第21話 おまじないは内緒で
レクド王子とライを見送った後、私達は秘密の部屋とやらに向かう事に。
「秘密の部屋っていうか、宝物庫なんだけどね?」
……お早いネタバレである。
「意味深におっしゃるから、何かと思って身構えちゃいましたよ……」
だったら最初から宝物庫って言ってくれればいいのに。心の中でぶつくさ言いながらも、テクテクと歩みを進めた。
入り組んだ王宮の中をぐるぐると歩く。ノエル様の案内がなかったら、一生辿り着かない気がする。
軽く10分は歩いただろうか、目の前には如何にもな雰囲気を漂わせた厳重な扉が。
イヴには、見張りの騎士ともに扉の外で待つようにとノエル様から指示があった。
その厳重な扉を開けると、再び似たような扉が私達を出迎える。更にまた1つ、また1つと扉はいくつも現れる。
「マトリョーシカか……」
「うん? 何か言った?」
「いえ、何も」
ノエル様が、首元から徐にネックレスを取り出した。そこには、小さな銀色の鍵がいくつか付いている。
「厳重ですね……」
「うん。逐一面倒なんだけどセキュリティ上、仕方ないよね」
私達しかいない空間に、チャリ、と小さく音が響く。
いくつかある鍵の、その内の1つを選び鍵穴に挿し込むと、ようやく扉ではない視界が開けたのだった。
窓の無い部屋一面に広がるのは、乱れなく陳列された装飾品の数々。
殆どがガラスケースや箱に仕舞われ、鍵がかけられているようだけど、ガラス越しでも目が眩むくらい眩かった。
「わ、私がこんな貴重な場所に足を踏み入れてもいいんでしょうか……」
今更ながらに引け目を感じて、思わず一歩後ろに下がる。
「大丈夫。王家の秘宝という位だから、ここに混ざってるなんて事は……正直まぁ期待してないんだ」
「そうですね。もしそれらしき物があったとしても……フェイクかもしれません」
宝石を探そうとなったら、まず最初に当てにするのはここだろう。となると……ここに隠されているなんて簡単な答えは、まずあり得ない。
「ん? だとしたら……私がここに来る必要って、ありまし……」
「王家が所持している宝石を見て、何か参考になればなと思って。あぁ、ここで占いをしてくれても構わないよ? ケースに入っている物で手に取ってみたいのがあれば、自由に開けて」
ニコニコと私の言葉を遮るノエル様って、本当いい性格してる。
「はぁ……」
促された私は、どれどれと飾られた宝石に視線を向ける。ザッと見ただけでも、目に入る物全てが最高級品なのは、素人の私でもすぐに分かった。
はいこれ、絶対に素手で触っちゃダメな品物だ。
「これ以上価値のある物って、考えるのも難しい……」
私は指紋1つないガラスケースに触れるのさえも、ちょっと躊躇っているというのに。それ以上の価値のある王家の秘宝って、一体どれ程の物なんだか。
「探し物が見つかる占いって言ったら……」
私の中にとある占い、というか1つの案が浮かんだ。でもそれってなぁ……
「何かありそうだね?」
意味ありげに考え込んだ私を、期待顔で見つめるノエル様である。
私はちょっと……いや、かなり渋々口を開いた。
「ノエル様って……よ、妖精の存在を信じます?」
「……妖精?」
小首を傾げたまま、人形のように硬くニコリと笑っている。
何を急に言い出したんだコイツって思ってるんだろうな。すみませんね、突然のファンタジーで。
「……妖精に、探し物の在処を聞くんですよ」
私だって、ぶっちゃけると胡散臭いと思ってますとも。それに占いというよりも、これはどちらかと言えばおまじないの類いになる。
……でも、ここが本当に乙女ゲームの世界だというのなら。
クララ様が予知夢を見たように、ちょっとくらい非現実的な事が起きるかもって、信じてみてもいいじゃないかとも思うのである。
「ダメで元々ですから」
だから試してみても、無駄にはならないだろう。私のライフポイントが少し(いやかなり)削られるくらいだ。
えぇい、お給料に見合った仕事をする、それが私のモットーだ……!
「流石に、ちょっと恥ずかしいので」
私は失礼しますと早口で告げると、くるり。ノエル様に背を向けた。
ドレスの小さな隠しポケットに手を添えて、たまたま包んであった1口サイズのクッキーが3枚程あるのを確認して取り出し、手のひらに乗せた。
おまじないに必要な物は、妖精の好む、甘い物。
それから意識を集中させて、妖精に嘘偽りなく問い掛けるだけ。
本当は探し物のイメージを頭に思い浮かべるといいって聞いた事があるけれど、生憎私は宝石って事しか分からない。
なら難しく考えずに、率直に聞こう。
「……妖精さん、妖精さん。もしいたら、お話しませんか。お尋ねしたい事があります。助けてください。王家の秘宝……別名黒猫の涙という宝石の在処を知りませんか?」
部屋の中に、シン……とした時間が流れる。暫くの間じっと待っていたけれど、何の音沙汰もなかった。やっぱりそんな簡単に分かる事じゃないよね。
私が諦めて、ノエル様に声を掛けようとしたその時。
【もうすぐ もうすぐ やってくる】
「え?」
私でもノエル様でもない、不思議な声が何処かからか聞こえてきた。
私はそのとても小さな歌声に、耳を澄ます。
【もうすぐ来るよ 祝福の夜
雫の零れる 内緒の場所で
合図をしたら 逢いましょう】
「もうすぐ来る……?」
もう1回だけお願いしますと願っても、その歌声は1回きりで聴こえなくなってしまった。勿論、手元のクッキーもなくなっていた。
「サシャ、どうしたの? え、まさか本当に聞こえた……?」
「き、聞こえたんですけど、在処というよりは……また更に謎々みたいな……」
ヤバい、本当に忘れそう。私は慌てて聴こえた歌詞をノエル様に口頭で伝えた。
「もうすぐ来る祝福の夜、か……明確な日にちが分からないのは厳しいね……」
「ですよね。内緒の場所って、そもそもその場所すら分からないですし……」
確実にこの妖精の歌がヒントになるんだと思うけど、何か辻褄が合わないな。
私の知識が足りてないのか、それとももしかして、乙女ゲームのルートとやらを思いっきり飛ばしながら進めちゃってる、とか?
「いや、それでも有難いヒントだと思うよ。雫の零れるというのは、雨だったり水に関連するものだと思うし……考え方はいくらでもあるから、部屋に戻ってもう少し考えてみよう」
「はい。ありがとうございます」
「それにしても本当に妖精の声を聴くなんて……いよいよサシャの別名【神秘の子爵令嬢】が真実になりつつあるね」
「うっ……こ、このおまじない……他の方には内緒でお願いします……」
「いいよ。サシャが妖精を呼べるのは、2人だけの秘密、だね?」
楽しげに笑いながら、揶揄うような表情をするノエル様。
そんな王子様を、私はほんの少しだけ肘で小突いたのだった。




