えないように確認する。

 ふむふむ、これは。


「宰相、これを見てみろ」


「はっ、預かります。……これはこれは」


「クラウス、お前の息子は大したものだな」


「? わかっておりますが?」


「親バカだなぁ。今の緊急案件、お前の息子が関わっているぞ」


「息子が? 賊でも現れましたかな?」


「お前の息子、マックス・フォン・ゲルハルディがゲルハルディ領内のダンジョンを攻略したそうだ」


「……はっ?」


「ダンジョンを、攻略、したそうだ! 100年ぶりか、宰相?」


「記録ではそうですな。貴族で言えば120年ぶり……他国からは報告はありますが、王国では久々の吉事ですな」


「ふむふむ、ダンジョンを攻略したとなれば褒美をやらねばな」


「じ、事情を! 事情を聞きに帰ります!」


「待て待て、マックスへの褒美について話し合ってからにしろ。さあて、本人を王宮に召喚する手続きもしないとな」


「称号の授与も必要でしょうな」


「ああ~、マックス。何をやっているんだよ」


「はっはっは、国王派の旗印になれるな!」


「なりたくないんですよ、そんなもの! 目立たないようにしてきたってのに!」


「南東の英雄が何か言っているが、辺境伯を除けばゲルハルディは国王派筆頭だからな?」


 これで少しは王宮にいる、つまらない貴族たちにも刺激になるか?

 早速、マックスへの褒美も考えんとな。……何が良いかなぁ? 領土は無理だから称号と金銭がメインになるが……勇者の称号か? それとも父親同様にゲルハルディの英傑か。

 ま、宰相と相談していろいろと決めて、本人にも直接確認しないとな。

 面白くなってきたな。

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