第1話:交流祭
「学園交流祭、ですか」
青葉 連理は訊き返した。
彼は青い瞳に青い髪が特徴の、自称普通の男子高校生。
そして、彼の目の前に座っているのは鳴神 秋花。鮮緑色のミディアムボブヘアーに黒色の目をした『ダンジョン探索部』の部長だ。
もちろん、連理も所属している。
そして、ここはそのダンジョン探索部の部室。
彼女が座る椅子の後ろにあるホワイトボードには『青幻学園✕鳥里学園高等部交流祭 ダンジョン探索部編』と書かれていた。
「そ。ウチの場合は、鳥里学園とダンジョン探索を通じて交流を行いつつ、交流祭本番イベントの準備を行って欲しい――だってさ。キミに関しては特に広報面で期待されてるっぽいよ」
広報を生徒に任せるのか、という話だが。
今回、双方の学園の仲が悪いというタチの悪い噂が流れている。つまり、それの解消が目的ということだ。
「広報……まあそれなら適任かもしれませんが」
彼は趣味でダンジョンを探索する様子を配信するということをやっている。だから、ある程度経験があるため適任、というわけだ。
「言うてキミそんな視聴者居ないけどね」
そう、彼の平均同時接続人数は十人ほどなのだ。
高校生にしては十分凄い数値だが、強い効果を期待できるとは言えないだろう。
「えぇ⁉ よく言ってくれましたね⁉ 喧嘩ですか⁉」
腕をまくりながら拳を上げる連理。どうやら弱点攻撃だったらしい。
「あっはは! まあでも、エンタメには詳しいでしょ? 私も適任だとは思ってるって」
秋花は面白そうにけらけらと笑う。
「褒めときゃいいわけじゃないっすよ? ……まあでも、そこそこ面白そうではありますし、参加はしようと思ってますが」
連理はため息を吐きながらも、一応は了承する気のようだ。
「助かるわー。こっちとしても、お偉方の第一希望だった連理くんが居てくれるとありがたいのよね」
わざわざ先生ではなくお偉方と表現したのは、先生方のさらに上に位置するダンジョン管理局への報告も含まれているからだ。
この高校の下には、ダンジョンが存在する。昔は普通の高校だったが、出現してしまったのだ。だから、この学園は内部でその地下ダンジョンも管理しているということだ。
「ほんと、今回はなんか色々面倒だった……」
鼻頭をつまみながら、嘆息する。裏にある苦労が窺える発言だ。
「大変そうですね」
「そりゃもうよ。ま、ともかく期待してるからね〜」
「それはどうも」
どちらも全く心の籠っていなさそうな会話を繰り広げる。
「あ、それと視聴者もたくさん連れてきてね。そうしたら助かるから〜」
「軽々しく言ってくれますね……同接を一人分増やすのがどれだけ大変か分かりますか?」
腕を組んで不満そうな連理。
「分かってるよ? ――ただ、今回のメンバーは同接とやらを増やすのに十分な変人たちが集まってるように思えるね。一人はあなたも知ってる人間だけど――まあ、変人同士仲良くしなさい?」
秋花はニヤリ、と笑う。
(秋花先輩が『変人』と称するなんて、一体どんなクセモノ揃いなんだ……)
連理は身震いした。
◇
『LIVE START』
浮遊する球体のディスプレイに、ヴン、と電子音を立てながら赤い丸とともに文字が表示された。
それは俗に言うダンジョン配信カメラ、というヤツだ。そこそこ高いもので、AIによる判断でちょうどいいアングルから戦闘の様子を撮影してくれる。
秋花――もとい、ダンジョン管理局からの依頼を受理した彼は、今配信を始めたらしい。
制服からも着替え、ダンジョン探索用の衣服に着替えていた。とは言っても、素材がダンジョン由来というだけで、見た目は普通の洋服に酷似しているのだが。
他には黒色の革の胸当てや膝当てなど要所を守る防具を装着していた。
「はいはーい。皆さんこんにちは。今日はですね、色々とありまして……少し変わった探索ですよ」
薄暗い通路の中、カメラに向かって元気よく喋っている。
地面だけは石畳が敷かれているが、ところどころ欠けている上に苔が繁茂しており、綺麗とは言い難い。天上や壁は石と土が混ざったまさに地下、といった様相になっている。ここは洞窟の構造がそのまま残っているようだ。道はいくつも分かれており、迷宮のようになっている。
