表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】俺の声を聴け!(健全版)  作者: はいじ
第1章:俺の声は何!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/278

28:思春期男子の癇癪

『お前、どうやって王子に取り入った?』



 まただ。

 あの日のテザー先輩の言葉が、頭から離れない。ずっと、俺の耳の奥にこびりついている。俺の周囲の空気だけが、あの言葉の震えをずっと記憶しているみたいだ。


 モヤモヤする。


「はぁっ」


 俺は目の前にある、美味しそうな夕食を前に、深く溜息をついた。

 そう、今は夕食の時間で、ここはいつもの食堂だ。最近は部屋守も夜勤が続いていたせいか、この場所で夕食を摂るのも久しぶりだ。


「……いただきます」


 そう、俺が食事を前に手を合わせた瞬間。

 周囲からの視線が、一気に此方へと集まってきた。最近、食レポの効果なのか何なのか、食事中に馬鹿にされる事は、ほぼ無くなった。


「今日は、白身魚のフライ?か……」


今日だってそうだ。俺が食堂についた瞬間、エルフ達の視線が一斉に俺へと向けられた。


なんだ。みんな、そんなに俺の事が好きなのか。心待ちかよ。

そうだろうな!?あんなに馬鹿にしてた癖に、今やどいつもこいつも、パンはスープに浸して食ってるもんな!?


「今日のスープは……コンソメスープ、みたいなヤツか。なら、パンはそのまま食うか。あぁ、フライをサンドしてもいいのか」


 目の前の食事に対し、瞬時に二通りの食べ方を想像し、思案する。

 その間も、周囲からの期待するような視線は止む事はなかった。とはいっても、前述した通り、さすがの俺も、今はテンションが相当に低い。


「まぁ、一旦そのままで……仲本聡志は、腹の奥にあるモヤモヤを抱えたまま、ナイフとフォークを手にした」


それは勿論、テザー先輩のせいだし、もっと言えばイーサのせいでもあった。だから、今日はいつものように食事を楽しむ余裕など……


「うんまっ!!」


あった。

 普通に食事を楽しむ余裕、モリモリあった。お陰で今日も今日とて食べるのが楽しい。


「やっぱ白身魚はフライだよなぁ」


 その瞬間。俺に集まっていた視線に一気に熱が籠った。

最近になって、俺は気付いた事がある。


「この衣のサクサク感と、身のフワフワ感の対比がたまんねぇなぁ!」


こうして兵役に就き、日夜厳しい訓練に明け暮れる男達にとって、“食”というのは、最大にして、最高にして、最も身近な、“娯楽”なのだ、と。


「うめぇ……!」


 だから、こうして美味そうに食べる俺を見て夢中になれる。

 単純な話、美味そうに飯を食っているヤツと飯を食うのは、楽しいのだ。しかも、自分の前にも同じ食事が用意されているとすれば尚の事。


「そう。仲本聡志が提供しているのは、“食レポ”ではなかった。日常生活の一部を、声の演技を使って娯楽化してやる事。そう、ここの兵士たちに足りないのは“娯楽”だったのだ!」


 娯楽がないから、わざわざ自分よりも劣った存在を捕まえて、憂さ晴らしをしなければならなくなる。全ては閉鎖的で、鬱屈とした世界の産む“物足りなさ”から生まれる普通の感情だ。


「しかも、コレコレ。もう、ソース自体がメインなんだわ。甘味も強いけど、後から酸味もクるし。コイツのお陰で衣をより軽快に感じるんだよなぁっ」


 こんなに「美味い、美味い」と、機嫌良く飯を食っている俺も、先日の一件のせいで、今も引き続き一文無しである。

 しかし、こうして兵役に就いているお陰で、食事と寝床に困る事はない。お腹いっぱい食べられて、安心して寝る場所がある。


 しかも食事は美味いときたモンだ。


 それさえあれば、俺にとって“金”はさほど重要ではないのだと気付かされた。ただ、一つ問題があるとすれば……、


「明後日に予定されている【大規模なんとか】で、必要なモノとやらが、一切買えない、という事だ」


 そもそも、【必要なモノ】というのが、一体何なのかさえ分からない。これに関しては、金が無い以前の問題だ。

完全に詰んでいる。諦めた。もう、どうにでもなれ、だ。


「はぁっ、うんめ」


 そう、俺がヤケクソな気持ちと共に、再びフライに齧り付いた時だった。


「うるさいっ!」


突然、怒声と共に、ガツンと凄まじい貫通音が、俺の手元に響き渡った。


「あ?」


 チラと視線を向けてみれば、俺の盆のすぐ脇に、最近どっかで見たような鋭利な氷の柱が突き刺さっている。そこ、さっきまで俺の手があった場所なんだが。


「はぁっ、めんどくせぇ……そう、仲本聡志は心底思った」


 マジで、すぐに暴力に訴えるヤツって最低だと思う。ほんと、人間……いや、エルフ見たわぁっ!


「……食事くらい、黙って摂れんのか」


 不機嫌丸出しの、その、憎しみと苛立ちを含んだドロリとした声。

チラと見上げてみれば、やはりというか、何というか。


「……テザー先輩」


テザー先輩が、まるで親の仇でも見るような目で俺を見ていた。


「俺、声出してないと死ぬんで。無理です」

「お前が死んでも、此方は一向にかまわん。寿命でも何でもいい。早く死んでしまえ」


 言ってくれる。

 いや、俺は、もちろん先輩の親なんか知らない。

しかし、こんなイタいけのない後輩に、氷柱を突き立ててくるような奴の親とあらば、むしろ、俺は舞台の最前列でテザー先輩の“親の顔を拝んでみたい”モンだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