26 旅立ち
あっという間だ。家族に試作した料理を振舞い、剣術や馬術の稽古をし、レナとともに貴族学園入学に必要なダンスや教養の勉強をしていただけなのに、あっという間に俺は7歳になってしまった。
1年後には南大陸から攻めてきた勢力により、バルディ領の港は占拠され、出征に出た父上と母上は亡くなってしまう。
そのシナリオだけは避けなければならない、俺のため、妹たちのため、そしてレナのためにも。
シナリオ中には明言されていなかったが、シナリオライターの設定資料には父上と母上が亡くなる戦いの中でサブヒロインの父親、つまりレナの父親のテオも亡くなっているのだ。
現伯爵、伯爵夫人、そしてレナの父親という後ろ盾を失くし、妹たちとゲルハルディ領、焼け落ちたバルディ領の再建に爺様はひっ迫。
そんな状態になってしまったマックスとレナは、孤立無援で王都での仕事をこなさなければならない。
所詮は10歳にも満たない少年少女が上手く立ち回れるはずもなく、安易な手に出てしまい失敗を重ねるのは必然。
まあ、そんなこともあって悪役令息まっしぐらになってしまうのだが、この辺はシナリオライターの個人的な設定資料なので、ファンはおろか会社でも幼なじみ連中しか知らないものだ。
あのメインヒロイン、あるいはメインヒロインの裏で手をひいている奴は全く知らないし、考えてもいないだろうが、ここで父上たちを生き残らせられれば、マックスのハッピーエンドに一歩近づくだろう。
「ふむ、やはり旅立つのか」
「はい。爺様に同行して周辺領をまわる前にゲルハルディ領だけでも、まわっておきませんと」
「私は内政、クラウスも陛下に呼ばれて王都に向かわなければならない。本当にマックスだけで行くことになるけれどいいの?」
「むしろ、母上にはレナをお願いしたいです。1人とは言いますが、クルトをはじめ小隊がついてきますし、1ヶ月程度で戻りますから」
「ふむ、決意は硬そうだな。確かに私もお前くらいの年には自領をまわったものだ」
「若、ご無事の帰還を祈っています」
「レナ、怪我の無いように気を付けるからね」
「クルト、仮とはいえ小隊長となったのだ。マックスのことはもちろん、連れていく小隊員の安全には気を付けるように」
「はっ! 旦那様!」
「大丈夫大丈夫。クルトもみんなも俺が守るからね」
「マックス、お前は領主になるんだから、守られることも学んでくれ」
「父上には言われたくありませんね。騎士団長がいつもボヤいていますよ。旦那は率先して突撃するから護衛が大変だって」
「うっ」
「ま、わたしも死に急ぐつもりはありませんし、ゲルハルディ領は父上の影響で賊も少ないですからね。安全なルートでまわりますよ」
これは半分本当で、半分嘘。
クルトを含めて小隊のメンバーに危険を冒させるつもりはないが、この旅の目的はゲルハルディ領内にあるダンジョンの発見と攻略。
攻略用のアイテム購入資金は十分……というか、十分すぎてレナにアクセサリーやドレスをプレゼントできた。
ダンジョンの場所もきちんと把握しているので、他の誰かに見つかる前にさっさと発見してしまおう。
ダンジョンは発見者に優先攻略権が与えられ、発見者が攻略か脱出するまではダンジョン内に他の人は入れなくなる。
まずは、領内をまわる、そして、アイテムの購入をし、ダンジョンを発見、初回攻略を目指すって寸法だ。
「よしっ、お前ら。出発だっ!」
「「「「「はっ!」」」」」
そして、俺とクルト、以下4名の小隊員の6名がゲルハルディ領内限定とはいえ、旅を行うことになった。
貴族と言えば馬車で移動するという考えも根付いているが、自領内で大仰なことしても仕方がないといのと、ゲルハルディ領は森や山も多いので移動は基本は馬で、悪路は徒歩だ。
「おっ、若様ー、お出かけですかー?」
「領内の見回りの旅に出るんだ」
「ほー、お若いのに偉いこって。こいつは差し入れです」
「ありがとうな、後ろにいる小隊員が荷物を持っているからそっちに頼む」
「へい」
畑の傍を通ると、俺の姿を確認した領民たちがあれよあれよと、野菜だの果物だのを差し入れしてくれる。
優しいというか、領主一家を慕ってくれる領民の姿を目の当たりにするたびに、領主として、貴族として、1人の人間として皆を守らなければと思う。
ま、これが最初の一歩だ。バッドエンドも悪役令息もふっとばして、絶対に幸せになってやるんだからなっ!




