第39話 古の鍵を護る王子様
レクド王子の部屋を訪ねると、そこには護衛騎士のフェルナン卿と、王子の隣でお茶を飲みながらリラックスした様子のクララ様もいた。
「いらっしゃい。思ったよりも早い答え合わせだったらしいな?」
レクド王子にどうぞと促され、私とノエル様は2人の向かい側のソファーに並んで座った。
「まぁね。サシャは優秀だから」
何の自慢をしているんだと、私がノエル様の腰の辺りを無言で突くと、擽ったいよと甘ったるく微笑まれた。
違う、求めていた反応と全然違うんですけど? 私は向かい側からの生暖かい視線と、隣のなぜか甘い空気を垂れ流すノエル様から、全力で顔を逸らしたのだった。
黒幕の答えはもうノエル様と話して正解をもらったようなものだ。レクド王子に面と向かって確認したいのは、王家の秘宝の方である。
私は気持ちを切り替えて、静かに話をし始めた。
「私の想像で恐縮なのですが、王妃様に関する一部の記憶を失った事、黒幕の正体とその動機……など全てを組み合わせた時、王家の秘宝は王妃様と関係している物と仮定しました。そして……そう考えた時、気になっている事が1点あります」
「気になる事、か。やっぱり占いが得意なロワン嬢の読みは冴えてるな。うん、そのまま発言を続けてくれ」
「はい。ノエル様、以前宝物庫に行った際、いくつか鍵を取り出していましたよね? 可能であればその鍵を全て見させていただきたいんですけれど……」
「うん? それは全然構わないけど」
シャランと金属の重なる音が部屋に響く。首から下げていた銀の鎖ごと、テーブルの上に置かれた。どれがどこの鍵なのか私にはさっぱり分からないけれど、1つだけ、不思議と目を引く物があった。
「あの、これは……?」
「そういえば……これだけ変わった形なんだ。ずっと他の鍵と一緒に持っていたから、今まで特に違和感とかはなかったんだけど」
ノエル様は銀の鎖からそれだけを抜くと、私の手のひらにポンと乗せた。
「ちょ……多分これ、大事な物だと思うんですけど!?」
「うん。サシャはそう予想してるんだよね? ならそう思ってくれてる人にしっかり見てもらわないと」
残念だけど僕にはピンと来てないからさ、と悲しげに言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
諦めてよく見てみると、それは鍵だと言われればそうなのだが、半分に欠けたような……少し歪な形をしていた。なのにその材質は高級な物だと私でも分かる。なんだろう、このアンバランスさは。
「何だか変わったデザインね……あら? これに似たものを私、どこかで見た事があるような……」
私の手元をテーブル越しに覗き込んでいだクララ様が、不思議そうに小首を傾げている。
「よく分かったな。クララが見たというのは、きっとこれの事だと思うぞ」
レクド王子はクスリと笑って、ノエル様と同様に首元から銀の鎖を取り出した。そこには確かに、似たようなデザインをした物が存在していた。
やっぱり何だか謎めいている雰囲気がある。
ノエル様はこれが貴重な鍵の中に混ざり込んでいた理由が分からないようだけど、記憶が戻っているレクド王子の笑っている様子を見るからに……恐らくビンゴだ。
「そちらは……似てるけど少し違う物ですか?」
「あぁ。ロワン嬢、そのノエルのやつを預かってもいいかな」
レクド王子へ手渡すと、躊躇う事なく2つを近づける。2つのパーツは、示し合わせたかのようにカチリとお互いに嵌ったのだった。
「これが本来の形なんだ」
感じていたアンバランスさがやっと納得できた。
不思議な形状をした2つの鍵のような物。それは1つの完全な鍵へと形を変える物だったのだ。鍵は、まるで「こうであるべきだ」と言わんばかりに、キラキラと輝きが増したように見える。
「片方だけだと鍵として成り立たない。私とノエルが協力して、初めて鍵として本当の役割を果たすんだ」