ここがダンジョン。探索者と呼ばれる職業のものたちが潜り、そして様々な資源を持ち帰る場所。
高校の地下ダンジョンとは別の場所だが、れっきとしたダンジョンだ。
連理がカメラに向かって言うと、連理の視界端にはいくつかの文章が表示された。
それは配信を見ている人物――視聴者、リスナーのコメントだ。
少々根の張る、目元にホログラムを展開する機械によって連理はそのコメントを見る。
『何が始まるんです?』
「何が始まるんでしょうねー」
棒読みでコメントに答える連理。
『大惨事大戦だ』
「いや、違うわ」
連理は苦笑しながら答える。
さらに、連理の視界端には同接二十人の文字が書いてあった。普段は十人かそれ以下であるため、これでも上々な方だ。
(多くはないけど……大事なのはこれからだな)
内心彼は意気込む。
それから、カメラの前から少し移動した彼の後ろにあったのはツタが這う青銅色の大きな扉。
俗に言う階層ボス、というものが居る場所だ。ほとんどのダンジョンは階層式だが、その中でも一部は階層の間に強い魔物が存在するのだ。
『てか、魔物は全部倒したん?』
「今回はボス目当てだからねー。それ以外は先に処理してました」
『普段はそこを映してるのに珍しい』
「ふっふっふ……それではGO!」
連理は宣言とともに、扉を開け放った。
そこに広がるのは暗い空間。少しだけワクワクした表情を浮かべる連理。
そして、暗闇が明るく照らされる。奥から一つずつ照らされた燭台の灯火が、侵入者を歓迎する。
彼も含め、探索者は全員ダンジョンの餌であり、同時にお客様だ。
光に照らされたシルエットが浮かび上がる。全体はローブを着た黒い顔面の大男。
手には、先端が三日月型の杖を持っていた。赤い目が三つ、黒い顔面に煌々と輝く。
「――さあ行け! 我が仲間達よ!」
連理はビシッと敵を指差し、叫ぶ。
その瞬間、彼の後ろから先程まで居なかったはずの人物が三人、勢いよく飛び出した。
「……どうしてこんなやり方なんだ。まあ、言う通りにすればいいだけまだマシか……?」
愚痴りながら飛び出した彼は、鳥里高校に所属する高橋 零夜。
グレーの短髪に爛々と輝く赤い瞳が特徴の彼は、普通の格好に青い規則的な模様が入ったローブを着ていた。
手には瞳と同じ赤色の装飾が施された短剣を所持しており、腰には投げナイフや閃光弾に煙幕弾、さらには色とりどりの石――魔石をホルスターにいれていた。
「気持ちは分かりますが……まあ、今は従ってあげましょう。広報にはなるでしょうし」
同意しながら冷静に敵を見据える彼女は、青幻高校に所属する翼野 天音
彼女は長い黒髪に黒い瞳という昔の日本での標準スタイルの髪色と目の色をしている。そして、片手に青と白で出来た美しいライフル銃に似た武器、そしてもう片方の手には小さな盾のようなものを持っていた。
一方、零夜はただの独り言のつもりだったのか、返答に対して恥ずかしげに顔を逸した。
「レッツゴー! 私達新生ダンジョン探索部の力見せつけてあげるよ!」
それから笑顔でテンション高めに飛び出したのは、鳥里高校に所属する小鳥遊 明里。悩みは苗字の珍しさと読みにくさをイジられること。
ポニーテールでまとめたピンクの髪に、金色の瞳。そして、彼女はその少女の体には些か巨大すぎる武骨な黒一色のポンプショットガンを持っていた。加えて、靴と手袋には後付けの小さな刃がついている。
それから、合図を行った連理も武骨な黒色の金属光沢を持った短剣のようなものと、同じような配色の小さなグレネードランチャーのようなものを取り出す。
『え? 後ろに居たのか? 確かにカメラワーク変な気はしてたけど…』
『もしかして友達できた?』
「いや、友達は居るわ。一人配信がやりたかっただけで」
茶化すコメントに反論する連理。
『わざわざこんな演出をするということは……そういうことだな?』
少しざわつき始めるコメント。
そして、ボスが動き出す。
最後までお読みいただき本当にありがとうございます!
新作、始まりました。ダンジョン配信と青春物語をかけ合わせるという新たな試みですが、果たしてどうなるでしょうか……?
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