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第8話 よろしく、お隣さん

 


 慌てて扉に向かいドアノブを(ひね)ると、(いと)も簡単に扉が開いた。チラリと向こう側の部屋が見えて、私はバタンと思いっきり閉める。


「鍵は……!?」


 グルリと勢いよく振り返って、ノエル様にそう尋ねた。


「僕の方から掛けられるけど、基本的には開けておくよ? そうすれば君にもし何かあった時、こちらにすぐ駆けこめるだろう?」


 しれっと何をおっしゃっているんだ。


「……だとしても、基本的に鍵はかけておいてください。私の部屋を訪問した人間が、もし何かを目論んだりでもして、そちらに侵入したらどうするんですか」


「そうだね、分かった。なら不在の時は鍵をしておく。全く……サシャは抜かりがないね」


「私もですが、ノエル様の安全も第一ですから」


 子爵令嬢より王族の命の方が重いに決まってるでしょと、その辺の人に聞けば言われると思うけど、私は人の命に重いも軽いもないって考えるタイプなのだ。

 そして私は自分の身がどうしたって可愛いから、つまりは2人とも安全第一って事で。


「ありがとう」


「いえ、別に……」


「ただね、サシャ。君の部屋の方から鍵がかけられない時点で、君のプライバシーに対する配慮に問題があるのには、気付いてる?」


「……!」


 ノエル様が更に1歩近づく。扉の前に立っていた私との距離は、ほぼ0に等しかった。あ、と思う間もなく私の頭上に影がかかる。


「普段の澄ました顔もいいけどさ、サシャって意外とコロコロ表情が変わるから見てて飽きないよね」


 ……間近で妖艶に笑った王子様は、やっぱり恐ろしいくらいに顔が整っている。

 正直私には「この人、今絶対私の事を馬鹿にしてるんだろうなぁ」以外の感情は、何も浮かばなかったけれども。


「……ノエル様? 私、契約内容について、いくつか確認したい項目があるのですけれど?」


「うん、何でも聞いて? 君の部屋で話す? それともこのまま僕の私室に案内しようか」


「まぁ、ノエル様ったら、こちらで構いませんわぁ……!」


 嫌味を込めてこれでもかと、ご令嬢らしさを演出してニッコリ笑った私なのだった。



 結局、私の部屋に置かれていたソファーに向かい合って座った。


「まず先に、部屋の件は素直に謝るよ」


 いきなり先手を打たれて、え、と拍子抜けした私。あれ、喧嘩体勢だったんだけどな……


「この部屋が、プライバシーに欠けている点については勿論分かっていたんだけどね? 護衛だったり、婚約内定者という立場の関係上、ここが1番安全だと最終的になってしまって」


「そうそう。それに、ここなら俺もすぐ駆けつけれますんで」


 お菓子食べます? と、お茶と共に数種類のクッキーが並んだお皿が置かれた。あ、美味しそう。


「お、お菓子で懐柔(かいじゅう)なんてされませんからね?」


 そんな事をもにょもにょと呟きながらも、お菓子に罪はないと思いつつ、スッとジャムクッキーに手を伸ばす。

 王宮のお茶といい、お菓子といい、美味しすぎるのがいけないのだ。


「ん、美味しい。このジャム、いいブルーベリーを使ってるんですね」


 甘すぎず、ベリーの風味を残しつつ。そしてクッキーの軽い口溶けとピッタリ合っていて、ペロリといける。よし、次はアプリコット味にいこうじゃないか。


「……君って占いだけじゃなくて、お菓子にも詳しいの?」


「いえ? ただ知識として持っている程度です」


 まぁ、とある事情で舌が肥えているだけである。ケロッとそう話す私を見て、未だ疑わしげなノエル様はこちらをジッと見つめている。


「な、なんですか……? 私のお菓子の感想なんて、そんなに気になります?」


「ロワン家の事業(・・)については調査済みだからね。事業内容に関しても、君が深く介入してるのかなって。……僕の考えすぎかな?」


「嫌ですわ、私はあくまで父様に提案(・・)しているだけですから。子爵令嬢ごときの小娘がどこまで事業に参加出来るかなんて、大体はお分かりでしょう?」


 ウフフ、と猫被りのご令嬢モードであしらう私である。


 私の自営業をしていた前世の記憶持ちということは、いくら王家の隠者でも調査できまい。私は絶対に勝てるカード(切り札)を持っているといっても過言ではないのだ。


 未だに腑に落ちていない様子のノエル様に、私は話題を切り替えがてら問いかけた。


「レクド王子の件ですけど、毒殺未遂ってどういう事ですか」


「時期的にいうと、君に手紙を出した数日前に起きたんだよ。父上から【黒猫の涙】探しを始めるとお達しがあって、間もなかったんだ」


「まるで誰かが、レクド王子を【黒猫の涙】探しに参加させないように、ですよねー」


「だけど毒殺未遂なんて、いくら何でも物騒すぎません……?」


 一国の王子を害そうとするなんて、かなり過激な犯行じゃないか……? 待てよ、他国の人間の可能性だってあるのかもしれないな?


「一命を取り留める事が出来たのも、僕は毒の種類が猛毒じゃなかったか、盛られた量が致死量に満たない物だったのかもしれないと考えている。あくまでも警告のつもりだった……ってね」


「ちょっと待ってください。そう考えると、この秘宝探しを辞退しないレクド王子は……また命を狙われるかもしれないんじゃないですか?」


 片足が不自由な状態で命を狙われるなんて、危険すぎるのでは。


「いや、サシャ嬢それは逆っすよ。多分犯人は毒を盛る事に成功している時点で、レクド王子が片足が不自由になっている現状をもう知ってると思うんで。例え辞退しなくとも、秘宝探しを満足に行えないレクド王子は、標的(ターゲット)から逸らすと思うんすよね」


 俺が犯人ならそうしますわ、とライは語る。


 ……手に持っていたクッキーの味が楽しめなくなってきた。

 やっぱり王宮内はドロドロの世界なんじゃないか……と、うんざりしてきたんですけど。


「ただ……そうなると、王位継承権争いに残るのは、僕か、王弟のアルシオ叔父上なんだよね。僕達はそもそも王位に興味がないから、レクドを(おとしい)れて誰が僕達のどちらかを王位に立たせようとしているのかが全く分からなくて、現状お手上げって訳」


「か、レクド王子に恨みがある人間の仕業っすよねー」


「えっと……ちょっと待ってください。王弟殿下の、アルシオ様ですか……」


 どうしよう。アルシオ王弟殿下の顔が全然浮かばない。

 

 

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