「どちらかが欠けたらダメだって……支え合って、助け合っていってほしい……母上はそういう意味を込めて僕達に預けてくれたのかな」
「……そうですよ、絶対」
私の相槌に少し驚いた表情を浮かべたノエル様だったけれど、向かい側にいる2人も強く頷いているのを見て、くしゃりと笑った。
「そしてこれは……母上の部屋から繋がっている、隠し部屋の鍵だ」
「……! そこに王家の秘宝が保管されているのでしょうか」
レクド王子は正解の意を込めたように、力強く神妙に頷いた。
「王家の秘宝の正体、母上の想い、全てを私の口から語るのは簡単だけど……ノエルはそれを望んでいない。そうだろう?」
「……わがまま言ってごめん」
「いや。自分で納得出来ないまま事実だけを知っていっても、きっと私も心が追いつかないだろうな。そもそも私の記憶が戻ったのもロワン嬢とノエルのおかげだ。恩人であるお前達に、何か無理強いをさせるつもりは全くない」
「そうよ、私達は本当に沢山助けてもらったんだもの。頼りないかもしれないけれど、困った事があれば何でも相談して」
レクド王子が隣に並んだクララ様の肩をそっと引き寄せる。クララ様も、私達を優しく見つめてふわりと笑った。2人からの言葉にじんわりと心が温かくなり、この国をこれから支えていくのがこの方達でよかったと、心から思った。
「ありがとうレクド、クララ。……部屋に行けば何か思い出せるかもしれないって、まだ少し期待してるんだ。じれったいかもしれないけれと、その時まで待っていてほしい」
「あの……このまますぐ、王妃様のお部屋に行って確認されるんですか?」
「……いや、夜会の前夜に確認しに行こう。ね、レクド」
「そうだな。……うん、その方が色々と都合がいいだろう」
お2人の誕生日を祝う夜会……つまりは陛下の前で王家の秘宝の答え合わせをする日なのだけど、その前日まで待つって事?
そんなに日は空かないけれど、すぐにでも確かめに行くと思ったから何だか意外だった。
2人の王子様方はお互いに言いたい事が言わなくても伝わっているようで、私とクララ様はちょっと置いてけぼりである。はて……と狐につままれたような気持ちになったのだった。
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時が流れるのは早いもので、王家の秘宝を確認しに行く日の夜を迎えた。
「夜と聞いてはいたけど、まさかこんな真夜中に行くとは……」
独り言を呟きながら眠気と戦いつつ、ノエル様の迎えを待っているところである。
「自分の為に、占い……してみようかな」
前世の辛い思い出を蘇らせてから、ずっと自分を占わないって決めていたけど……ノエル様のおかげでトラウマは克服できたと思うから。
当たらないと最初から思っていれば、外れても落ち込む必要ないし。この件が解決すれば、もうここで占う事はないかもしれない。そう思えば自然と足は窓辺へと向かっていた。
月の満ち欠けと、自分の星座を重ねて占う方法。それはかなり複雑で、前世の時ですらうろ覚えだったはずなのに、月を眺めていると不思議と頭の中に占いの結果が囁かれたような気がした。
もしかしてこれ、あの時みたいに妖精のおかげだったりするのかな。だとしたらお礼のお菓子を窓辺に置いておかないとだ。
「……備えあれば憂いなし。しっかり者な乙女座の貴方だけど、忘れ物には気をつけて……?」
ふ、と窓から視線を戻せば、サイドテーブルに置いてあった小さな巾着袋が目に入った。そこに保管してあるのは、黒猫ロジャと出会った夜に摘んで、乾燥させたドクダミの葉。
「……別にこれ、持っていこうと思ってた訳じゃないけど。まぁ、荷物になる訳じゃないから……」
それを簡易ドレスのポケットの中へ入れた所で、イヴから迎えが来たと声が掛かったのだった。




