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第1話 噂の占い令嬢

 


「ねぇ。それなら僕の事も、試しに占ってくれない?」


 そう言いながら彼は、キラキラした笑顔を至近距離で私に向けてきた。


「……ち、近いんですけど」


 ……何で私が、ほぼ初対面の王子様と、こんな状況下に置かれているんだってばっ……!



 ────────────────



 ここは、春の花と暖かい陽気に包まれた、ロワン子爵家の中庭。

 時折柔らかな風が吹き、私の藍色の長い髪がふわりとたなびいた。


「ご機嫌ようエリナ……って言いたい所だけど、今朝の夢見はイマイチだったみたいね?」


「サシャぁ……今日はお願いしてないのに、占ってくれるの……?」


「あのねぇ、顔色の悪い友人を放っておく程、非情な人間じゃないつもりなんだけど?」


 友人に簡単な夢占いをしようとしている私は、この家の長女であるサシャ・ロワン。今年で18歳になる子爵令嬢だ。


 何故占い? と思うだろう。それは私が物心つく頃に、前世を思い出した事がキッカケだった。というのも、前世の私は、20代前半でスピリチュアルグッズを販売するお店を経営していたのである。



「うぅ〜……サシャとのお茶会を楽しみにしていたのに、今朝に限って見たのはすっごく怖い夢だったのよっ……」


「そっかそっか。じゃあ、覚えてる範囲だけでもいいから、ゆっくり聞かせて?」


 記憶を思い出してからは、今世ではその知識を使って簡単な占いをしながら、こうやってたまに友人の相談に乗ったりしている。


 それが意外と好評だったようで、最近ではわざわざ「占ってほしい」「話を聞いてもらいたい」と、相談の手紙が来たりするようにもなっていた。貴族界の口コミって凄い。


「実はね、怖い夢ってこれから良い事が起こる為の前触れとも言われているの」


「え、そうなの……?」


「うん。悩んでいる事が無意識に頭の中に残っていて、夢の中で恐怖の対象へと変化してるの。例えばエリナが見たっていう、お化けの様な物に追いかけられる夢」


 私はピッと人差し指をエリナの顔の前に立てて、真剣な顔を向ける。エリナがゴクリと、私の次に続く言葉を今かと待っているのが分かった。


「ここで大切なのは、追いかけられたその後。夢の中で、そのお化けから逃げ切る事が出来たのよね?」


「え、えぇ。逃げ切って、ホッとしたところで目が覚めたわ」


「なら大丈夫。それは悩みがこれから解決するっていう、(きざ)しを表しているから」


 まぁ……と驚いた表情を浮かべていたエリナは、すぐにホッとした様子で、胸を撫で下ろしていた。


「安心してもよい、のよね? よかった。サシャに悩みの内容は、全く話していないのに……本当に不思議。こうやって言ってもらえるだけで、凄く安心するんだもの」


「それは光栄だわ」


 私の言葉で、不安や心配が少しでも解消されたのならよかった。私はニコッと微笑んだ。


「何なら占いとは別で、悩みも聞くけどね?」


 何で悩んでるか当ててあげてもいいけど、とイタズラっぽく笑うと、エリナはまたギョッとしていた。


「私、サシャには隠し事が出来る気がしないわ……」


「冗談だってば。ほらほら、お茶にしよ」


 私達がお菓子をつまみながら世間話に花を咲かせていると、えらく焦った様子のメイドが、トレイに一通の手紙を載せて中庭に現れた。


「どうしたの? そんなに慌てて」


「サシャお嬢様、エリナ様、ご歓談中に申し訳ありません。お、王家の使いの方がお見えになられて、早急に返事を求むとの事ですっ……!」


「……王家から、急ぎ?」


 はて?


 私、王家から手紙を出されるような事、したかな。平凡な子爵家の娘に一体何の用だろう。


 間違いじゃないのかと、ちょっと疑いながら手紙の宛名を確認する。でもそこには、私の名前がバッチリと書かれていたのである。


 うわ、と思わず声が出そうになった。しかも手紙の送り主の所には【ノエル・べネトリア】と書かれているじゃないか。


「ノエル・ベネトリアって……第2王子から……?」


「まぁ、ノエル王子から直々にお手紙……!?」


「あ〜……一応、名ばかりの第2王子の婚約者候補だからじゃない……? 他にも候補のご令嬢は沢山いるし、私はその中でも下の方だから……」


 キラキラと期待に満ちた瞳で見つめられ、それに耐えかねた私は、慌てて弁解に走った。

 というか婚約者候補の件なんて、音沙汰もなければ今まで王子との交流すらもなかったから、すっかり忘れてたんですけど。


 王子の顔も、半年くらい前に参加した王宮行事で遠目から見たくらいだから、正直うろ覚えなんだけど……なんて、エリナには口が裂けても言えない。



「もう。まぁ……私達の爵位では、王子に気軽に会えないのは分かっているけど」と、同じ子爵令嬢であるエリナは、向かい側でぶーたれている。


 転生したこの世界でも、20歳で成人として扱われる為、20歳に近くなるにつれて、結婚の話がチラホラ上がってくる。


 私は前世で、結婚よりも自分のお店の繁盛を目指していて、「すぐに結婚したい!」という願望があった訳ではなかったので、今世での婚約者候補という宙ぶらりんな状態は、案外都合が良かったのである。


 ……だから、そのまま放っておいてくれても、一向に構わなかったのに。


「何で今更、個別に手紙を……?」


「婚約者候補のサシャに手紙という事は……もしかして、ノエル王子もついに婚約者をお1人に絞られるんじゃないかしら? 王位継承の件もあるし」


 このところ王子達(・・・)の20歳のお誕生日には、きっと何かしらの発表があるんじゃないかと、(もっぱ)らの噂なのよ、と小声で教えてくれた。


「あぁ、そういえば双子の王子様方は、もうすぐ20歳になられるんだったっけか……」


 第1王子のレクド様と、第2王子のノエル様。

 病気で亡くなられた前王妃のお子様である双子のお2人は、二卵性双生児の為、見た目は全く似ていない事で有名だ。


 確か、瞳の色だけ前王妃と同じ碧色……だったかな?



「サシャ、今日はこれで失礼するわね。いつも私の話ばかり聞いてもらって申し訳ないけれど…… とにかく今は、早くノエル王子にお返事をしないと」


「ありがと。折角来てくれたのに、ゆっくり出来なくてごめんね。また今度話そ」


 エリナが気を遣ってくれて退席した後、中庭に残った私は1人、ペーパーナイフで開けてもらった手紙に手を伸ばす。


「……さて、何が書かれているんだか」


 ふぅ、と息を吐いて、ペラリと紙をめくったのだった。


 

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