102 騎士志望の若手の様子
「久々に騎士団のほうに顔を出してみたけど、メーリング領の連中は慣れたのか?」
「はい、騎士志望の子供たちは見習いとして受け入れましたが、見どころのある者が何人かいますよ」
レナとの仮婚姻式だとか、ゴールディ国関連の商取引なんかが一段落したので、メーリング領から引き受けた若手の様子を見る余裕が出来てきた。
半数は文官として引き受けたから、屋敷で顔を合わせることもあるんだが、騎士志望の連中はどうなってるのかわからなかったからな。
騎士団が訓練をしている場所までやってきて、こうしてクルトにどうなってるのか聞いてるというわけだ。
「文官志望の方も何人かゲルハルディ家で雇いたいレベルの者がいたからな。メーリング領はトップがアレだっただけで、下はまともだったってことか」
「かもしれませんね。王都の方から連絡は来ているのですか?」
「メーリング領に関してか? 一応、陛下からの私信ではメーリング領はゲルハルディ家が傘下に加えていいと許可は得ている。前メーリング領主は敵前逃亡と領地放棄の罪で貴族籍をはく奪するそうだ」
「ならば、連れてきた若手たちも本格的に鍛えられますね」
ま、王都の連中が前メーリング領主……パウル・フォン・メーリングを領主のままにすると判断したら、敵を鍛えるだけになってしまうからな。
陛下からは内々だが、ライナーを領主代理にする許可も貰っているし、本格的にメーリング領の発展も考えていかないとな。
爺様からの報告では、メーリング領は交易港にするには難しいが、漁港としては有望らしいのでその方面での活用を考えているんだが、ライナーの意見も聞かないといけないしなぁ。
「で、騎士志望の連中は態度はまじめ?」
「ですね。領主代理になったライナーの娘が、真面目に取り組んでいますので他の者も手が抜けないのでしょう」
「あ~、まあ確かに上に立つことが確約されている人間がまじめにやってるのに、サボるわけにはいかんか」
「ですので、マックス様も、もう少し騎士団に顔を見せていただければ、若手もやる気になるのですよ?」
おや? メーリング領の連中の態度を聞いていたのに、俺への批判になっていないか?
ま、確かにここ最近は忙しくて騎士団には顔を見せてなかったからな。
辺境伯になることがほぼ確定したし、騎士との交流を増やすためにも訓練の時間を長くとっても良いかもな。
「ま、王都へ行くたための準備もあるから直ぐには難しいが、騎士団の方で訓練できるように調整するよ」
「ええ、若手はもちろん、ベテランもマックス様に会いたがっていますから」
「若手は純粋に慕ってくれてるんだろうけど……ベテラン連中はどうせ父上の相手をしてほしいとかだろ?」
「ノーコメントでお願いします」
答えられない時点で、答えになっているんだよクルト。
「ま、騎士団で訓練しても父上の相手はしないからどうでもいいけど」
「……マックス様」
「クルトたちが命が惜しいように、俺だって命が惜しいからね。父上との訓練なんて命がいくつあっても足りやしない」
「……騎士団に被害が出るのですよ?」
「今まで通りギュンターにやらせておきなよ、騎士団長なんだからさ」
いつも通りの不毛なやり取りをクルトとしているうちに訓練場に着いたが、ちょうどメーリング領の若手が訓練をしているようだ。
ああ、あのひと際真面目そうな女の子がライナーの娘、クリスタ・フォン・バルだな。
デザイナーからは主要登場人物のデザインは一通り見せてもらっていた、というか、酒の席で延々と見せられていたから覚えている。
サブヒロインはゲーム上ではスチルも立ち絵も存在していないが、デザイナーは律儀にサブヒロインの設定画も作っていたからな。
「マックス様、どうです? メーリング領の若手は?」
「真ん中でショートソードを振っているポニーテールの子は筋が良いな……他もまあまあだが、なんで斧や双剣を振っている奴がいるんだ?」
「真ん中の子はライナーの娘ですね。斧や双剣は……すみません。ベテランの方々が面白がっていろいろと教えていまして」
「だろうなとは思ったよ。ウチの流儀でいえば、好きな武器を振るわせるで良いんだけど、メーリング領に帰る可能性もあることは忘れるなよ」
「はい、皆にも伝えておきます」
ゲルハルディ領の騎士団は実力至上主義な上に個人主義だから、自分の実力が発揮できればハルバードだろうが、丸太だろうが、針だろうが好きに使えっていう方針だ。
だけど、他の領の騎士団ではロングソードとラウンドシールドで統一して、集団で戦闘を行っているからな。
あんまりゲルハルディ式に染めきってしまうと、後が大変だとクルトには伝えておいた。




