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第2話:戦闘終了

『え? 後ろに居たのか? 確かにカメラワーク変な気はしてたけど…』

『もしかして友達できた?』


「いや、友達は居るわ。一人配信がやりたかっただけで」


 茶化すコメントに反論する連理(れんり)


『わざわざこんな演出をするということは……そういうことだな?』


 少しざわつき始めるコメント。

 そして、ボスが動き出す。


 立ち上がり、手に持った杖を軽く持ち上げてから石畳の地面に向けてカン、と突いた。

 何かの波が広がり、それに合わせて空間が蜃気楼のように一瞬歪む。そして、その波に追従するようにして地面から影が立ち昇った。それは人の形となり、影の軍勢として彼らの前に立ちはだかる。


 しかし、こんな風に真面目にボス稼業をする彼に比べて、探索者である四人は随分のんきなものだった。


『前は一回死んで(・・・)たけど、今回は一人じゃないし行けそうか?』


 ダンジョン内では魔術で動く生命保護装置を使用することが義務化されている。

 そして、それがあればダンジョン内で人は死なない上、体が頑丈になる。瀕死になれば、入り口に転送されるのだ。日本人が開発した革新的な装置で、全世界で使用されている。

 とはいえ、義務化されているのは日本くらいだが。


「おい死んだとか言うな。ダンガーが発動しただけだわ」


 ダンガー、というのは装置の略称だ。元は『ダンジョンライフガード』、本来の製品名称はもっと長いが、これは通称のようなものだ。


「それはもう死んでるようなものです――よ!」


 天音(あまね)はその影の兵士の攻撃を半身を引いて避け、蹴りをお見舞いしてからライフル銃の射撃をお見舞いした。

 しかし、その銃身から出たものは本物の弾丸ではないようだ。


「……ダンジョンの死っていうのは、本来そんな軽々しいものでもないはずなんだけどな」

「え? 何か言ったか?」

「いや、なんでもない」


 言葉とともに、零夜(れいや)は文字通り消滅した。

 そして、数メートル先――敵の眼の前に出現する。彼が振りかぶった短剣により影は霧散する。さらに返す刀でもう一体も消滅した。


『すげぇ! あれなんかのスキルか?』


 スキル、とは個人に帰属する強力な魔術のようなものだ。

 一部傾向はあるものの、ありとあらゆる種類の能力が存在する。その原理の究明に現在も世界中の研究者が奔走(ほんそう)している。


「説明しよう! 彼のスキルは『明滅する死神』。効果は短距離テレポートで、二秒に一回使えるぞ! 素直に強い!」


 ちなみに、スキルの名前は鑑定の魔術やそれに類するスキルによって行われる。しかし、それは魔術やスキルなど人体に関わる限られたもののみの特性で、アイテムの類は人間が名付けている。


『ブリンクか。てことはつまり◯ーバーウォッチのトレーサーだな』


「え? まあ多分そう……かな?」


 視聴者の例えに、連理は理解できていない様子だ。


「あとは私が全員殲滅してやりますよ!」


 と、明里(あかり)は物騒なことを言いながら飛び出してしまった。

 そして――彼女には、いつの間にか犬のような耳と尻尾がひょっこり生えていた。


 目にも止まらぬ速さで影の中に特攻し、爆音。彼女の持つショットガンの銃身の一部が紫色に光ったかと思えば、普通の銃と同じような赤色のマズルフラッシュが輝き、敵をなぎ倒す。

