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106 貴族議会(国王視点)

「あり得ませんっ! たかだか8歳の子供が辺境伯になるなど、前代未聞ですぞっ!」


 ゲルハルディ家への対応をあれこれした後に、王都にいる主要貴族……貴族議会の連中を呼び寄せてみたが、やはりというかなんというか紛糾しておるな。


「ですが、ヴァイセンベルク王国の法律書にも記載されていますよ? 外伐を行った辺境伯に任命する、と」


「そもそも! そんな子供が本当に外伐を成したかなど分からんではないですかっ!」


「ほう? 我が送った視察団が虚偽を報告したといいたいのか?」


 宰相の言葉に対して、意気揚々と反論した貴族を睨みながら言ってやると、その貴族は「あのその」などと言いながら小さくなった。

 ふん! 少し睨んだだけでそんなに小さくなるなら初めから反論などするでないわ。


「陛下の言を疑うわけではありませんが、ゲルハルディ伯爵令息にも負担になりましょう? ここは父親であるゲルハルディ伯爵の功績ということにして、そちらを辺境伯に任ずるのでは?」


「もちろん我もそれを考えた。だが、ゲルハルディ伯爵からは息子の功績を奪うつもりはないと返答を貰った」


 我や宰相にとってはクラウスの言葉は最初から分かり切っていたことだが、やはり貴族議会の連中には理解不能らしく戸惑っておる。

 ま、こやつらもそうだが、貴族という連中は権力と金を集めることを目的にしているようなやつが多いからな。

 ゲルハルディ家のように、権力も金も二の次で、領民のために何が出来るかを第一にしているようなやつらの考えは分からんのだろう。


「私は陛下の考えに賛成ですな」


「エルメライヒ公爵……そなたが我の考えに賛成するなど珍しいな」


「ゲルハルディ伯爵令息とは面識がありますからな。彼は優秀ですよ。それに、ダンジョン攻略者だというのに勇者の称号を辞退したとか」


「うむ。ゲルハルディ伯爵令息から直々に辞退を申し出られた」


 王家派の二枚看板であるエルメライヒ公爵が我の考えに賛同するのは珍しいが、確か王城にクラウスとマックスが来た時に接触していたからな。

 おそらく、なにがしかの繋がりを持っているのだろう。


「ダンジョン攻略者に栄誉を与えぬのは国の恥。此度のことでも栄誉を与えずにいれば、辺境の反乱にもつながるでしょう」


「そんなバカな! 辺境のやつらは国を守るのが仕事ではないか!」


「そなたらこそバカなことを言うな! 国を守るのは全貴族の務め! 辺境だけの仕事にあらず!」


 エルメライヒ公爵の言に対して他の王家派の連中が口を出してきたが、明らかに言っていることがおかしい。

 確かに辺境伯には外敵から国を守る責を課しているが、国を襲う勢力は外敵以外にもモンスターや野盗、食い詰めた冒険者など様々だ。辺境伯だけが国を守る義務があるわけではない。


「陛下の仰る通りですな。それに、辺境の仕事が国を守ることなら、国を守ったゲルハルディ伯爵令息に辺境伯を任ずるのは当然では?」


 エルメライヒ公爵の言葉に、貴族議会の連中からは次々に賛意が聞こえてくる。

 ふう、これでマックスのやつを辺境伯にすることが出来そうだな。


「では、ゲルハルディ伯爵令息には登城の要請をし、辺境伯へと叙爵する。加えて、ゲルハルディ家の傘下になるカレンベルク、ヒッペ、エンケ、バルディ、メーリングは伯爵位に叙する。よいかな? フォーゲル公爵?」


「ええ、もちろんです」


 フォーゲル公爵はエルメライヒ公爵と並ぶ王家派の筆頭だが、子飼いの貴族が外敵征伐の際に治めていたメーリング領から逃げ出している。

 だからこそ、メーリング領をゲルハルディ家の傘下に加えると話せば何か抗議をしてくるかと思ったが、流石にそこまでバカではないか。


「前メーリング伯爵である、パウル・フォン・メーリングは敵前逃亡の罪で貴族位をはく奪。次期伯爵にはゲルハルディ家の推薦により当地の騎士であるライナー・フォン・バルを指名する」


