表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/45

第5話 乙女ゲーム?

 


 私はノエル様のエスコートで、応接室から別室へと向かう。廊下の雰囲気もガラリと変わり、この区域は王家の居住スペースなんだと、何も知らない私でも察する事が出来た。


「レクド、いる?」


 ノエル様がコンコンとノックをしながら、そう扉越しに声を掛けるから、ギョッとした。


「レクドッ、様って……第1王子じゃないですかっ……!?」


「そうだね」


「なんっ……」


 ギリギリ敬称を忘れなかったのは奇跡である。何を呑気に笑ってるんだこの王子様……!


「僕との面会とレクドとの面会は、大して変わらないだろう?」


「そういう問題じゃなくてですね……王族の方とお会いするなら、前もってそう言っておいて下さい……」


 王子様相手でも、ささやかな抵抗はしてやるぞ……と思いながら小声で噛み付いておいた。


 私がノエル様をジトッと恨めしげに見上げていると、すぐに扉が内側から開いた。開けてくれた人の姿格好を見るに、レクド王子の護衛騎士様だろうか。


 室内には、ノエル様と似た青色の瞳の、第1王子であるレクド王子がソファーに腰掛けていた。キラキラ光る長い金色の髪を後ろで1つに束ねていて、その姿はきっと誰が見てもかっこいいと言うだろう。


 レクド王子は入室した私と目が合うと、優しく笑いかけた。


「やぁ。君がノエルの話していた、噂の神秘のご令嬢かい?」


「おっ、お初にお目にかかります、サシャ・ロワンと申します」


 慌てて頭を下げる。ひぃ。本物のキラキラ王子様は心臓に悪い。


「……サシャ、僕に会った時より緊張してない?」


「ソウデスカネ?」


 私はウフフ、と微笑みながら、スッとノエル様から目を逸らす。その時ふと、レクド王子の横に立てかけられた()が私の視界に入った。


「杖……?」


 私がポツリと呟いた瞬間、部屋の中が一気にシンとなる。え、もしかしてNGワードだった……?


「……何でこんな所に杖があるのか気になるだろう?」


「レクド様……!」


「フェルナン」


 レクド王子の少し厳しく、無機質な声が部屋に響く。


「っ……申し訳ありません……」


「そうだ、ロワン嬢にも紹介しておこう。私の護衛騎士をやっている、フェルナン・トマだ。基本的に私の側に常にいて、信頼できる護衛騎士だから覚えておいてくれ」


「はい。分かりました」


 私はレクド王子からの紹介を聞きながら、護衛騎士様に目を向ける。


 ……ん?


 この護衛騎士様、レクド様の言葉に一瞬顔が強張(こわば)った?


 ……と思ったけど、それは本当に一瞬の出来事で、サッと騎士の礼を取り、私に対して真面目な顔で挨拶をしてきた。


「突然大きな声を出してしまい、大変失礼致しました。フェルナン・トマと申します。フェルナン、と気軽にお呼びください」


「いえ、お気になさらないでください。よろしくお願い致します、フェルナン卿。あの、私の事も呼びやすいように呼んでくださって結構ですので……」


 正直ロワン子爵令嬢って呼ばれ続けるのは堅苦しいし、高位貴族じゃない私は何でもオッケーだ。


「おっ? じゃあ俺はサシャ嬢って呼びますね」


 ノエル様の護衛騎士様が、扉に寄り掛かりながら会話に割り込んできた。


「えぇ……? それ以前に貴方のお名前を伺ってないんですけども……」


「あれ、言ってませんでしたっけ? ノエル様〜ちゃんと紹介しておいてくださいよ」


 そんな事をヘラヘラ言いながら、私達の座るソファー近くにやって来た。


 おぉ、ノエル様の不愉快だオーラがすごい。

 やっぱり人畜無害な、ただのキラキラした王子様って訳じゃないんだな、この方。


「……僕のせいじゃないし、ライが勝手に自己紹介した気になってただけだろ……僕の護衛騎士の、ライ・ミュレーだ。口が悪くて、初対面でも目上の人間にでも馴れ馴れしいのは、どうやっても直らないからもう諦めてる」


「……なるほど」


「サシャ嬢、今なるほどって言いませんでした?」


「えへ。よろしくお願いしますね、ライ」


「えっ、何で俺には卿が付いてないんすか!? フェルナンには付けたのに!」


「ちょっと語呂が悪いかなって……」


「何、語呂って! じゃあ俺もサシャって呼びま……イッテェ!」


「何でお前が僕と同じ呼び捨てにするんだ」


 ぎゃいぎゃいやっているノエル様とライは放っておこう。

 口の悪い背の高いお兄ちゃんがライ。真面目そうなお兄さんがフェルナン卿。よし覚えた。


「ロワン嬢が来て、一気に賑やかになったな」


「はは……」


「君には【黒猫の涙】を探す手伝いをしてもらうとノエルから聞いた。協力してもらうからには、私のこの状態についても知ってもらわねばならない」


「ええと……何故杖をお持ちなのか、ですか?」


「あぁ。これは極秘事項なのだが……数日前、私は毒を飲んでしまい、生死の境を彷徨ったんだ」


「……!」


 私はヒュッと息を呑んだ。


「一命は取り留めたが、その後遺症で片足が麻痺していてね。杖がないとまともに歩けない」



 ──片足の不自由な王子様がヒーローなの?──


 私の前世の記憶が、フラッシュバックしてくる。



「勿論、これからこの件については公表せざるを得ないが、毒殺未遂の後遺症とは国民に伝えないつもりだ。王位継承前で、不安を煽りたくなくてね」



 ──そう! 私はレクド王子を助ける為に、このゲームをプレイしていると言っても過言ではない! ──


 隣で熱く語っているのは、前世の友人。



「私が王位を継承する事を、どうやら阻止しようとしている者がいる。ただ、もう【黒猫の涙】探しはスタートしてしまった。私が自由に動き回れない分、ノエルは私の代わりに探してくれると申し出てくれたんだ」


「言っておくけど、僕はレクドが王位を継ぐ事に賛成だからね? レクドの命を狙ったりなんかしないから」


「な、なるほど……」


 段々と頭が混乱してきた私は、そんな相槌しかうてなかった。


「自分の力だけで王家の秘宝を探せないのは、本当に不甲斐ないと思っている。それでも私は、こんな事で王位を諦めたくはない」



 ──王子様の片足を治す(キー)になるのは、サブタイトルにもなっている【黒猫の涙】らしいの! 絶対謎を解いて、ハッピーエンドにしてみせるから──



 一気に思い出した。この世界は、もしかして。



「乙女ゲームだ……」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