 カチャンと音を立ててコッキングを行うと、(から)薬莢(やっきょう)薬室(やくしつ)が一つ飛びててくる。

 そう、これは魔導式ショットガン。魔術を利用して弾丸を射出するため、ダンジョン内でしか動かない安全使用の銃器だ。

 そして、振り返りざまに後ろの影を殴り、体勢を崩したところに足の刃で攻撃し影は消滅。


『あの尻尾ってどうやって生えてるんだろうな。たまにあのタイプのスキル見るけどいつも気になってる』


「……分かる。しかし聞くな。デリケートな話題だ」


 素朴な疑問に冗談混じりに答える連理。実際、尻尾がどう生えているのかは本人しか知らない。


『てかこれもしや全員スキル持ち?』


「そういうこと。だから実力はあるんだけどまあ……ちょっとクセモノ多めというか。特に明里がというかなんというか」


 他二人から引いた場所で天音はそのライフルを構え、白色の弾丸を射出し、敵を消滅させていた。連続で三体ほど倒した後に、横のレバーを引くとそこから紫煙が吹き出る。

 先ほどもその片鱗(へんりん)を見せていたが、これはただの銃火器ではない。魔術銃というもので、魔術や魔力をそのまま撃ち出す銃だ。

 他にも、明里が使うような魔導式の銃も存在するが、あちらは専用の弾丸を魔術的に撃ち出すものであるため、また少し違うものになってくる。

 ちなみに、魔術銃は弾の値段が掛からないので家庭的な銃器となっている。


 そこで、敵が動いた。杖を構え、こちらに突き出す。すると、明里と天音の居る地面が赤く輝き出した。


「明里さーん、攻撃来てるぞー。地面見てー」


 どことなく呑気な連理の声が響く。


「え〜?」


 少し声を張り上げた明里。しかし地面を見るでもなく、目の前の敵を処理してから連理の方を向く。


 次の瞬間。火柱が立ち昇った。


「ぎゃー!」

「あ、やっぱ集中してないとほんとダメだな」


 連理とあの三人は、何度かすでに探索していた。

 その中で、明里は緊迫した状況以外では全くダメダメだということが分かったのだ。


 火柱の中から飛び出してきて、装備が一部黒焦げになりながら、髪についた火を消すためにわちゃわちゃしていた。

 ダンジョンで使うような装備は、まず生半可なことで全焼はしない。それに、ダンジョン内では痛みの軽減が行われ、さらに探索度合いに応じた身体へのバフ――要するにレベルのようなものが存在する。それに、ダンガーが衣服を含めた体を保護してくれるため、滅多なことでは壊れたりしないのだ。


 さらに言えば、彼女は今スキルで強化されている。痛みも傷も大したことはないだろう。


「……まあえっと、ちまちまやるのも絵面が地味な上に面倒ですから、一気にやりましょうか」


 どこか呆れた様子の天音(あまね)

 そして、その発言とともに、彼女の背にバサリと白い翼が広がった。頭に浮かぶは神聖な輝きを放つ黄金の光輪(ヘイロー)。そして、彼女の黒い髪は美しい銀色へと変化していた。

 その姿を形容するならば――天使、だろうか。


『すげぇぇぇ! 今はこんな高校生が居るんか……』


 彼女は一歩下がり、祝詞(のりと)を紡ぐ。

 これが魔術の原型。ダンジョンによってもたらされた、奇跡の術。科学的に研究され、多くが解明された今でもなお未知の残る神秘の術。


 人々はその奇跡に魅了される。


「――神聖なる輝きよ、その(まばゆ)い光を(もっ)て敵を退けよ。『ラディアンス』」


 ライフルを構え、杖のようにして掲げる。


 直後、光が弾け、周囲の影の兵士が消え去る。

 影の兵士も、その攻撃がトドメとなりほとんどが消滅する。


『カッコええ。これが天使ちゃんですか?』

『てか魔術強ぇぇぇ!』


 それから、ボスの眼前に零夜(れいや)が出現した。手に持った魔石が弾ける。それとほぼ同時、今度は炎を帯びた刃が首元をなぞった。裂かれた場所は、炎の残滓が残りさらなるダメージを与えていた。

 敵は首元を抑えながら苦しんだ。一撃強化魔術の入った魔石によるバフの乗った攻撃はかなり堪えることだろう。

 その下から、火消しを終えた明里が突っ込んだ。


「これでも食らえっ!」


 魔導式ショットガンが腹部に撃ち込まれる。


 それから、連理がグレネードランチャーを構えた。

 実は、彼もスキル持ちである。

 そのスキルは『残滓の追求』。鑑定の魔術によって名付けられるそれは、ダンジョンから産出したアーティファクトの分析・使用ができるというものだ。


 つまり、彼は数々のダンジョンから産出されるアーティファクト――それも、ダンジョン内に点在する、何らかの文明が作ったアーティファクトで武装しているのだ。


「じゃあいつものコンボいくぞー!」


 トリガーに指を掛けると、キュルキュルと音を立て始めた。さらに数秒後ポン、と音を立て飛来したそれは、ボスに当たると紫色の魔術陣が一瞬展開され、ボスの動きが阻害された。

 連理はボスに走って近づき、飛んだ。

 そしてボスの左腕の肘を向けると、腕に装着されていた黒色の装置がオレンジ色に輝き出す。


「フラクティオパイルッ!」


 叫び、何かが爆発した。凄まじい音とともに金属の杭が打ち出される。それはボスの胸に直撃し、深く突き刺さった。

 ちなみに、技名を叫ぶ必要はない。曰く、カッコいいからやっているとのこと。


 連理は追撃とばかりに右手に持った剣を横薙ぎに振り、その体に炎の切り傷を残す。

 体勢を立て直しながら着地し、ボスの方をちらりと見る。


 黒色の影のようなエフェクト(・・・・・)を吹き出しながら、ボスは前に倒れ込む。それから、その姿は影となって霧散した。

 後に残ったのは、一つの布切れと一つの鍵だった。


『つんよいしカッコよ。なんだこれ』


 初めてこの配信を見たらしい視聴者がコメントを残す。


『仲間もかなり強かったけど、相変わらずパイルバンカーくんと動作停止グレランのコンボがヤバい。反則定期』

「サブステイシスとかいうヤツ、チャージ必要、弾道分かりにくい、弾速遅いの三拍子でめっちゃ当てにくいんだからいいだろぉ?」

「うぅ、体がチリチリする……でもみんないい動きだったよね! ないすー!」


 明里の体にはまだ焼け跡が少し残っていたが、すぐに笑顔を浮かべて手を振った。犬の耳と尻尾はいつの間にか消えていた。


「おう、お疲れ様!」

「お疲れ様でした。無事に成功してよかったですね」


 天音も、ふっとその翼と光輪を消す。同時に髪色もだんだんともとに戻っていく。


「お疲れ様」


 三者三様の返事をしながら、戦闘は無事に終了した。

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