130 ミネッティ伯爵令嬢の突撃
「で、結局どうなったのかしら?」
陛下との面会を終えて、初めての週末……いつものようにレナ、クリスタ、ローズマリー嬢とお茶会をしていると、不意にローズマリー嬢が質問してきた。
「結局って?」
「噂のことよ。何か対処したんでしょう?」
「ああ……何とかしようと思ったけど、やっぱり時間が解決するのを待つしかないな」
「ふーん、じゃあ第三王女殿下が休学したのは関係ないのね」
陛下からは第三王女に対する対応は教えてもらえなかったが、そうか、休学させることにしたのか。
とはいえ、王族が貴族学園を卒業できないというのも醜聞につながるし、どこかのタイミングで復学させることにはなるんだろうが。
「さてな。第三王女の怠慢は辺境に届くほどだったし、陛下の逆鱗に触れたんじゃないか?」
「そう? 貴族学園に入ってからは噂はなかったし、それまで放っておいたのに急に休学にさせるなんて変じゃない」
うーむ、流石に公爵令嬢か。良い教育を受けているだけあって、なかなかに鋭いな。
いや、レナやクリスタも何も言ってこないだけで、こちらを伺っているようだし流石に関与を疑われているのかな。
「お待ちください! こちらは使用中です!」
「使用人風情が貴族である私に逆らうわけ!? 良いから通しなさい!」
ローズマリー嬢の追及に対して、言い淀んでいると周囲が騒がしくなってきた。
貴族学園の寮の談話室だけあって、礼儀を知らない人間は入れないはず……というか、聞き覚えがあるんだよなぁ、この声。
具体的には先日、学園の片隅にある空き教室で嬌声をあげていた女性……端的にいうとミネッティ伯爵令嬢の声にしか聞こえない。
「やっぱり、いたじゃない」
ミネッティ伯爵令嬢だと気づいた瞬間から俺たちが狙いだとは思っていたが、まさか本当に使用中の談話室に入ってくるなんて、どんな教育を受けてるんだ?
「ねえ、ゲルトルードが休学になったのは、あんたのせいなんでしょ?」
談話室内には俺のほかにレナ、クリスタ、それにローズマリー嬢もいるというのにミネッティ伯爵令嬢は俺にしか見えないかのように彼女らを無視して話しかけてくる。
というか、まともに交流もない相手だというのに自己紹介もなく話しかけるなんて貴族以前の問題なんだがな。
ちなみにゲルトルードは第三王女の名前だが、陛下など近しいものは愛称のトゥルーデと呼んでいる。
「……」
「まったく、悪役令息風情がでしゃばるんじゃないわよ。こっちが温情をかけて放っておいてあげてるってのに」
「……」
「あんたの悪事をばらせば、いつだってあんたなんか葬れるんだからね」
俺は前世ではゲーム制作関係のグループや会社なんかと繋がりを持つべく交流を続けていたし、現在では領主として様々な人間と交流を持っている。
だからこそ、人間同士のコミュニケーションにおいて押し黙るというのは悪手で、どんな言葉を言われたとしても対話をすることが重要だというのはよくわかっている。
だが、これは無理だ。ミネッティ伯爵令嬢の言うことは理解不能で、彼女が何を言っているのか、何を求めて会話をしているのかが読めない。
「私を無視して会話をするなんて、ずいぶん偉い身分になったようね。ミネッティ伯爵令嬢」
俺が困っていると感じたのか、この中では最上位者であるローズマリー嬢がミネッティ伯爵令嬢に話しかける。
「は? あんた誰よ?」
「あら? 主君の娘の顔も知らないのね。ローズマリー・フォン・エルメライヒ……エルメライヒ公爵令嬢といえば流石にわかるかしら?」
「は? 悪役令嬢? なんであんたが、悪役令息と一緒に居るのよ」
「聞きなれない言葉が聞こえたけれど、それが上位者に対する態度かしら」
「はっ、あんたなんか公爵家を継げないんでしょ? だったら、平民と一緒じゃない!」
「……私が公爵家を継げないのは確かね。でも、だったら貴女はなんなのかしら?」
「は? 私はミネッティ伯爵家の1人娘よ。伯爵になるに決まってるじゃない!」
「あらあら、何も知らないのね。ミネッティ伯爵家はエルメライヒ公爵家の傘下。エルメライヒ公爵家がなくなっても伯爵でいられるつもりで?」
おっと、ローズマリー嬢に任せて押し黙ってしまった。
というか、ミネッティ伯爵令嬢は傲岸不遜というか、上位者相手に不遜な物言いをして、本当に何を考えているんだ?
いや、見覚えがあるな……これは前世にいたモニターの前にいると態度が大きくなる人間か。
聞いたところによるとモニター越しだと相手が人間に思えず、どんな言葉でも言えるとか……やはりミネッティ伯爵令嬢はこの世界の人間をNPCのように感じているのか?
にわかには信じがたいが、明らかに生身の人間がいて自分自身も生身なのに、この世界をゲームだと思い込んでいるのか?




