118 王都への旅立ち
「では、父上、母上。行ってまいります」
「うむ。貴族学園では一生ものの出会いもある。よく学び、よく遊ぶように」
「クラウス。マックスは既に辺境伯なのですよ。遊びに関してはきちんと注意してください。……マックス、ゲルハルディ領を背負う身なのですから、変な遊びはしないように」
「わかっておりますよ、母上。……レナとクリスタの目があるということもありますが、ゲルハルディ辺境伯として恥になる行為には注意します」
やるべきことをこなしていると、あっという間に貴族学園に入学する年齢になってしまった。
辺境伯会議の招集はあれ以来ないが、北東辺境伯とはウイスキーボンボンの取引、南辺境伯とは香辛料の取引が盛んになっている。
もちろん王都との取引も盛んになっていて、陛下や宰相閣下だけではなく多くの中央貴族との取引によってゲルハルディ領の景気もうなぎのぼりだ。
「レナ、それにクリスタもマックスのことをきちんと見張っておくように」
「はい、お義母様。私は家政科ですので学園内では無理ですが、クリスタがきちんと見張ってくれるでしょう」
「お任せを」
ちなみにクリスタを第三夫人に、という話だが、結局のところ俺が折れる形で決着はついた。
正直な話、今でも前世の常識が身に染みているから、不誠実な感じがして嫌ではあるのだが、この世界では貴族の重婚は良くある話で、それで幸せになる人が増えるのなら良しという感じだからな。
それに貴族学園に入れば主人公やヒロインと嫌でも絡むことになるし、領主・騎士科の中で1人にならないように対策も立てなければならなかったからな。
「マックス様、何かありましたら直ぐにご連絡を」
「わかってるよ、クルト。とはいえ、アイリーンの護衛で3か月に1回は王都に来るんだろう?」
「それでもです。辺境伯であることは言いふらさないと言っていますが、それでも躍進著しいゲルハルディ領の出身なのです。周囲がどのように反応するかは未知数なのですよ」
「わかってる、わかってる。何かあったらすぐに連絡するって。……ま、ヤバい時には陛下も手を貸してくれるらしいから、大丈夫だって」
陛下からは内々の話で、無能な貴族をあぶりだすためにも俺とレナに辺境伯、辺境伯夫人であることを言いふらさないようにと指示が来ている。
既に貴族名鑑には俺とレナが辺境伯夫妻であることは明記されているが、貴族名鑑を確認しない貴族もいるということでそのあぶり出しだろう。
代わりと言っては何だが、俺やレナが危なくなった場合には、陛下が手を貸してくれることになっているので、こちらとしてもメリットのある話だ。
というのも、ゲーム内のヒロインの中には辺境伯の俺でさえ蔑ろにはできない身分の人間も含まれるので、自分だけで対処するのは難しいと思っていたからな。
「では、そろそろ出ますね。父上と母上はアンナとカリンのことをよろしくお願いします。アイリーンとクルトは3か月後に」
この世界では旅の難易度が前世の比じゃないから、別れ際は話が長くなってしまうが、さすがにそろそろ出発しないと旅程に問題が出るからな。
俺や騎士団の連中だけならともかく、レナとクリスタがいる以上、野宿を続けるのも辛いものがあるから、ある程度の旅程は決まってしまっているんだ。
「マックス様、王都に着く前に気を付けなければならない人物などを教えてください」
馬車に乗り込んでほどなくしてレナが話しかけてきた。
護衛の騎士たちは馬車の外で警護しているから、馬車内には俺とレナ、それにクリスタしか乗っていない。
「まずはミネッティ伯爵令嬢だな」
「マックス様に無礼を働いた女ですね」
「無礼……ですか?」
「大したことじゃない。陛下からの提案で王家派の人間を国王派に取り込むために、俺とミネッティ伯爵令嬢との婚約を結ぼうとしたことがあるんだ」
「それを身勝手にも潰した女ですよ」
あの時は俺もそうだが、ミネッティ伯爵令嬢も5歳だったから身勝手な行動をとっても年相応って感じだが、未だにレナは怒り心頭のようだな。
「ま、そんな風にこっちを敵視しているというか、蔑んでいるから注意が必要だな。……あとは、その従者か」
「従者……ですか?」
「ああ、ミネッティ伯爵令嬢が俺との婚約の顔合わせに連れてきていた少年だな。見た感じは同年代だったから、貴族学園にも連れてくるかもしれない」
貴族学園は側仕えを連れることが許されていて、俺やレナ、クリスタもそれぞれ同性の従者を連れていくことになっている。
ちなみに俺の従者はクルトじゃなくて、ヨーゼフの後釜になるはずの執事見習いだ。
次期当主ならば護衛を連れていくべき、という声もあったが、王都では多数の貴族と関わるから執事を連れて行かないわけにもいかなかったんだよな。




