119 ローズマリー嬢との再会
「待っていましたわっ!」
俺たちが王都の屋敷に着くと、なぜかローズマリー嬢が仁王立ちして俺たちを待っていた。
「屋敷に入ることは許可したけど、なんで玄関ホールで仁王立ちして待っているんだ?」
「一刻も早く会いたかったからですわ」
「大人しく客室で待っていてくださいよ。こちらも着替えたりなど準備があるんですから」
ローズマリー嬢とも長い付き合いになっていて、こちらの使用人とも交流があるから玄関ホールで待っていても見逃されていたのか。
とはいえ、流石に公爵家のご令嬢が客室にも入らず仁王立ちで待っているなんて、あまりにも外聞が悪すぎだろ。
「別に着替えなくても私は構いませんわよ」
「こちらが構うので。……ローズマリー嬢を客室に案内してくれ。茶と茶菓子も忘れずに」
「かしこまりました」
「レナとクリスタは着替えたら客室に向かって、ローズマリー嬢とお茶をしててくれ。俺は執務の確認をしてから向かうから」
「はい、マックス様。クリスタ、私室を教えますね」
「ありがとう、レナ」
メイドがローズマリー嬢を、侍女がレナとクリスタを案内していく中、俺は王都屋敷付きの執事と侍従を連れて執務室へと向かう。
ローズマリー嬢の相手も大事だが、俺は俺で辺境伯としての仕事がある。
「急ぎの連絡は何か来ているか?」
「国王陛下から明日の午後に登城するようにとのご連絡が……それとエルメライヒ公爵閣下からのお手紙も」
「陛下の方は謁見がひと段落した後の時間か……料理長に話を通して手土産を準備させておいてくれ」
「はっ」
「で、エルメライヒ公爵の方は……ふむふむ、ローズマリー嬢の婚約者が決まったのか」
「ほう、どなたに決まったのですか?」
「予想通り北東辺境伯の嫡男だな。そちらは学園を卒業済みのため、学園内ではウチと行動を共にしてほしいそうだ」
「マックス様がお相手なさるのですか?」
「まあ俺も少しは関わるがメインはレナだな。ローズマリー嬢も家政科に進むらしいから、ちょうどいいだろう」
婚約者が出来たばかりの令嬢に男の影があるのは外聞が悪いが、レナがメインに相手をしていれば大丈夫だろう。
そもそも北東辺境伯とウチは交流が深いし、おそらくは直ぐにでも北東辺境伯からもローズマリー嬢の庇護を頼む手紙が届くだろう。
「急ぎはこれくらいか?」
「そうですね、あとは追々でも大丈夫でしょう」
「じゃあ俺も着替えて客室に向かうかな」
「それがよろしいかと」
学園の入学手続きや、王都屋敷の管理など、手を付けなければいけない仕事はあれど、流石にローズマリー嬢を放っておき過ぎだからな。
不測の事態が起きた時のために余裕をもって出発したから、貴族学園入学まで時間もあるし、その辺は少しずつ手を付けていくか。
「待たせたな」
「あら、やっと来ましたのね」
「色々と確認することがあってな。楽しそうにしていたが、何かいい話でもあったか?」
俺が客室に入るとローズマリー嬢とレナ、クリスタが楽しそうに話していた。
まあ、クリスタは若干緊張していたようだが、レナはともかくクリスタはローズマリー嬢との面識が少ないから仕方がないか。
「そう! マックス、このお茶菓子が美味しいって話をしていたのよ!」
「お茶菓子?」
ああ、抹茶のロールケーキか。
ゴールディ国との交流が進むにつれて、領地の方でも抹茶やら小豆やらの生産が始まったから、料理長に抹茶関係のお菓子のレシピを渡していたな。
初期の頃に試食はしていたが、ローズマリー嬢が褒めるということは完成度も高くなっているのかな。
「ロールケーキ自体はありふれたものですけど、渋みと甘みのバランスが良いですわね」
「領地の方で採れたお茶を使ったものだな」
ヴァイセンベルク王国ではお茶といえば紅茶で、緑茶や烏龍茶などの形態で飲まれることはほとんどない。
だからそもそも抹茶を使った料理など存在しないのだが、ローズマリー嬢の反応を見る限り受け入れられないものでもないのだろうな。
「緑なのが斬新ですわね。それに、この黒いのがクリームとは違った甘さで面白いですわ」
「黒いのは甘く煮た豆ですよ」
「豆ですの!?」
「こちらでは豆といえばスープの材料に使うものですが、ゴールディ国では甘く煮たものが普通だそうですよ」
「そうなんですのね」
ローズマリー嬢は豆を甘くするというのに衝撃を受けたのか、しげしげとロールケーキを覗き込みながら少しずつ口に含んでいる。
まあ、俺も前世ではスパイスケーキだのカリフォルニアロールだのを初めて食べた時には困惑したものだしな。




