24 爺様との再会と訓練
「マックス様、どうしてマックス様はそう直ぐに上手くなってしまうんですか?」
「だから、それはクルトの教え方が上手いんだって」
「ですが、盾は相手の剣をいなすためのものです。私はそう教わりました。ですが、マックス様は相手の剣をはじくために使うのですね」
「いなすだけの筋力がないだけ、一瞬はじくだけならタイミングを合わせればそこまで力が必要ないからね」
料理や特産品づくりで資金稼ぎも順調なので、ここしばらくはクルトと一緒に剣術の方に精を出しているんだが、やはりクルトは真面目というか正直というか、応用が利かないようだ。
剣術なんて相手あってのものだから、型を覚えるのは序盤、それをどうやって相手に合わせて応用していくかが大事なのに、クルトはどんな相手にも型通りに相対してしまう。
「難しいですね……タイミング……ですか」
「ま、相手によりけりだけどね。父上や騎士団長のように大型の武器で戦うような相手にははじくのもいなすのも難しいから、避けたほうがいいし、ロングソードのように得物が長ければいなして、ナイフなんかだとはじいたほうがいいだろ?」
「確かに……領主様や騎士団長様が相手なら叩き潰されそうです」
「ま、それが経験ってことなんだろうけどね。俺は俺のやりやすいようにしているだけ。クルトもクルトのやり方を身に着けないと」
「おう、久しぶりだなぁ。我が孫よ!」
と、クルトと話をしながら素振りをしていると、いきなり大音声で声をかけられる。
「爺様?」
「おお、そうだ。周辺領の見回りを終えたマックスの爺様だよぉ」
爺様はゲルハルディの英傑と呼ばれるほどの人物で、陸戦では父上に劣るものの、海戦でも一騎当千、騎士団を指揮すれば敵なしと言われている。
現に船に乗るとたちまち船酔いして戦力にならない父上の代わりに、バルディ領を含む周辺の港の警戒を伯爵を退いた今も行ってくれている。
……ただ、孫バカというか……俺やレナくらいの年の子供に弱いらしく、俺の印象としては子供に菓子を与えたがる好々爺って感じだ。
「ふむふむ、剣術の方も様になってきておるようだの。……新入りのクルトか。そなたがマックスに剣術を教えてくれていたのか?」
「は、はい! 大旦那様」
「マックス、なぜクラウスに教えを乞わなかった? あれもずいぶん落ち込んでいたぞ」
「爺様、わたしは化け物ではないのです。6歳の子供が両手剣やハルバードなど振り回せるはずがないではないですか。クルトにもロングソードではなく、ショートソードで習っているのですよ」
「はっはっは。あやつらしいというかなんというか……そうかそうか、確かに子供に両手剣などもたせるものではないな」
「爺様も戦場ではロングソードでしょう?」
「当り前じゃ。儂は船上で戦うのじゃぞ? 両手剣など船を傷つける可能性が高くなるだけではないか」
「ですので、クルトに教わることにしたのですよ。ウチの騎士団……特に領内に残っている父上の直属は奇抜な武器ばかり使いますからね」
「ふむ。陸戦では様々な相手に対応できるから便利なんじゃがな」
父上は両手剣、騎士団長はハルバードを振り回すが、他の団員も負けてはいない。
現に、クルトと最初に会った時にクルトに教えていたベテランは、蛇腹剣の使い手。
一応、近接ではロングソード形態で戦うからクルトに教えていたが、本領は中距離での戦いだ。
「部下はそれでいいです。自分の使いやすい武器で、自分の戦いやすい戦法で、家族を、仲間を守ればいいでしょう」
「うむ」
「ですが、領民を、領土を守る領主としてはそんな奇抜なことは出来ません。自分の得意な戦場でしか本領を発揮できずに、領民を守るとは口が裂けても言えません」
「ふむ、クラウスは耳が痛いだろうな」
「ああ、父上は良いです。あの人は本物の英雄で、成果もきちんと出していますから。ですが、父上の後を継ぐわたしはそれなりの何かがなければ皆がついてこないでしょう」
「よく考えているようだの。どれ、爺も孫の手ほどきをしてやろうかの」
「はい、ありがとうございます。……クルト、いい機会だ。クルトも剣術の応用というものを見せてもらうと良いよ」
「はいっ! 勉強させていただきます」
「よしよし、1人ずつでも2人まとめてでもいいから、かかってきなさい」
この日の訓練は壮絶という言葉でも言い表せないほどの訓練となった。
俺の盾ではじく戦法は剣筋をそらされ全くの無意味、クルトの盾でいなす戦法も力と技で抑え込まれ成す術なし。
ただまあ、やはり剣術の稽古と言ったらこれだよなという実感だけは感じられた。
同程度の相手から得られる経験値と、敵わないほどの強者との戦いで得られる経験値は違う。
……え、父上に稽古をしてもらえば? あの人は化け物だから勝ち筋が全く見えずに心が折れるだけだって。