 一瞬ざわざわとしたが、貴族議会の連中も歴戦の猛者ばかり、直ぐに我の言に賛意を示す。

 ヴァイセンベルク王国では貴族は、その実力を持って民を守るものと規定されている。だからこそ、領民を見捨てて王都に逃げ出した輩を貴族のままにはできない。

 フォーゲル公爵がこれを忘れて、自分の子飼いを失ったことを抗議してくれば、それを理由に公爵の権威をそげたのだが残念だ。


「陛下。ゲルハルディ伯爵令息が辺境伯となるのならば、してほしいことがございます」


「うむ? なんだ、言ってみろ」


 こやつは確か王都からみて北西に位置する貴族か。ゲルハルディ家が治める南東とは正反対に位置するが、何を言い出すやら。


「現在、北西辺境伯が帝国からの進撃を受け、我が貴族領に増援を要請しています。その増援をゲルハルディ伯爵令息に頼みたいのです」


 は? こいつは一体何を言っているのだ?


「なぜ、ゲルハルディ伯爵令息が北西辺境伯の増援に行かなければならないのだ?」


「増援と言っても帝国と渡り合うわけではありません。進撃を退ける期間、辺境伯領のダンジョンを管理してほしいというもの」


 それは分かっている。ダンジョンは放置しておくと、モンスターが内部で溢れ外に飛び出してしまう。

 だから、ダンジョンを持つ領地は冒険者や騎士を使ってダンジョン内のモンスターを間引く必要がある。

 北西辺境伯も普段は自領の騎士団でモンスター討伐を行っているが、戦争中は難しいので後詰を他領に頼んだのだろう。


「だから?」


「ゲルハルディ伯爵令息はダンジョン攻略者と伺っております。やはり、ダンジョンを管理するのならば手慣れているものが良いでしょう」


「だから、ゲルハルディ伯爵令息を北西に送れ、と?」


「ええ」


「ふざけるなっ!!」


 我の一喝により、貴族議会の連中のやつらが肩を震わす。


「なぜ、縁も所縁もないゲルハルディ伯爵令息が貴様の尻ぬぐいをしなければならんのか!」


「で、ですが、こういったことは専門家が行ったほうが……」


「くどいっ! 何が専門家だっ! 貴様ら王都に近い貴族にも騎士団を常駐させるための予算を組んでおるではないかっ!」


 確かに、クラウスの息子であるマックスは有能なダンジョン攻略者だ。

 だが、だからといって、なぜマックスが大した努力もしなかった者たちの尻ぬぐいをするために自領を放棄して他領の助けに向かわなければならないのか。

 有能だから? ダンジョン攻略者だから? 辺境伯だから? ふざけるでないわっ!


「良いか? 辺境伯は国を守る要。他領の救援に向かうことはないと思えっ!」


「で、では、ゲルハルディ伯爵では?」


「同じことだっ! 辺境伯に任じられれば、仕事量もこれまで以上となる! 家族として一致団結しなければならん時に、他領の救援など行けるはずがなかろう!」


「そ、そんな」


「それとも、貴様の領はまともに救援にも向かわせられんほど騎士がおらんのか?」


「い、いいえ」


「ふんっ! これで今回の議事は終了だ」


「「「「はっ!」」」」


 最後にバカが出たが、とりあえずマックスを辺境伯にすることは出来そうだな。

 しかし、最後に言い出したやつは何を考えていたのだ?


「宰相、あの貴族を調べろ」


「わかっております。恐らくは出費を嫌がったのでしょうが、もしかしたら騎士団のための予算を横領している可能性もありますからな」


「うむ、そもそも辺境への救援についても予算を渡すはずであろう」


「予算があってもろくに訓練していない騎士なら殉職の可能性もありますから」


「ああ、それもあるか。王都近辺の騎士団への査察も必要か?」


「考えてはおきますが、嫌がられるでしょうな」


「はあ、信用できるのは王都から離れている辺境ばかりとは、辛いものだ」

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