126 結末(シャウナ男爵令息視点)
クソクソクソっ!!
ゲルハルディ伯爵子息と授業中に決闘を行ってから、既に一週間がたっているが、未だに俺を倒した時のやつの顔が頭から離れない。
しかもクソ教師と結託していたのか、騒ぎを起こした俺は当分の間、寮で謹慎させると言われ、レナ嬢の元には駆けつけられていない。
絶対に彼女は俺の助けを待っているんだ!
「カール・フォン・シャウナ、部屋の中にきちんといるか?」
「……はい」
本当なら寮なんて抜け出したいところだが、こうして抜き打ちで寮監が俺が謹慎させられている部屋にやってきては在室なのかを確認するから抜け出すこともできない。
謹慎時に在室確認が取れなかった場合は、学園からの退学も視野に入れると脅されてしまったからな。
とはいえ、親父にも俺からの手紙が届いているだろうし、そろそろ謹慎生活も終わりだろう。
「カール・フォン・シャウナ、貴様に父上からの手紙が届いている。直ぐにもタウンハウスに戻ってくるようにとのことだ」
「……タウンハウスに? 謹慎が終わって学園に通えるんじゃ?」
「謹慎は続いている。当主からの命令ゆえの緊急措置だ」
「……親父から?」
「とにかく、表にシャウナ男爵が用意した馬車がある。そこまで誘導するから暴れず、ついてこい」
寮監の言っている意味は分からないが、俺には選択肢はないようだ。
扉を開くと寮監の後ろには学園に常駐している騎士が付き従っていて、俺が暴れたとしても直ちに拘束されるだろうことが理解できた。
しかも今は授業中の時間なので、寮内には俺以外の学生はいない。
だから、たとえ暴れたとしてもゲルハルディ伯爵子息に一矢報いることもできない。
「さ、早く馬車に乗りなさい」
促されるままに、俺は馬車に乗せられる。
謹慎は専用の個室で行われていたため、寮内の自室には荷物が残ったままになっているが……なに、直ぐにでも戻ってこられるだろうし、問題はないだろう。
「バカもんがっ!!!」
タウンハウスに戻った俺を待っていたのは親父……シャウナ男爵その人だった。
親父は俺が馬車から降りるなり、御者や執事の目があるにもかかわらず俺を殴りつけてきた。
「なにするんだっ!!」
「お前がバカなことをしてくれたおかげで、シャウナ男爵領がどれだけ大変になったかわかっているのかっ!?」
「バカなこと!?」
親父がキレていることはわかるが、俺には何が何だかわからない。
「ゲルハルディ辺境伯に対して横柄な態度をとったらしいな」
「ゲルハルディ辺境伯? ゲルハルディ伯爵子息だろ?」
「学園に通っていたというのに、そんなことも知らなかったのか。かの方は、南大陸からの侵略者を退けた功績で辺境伯に任じられている」
「……ありえねえだろ、俺と同い年だぞ」
「陛下が直々に任命したことをお前ごときが有り得ぬなど言うな!」
「知らなかったのは悪かったが、親父は知ってたのかよ?」
「今は儂のことは関係がない。お前が……たかが男爵子息ごときが、国でも最高峰の貴族である辺境伯に喧嘩を売ったことが問題だと言っておるのだ」
親父は俺ばかりを責めるが、親父だってゲルハルディ伯爵子息が辺境伯になっていたなんて知らなかったはずだ。
王都に入ってからは会っていないが、領内にいた時にも親父から辺境伯の話なんて一度も聞いていないからな。
「喧嘩ったって、別に学生同士のお遊びみたいなもんだろ」
「そのお遊びで、辺境伯領との取引がなくなったんだぞ!」
「……辺境伯領じゃなくてバルディ領だろ」
「バカがっ! バルディ領の跡取り娘がゲルハルディ辺境伯の元に嫁ぐんだぞ! バルディ領はとっくにゲルハルディ辺境伯領の傘下に入っておるわっ!」
「……レナ嬢はゲルハルディ伯爵子息に脅されているんだ。俺がレナ嬢を救い出せば、ゲルハルディ家との繋がりなんて……」
「バカもんがっ!!!!」
俺の言葉を遮るように、親父の鉄拳が飛んでくる。
元・騎士、現・男爵だけあって鍛え抜かれた親父の鉄拳はかなり効く。
「……なんだよ、事実だろ。伯爵子息……辺境伯だからって傘下の令嬢を嫁にするなんて間違ってるだろ」
「だから、お前がバルディ家の婿に入るとでも? そもそも、バルディ男爵令嬢とお前に接点などないだろうに」
「……会ったことくらいはあるさ。……それに、ゲルハルディのやつがいなければ、直ぐにでも俺の魅力に気づいてくれるさ! 同じ男爵の子供なんだ、釣り合いも取れてるだろ!」
「はぁ……それなら、その夢は叶わんな」
「……どういう意味だよ」
「今日を持って、お前を勘当する! お前は男爵の子供ではなくなるから、釣り合いは取れんというわけだ!」
「…………は?」
「落ちぶれて犯罪者になられても困るからな、知り合いの騎士の家に預けることにする。農家も兼業しておるところだから、仕事には困らんぞ」
「ま……待ってくれよ」
「待たん! お前のせいでシャウナ男爵領が大変だと言ったろうが! 安心しろ、その家には引退した騎士も大勢いるからな、お前が暴れようが喚こうが、きちんと躾てもらえるぞ」
俺の抵抗もむなしく、俺は貴族学園を退学にさせられ、騎士兼農家の家に連れていかれることになった。
それ以降は剣を握ることもなく、ゲルハルディやレナ嬢に会うこともない。
暇になれば、どうしてこうなったのかと考えてしまう毎日なので、一心不乱に畑を耕す日々となった。
本当に、俺はどこで何を間違えてしまったのだろうか。




