10 あたしはメインヒロイン(カタリナ視点)
「嘘でしょ……!?」
気づいたらあたしは青い髪が特徴の女児になっていた。
確か、大学を卒業したものの就活も面倒で適当な会社に入ったら、そこが超絶ブラック。
やる気をなくして早々に退社して、お兄ちゃんにゲームを借りたりして遊んで暮らしてたはずだったよね。
「カタリナお嬢様? どうかされましたか?」
「……えっ!? ええ、何でもないわ」
一瞬誰のことかと思ったけど、どうやらあたしのことみたい。
もしかしてさ……もしかしなくてもだけど、これって異世界転生ってやつ!?
すごいじゃん!? 鏡を見る限り、結構な美人だし、もしかしてヒロインなんじゃない!?
あ、でも最近の流行だと悪役令嬢ってこともあるのか……悪役令嬢ものってハッピーエンドになるために婚約破棄されたり、頑張ったりで面倒なのよね。
「カタリナお嬢様、今日からは周辺領の勉強を始めますよ」
声をかけてきたメイドさん(?)の側にいたひっつめ髪で眼鏡をかけたオバさんが、あたしに対して話しかけてくる。
っていうか、勉強!? うえ~、めんどくさ~。まあでも、どんな世界に転生したのか調べるにはいいか。
「わかりました」
「お嬢様が住んでいるのはミネッティ伯爵領ですが、周辺には同格の伯爵領とエルメライヒ公爵があります。公爵は与えられた土地の一部を部下に与える権限があり、お嬢様の御父上、ミネッティ伯爵も公爵に任じられて伯爵になった1人です……」
オバさんが説明を続けているけど、あたしはその説明はほとんど聞いていなかった。
だって、このオバさん、ミネッティ伯爵家って言ったよ? しかもエルメライヒ公爵家? それってあたしがさっきまで……というか、前世でプレーしてたゲームの設定じゃん。
そうだよ、メインヒロインの1人がカタリナで、確か名字がミネッティ。ラスボスはローズマリーでエルメライヒ公爵だったよね?
ってことは、やった! 勝ち組じゃん!
前世では天パーとストーンとした体形がコンプレックスだったけど、カタリナはロングストレートで爆乳なのが売りだし、万々歳だよ!
あれ? でも、カタリナって白豚悪役令息と婚約するんだっけ? シナリオの中盤に婚約破棄できるけど、あんな白豚と一時でも婚約するのは嫌だなぁ。
……そういえば、主人公のアルフレートって公爵領に住んでいる孤児をローズマリーが拾ってきたんだっけ?
じゃあ、あたしが先にアルフレートを拾って婚約しちゃえばいいんじゃない?
どうせ、主人公のアルフレートはカタリナとも婚約するんだし、何よりローズマリーに手を付けられる前のアルフレートを拾えば自分の好みに育てられるじゃない?
あれっ、これって最高じゃん! あたしって天才じゃない!?
で、見事成功したってわけ。今あたしの隣には執事服を着たアルフレートがいるのよっ! もう最高!
まあ、両親の説得で1年くらいかかったのは誤算だったけど、ローズマリーに拾われる前のアルフレートを発見したときは小躍りしてしまったわ。
「カタリナ、お前に婚約話が来ている。拾ってきた孤児の面倒を見るのも良いが、きちんと勉強もするようにな」
「えっ!? 婚約!? 嫌ですわ!」
「嫌っ!? いやいや、お前が何と言おうと婚約は両家が決めたことだ。何があろうと会ってもらうからな。……まったく、少し甘やかしすぎたか」
なによもう! 婚約ってもしかして、悪役令息と!? 本当に嫌なんだけど!
「ねえ、婚約って誰となのか分かる?」
「ゲルハルディ伯爵家と聞いて居ります」
近くにいたメイドに聞けば、そう答えが返ってきたけど、ゲルハルディ……確か悪役令息がそんな名前だったような。
でも、攻略サイトでも白豚悪役令息って書かれてたし、あんまり覚えてないのよね。
ま、いいか。気に入らなかったら婚約しないって言っちゃえばいいものね。
そもそも、本人の意思を無視して婚約なんてありえない話よ!
「わたしがあなたなんかと婚約なんてするわけないでしょ! うぬぼれないでよねこの悪役令息が!」
だからさ、悪役令息と会うってことになったときに、こう言ってやったのよ。
しかも隣には主人公のアルフレートを連れてね。
会ったら本当にあのゲームの悪役令息を小さくしたような男の子がいたんだけど、まさに白豚って感じで笑いそうになったわ。
お父様もそうだけど、この国の貴族男性ってだらしなく太っている人が多くてやんなっちゃうわ。
その点、アルフレートはすらっとした細マッチョであたしの好みど真ん中、アルフレートにはこのまま鍛えていってほしいわね。
このゲームのシナリオなんてほとんど覚えていないけど、あたしはメインヒロインなんだし、主人公も確保したし、なにをやってもハッピーエンド間違いなしよね!