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小さなお姫様の悩み事

三人称視点となります。



 デューベルン家に生まれた三番目の子どもは、可愛らしい女の子だった。名をフィーネ。家族だけではなく、使用人や親戚皆に可愛がられるほど愛らしい子どもとして成長した。


 そんな彼女が成長し、7歳を迎えた頃にそれは起きた。


「ねぇお母様」


「どうしたの、フィーネ?」


「どうしてお兄様達には魔法が使えて、私には使えないの」


「…………急にどうしたの」


「使える気配がまるでしなかったの。お兄様達の魔法を見よう見まねでやってみたけれど、何もできなかった」


「魔法に触れたの?」


「……約束を破ってごめんなさい。でも、私も使ってみたかったから」


 デューベルン家の長男、次男として生まれたアランとシエル。双子であったことから、ロゼルヴィアはどちらかが半端者か失敗作になってしまうことを産む前から恐れていた。しかし、ウィリアードの献身的な支えによって無事に出産までたどり着けたのである。幸いにも彼らは同等の魔力量を手にし、扱えるように母から教えをこう幼少期をを過ごした。


 しかし、三人目の子どもとなったフィーネには悲劇的にも魔力は宿らなかった。昔のエルフィールドでいう失敗作となってしまったのだ。その事実へどう向き合うべきか、ロゼルヴィア自身模索してきた。どう伝えるべきか、ずっと悩み続けてきたのだ。上手く答えが見つからないまま、先延ばしにしていた。説明できぬまま、魔法に触れないようにと約束だけした。だが、フィーネも疑問は年々増していく。そして遂に、約束を破ってしまったのだ。


「やってみたくて、真似てみたけれど……使えなかった」


「……」


「……私、お母様の子どもじゃないの?」


「そんなことないわ……!」


「じゃあどうして魔法が使えないの!」


「それは……」


 どこから話すべきか。幼い子どもにどれだけ酷なことを伝えてしまうのか、計り知れなかったロゼルヴィアは口をつぐんだ。


「いつまで経ってもなにも教えてくれない。どうして?」


「まだ……フィーネは、まだ子どもだから」


「もう7歳になったよ。それに私聞いたもの。お兄様達は5歳で魔法を教わってたって」


「あ……」


「フィーネ、お母様を困らせては駄目だよ」


「あぁ。そんなに焦ってどうしたんだ」


「お兄様……」


 本日分の教育を終えて、アランとシエルが部屋へと入ってきた。


「だって……私だけ仲間外れだもの」


 今にも泣き出しそうなフィーネを前に、2人の兄も戸惑いながら宥める。


「仲間外れなんかじゃないよ。フィーネと僕とお母様の髪はお揃いだし」


「俺とお父様と瞳はお揃いだろ?」


「……そうだけど、そうじゃない。私だけ魔法使えないもの」


「魔法が使えなくたって家族に変わりないだろ?」


「…………違うもの。魔法が使えない私は皆の家族じゃないわ!!」


「フィーネ!!」


 思い詰めたフィーネは部屋を飛び出して無我夢中で駆け出した。


 フィーネは別に特段魔法に憧れていたり、使いたいと考えていた訳ではない。ただ、家族なのに自分だけできない状況に混乱していたのだ。戸惑いながら、ただ走った。気づけば外に出て、門前にあるフィーディリアの花畑まで来てしまった。


 花を眺めながら落ち着くと、大好きな母と兄たちに吐いてしまった暴言に気付いた。それが悲しくて、もはやどうしていいかわからずにただただ泣いてしまった。解決策も見つからず、一人寂しく泣いてると、暖かな手が彼女を包み持ち上げた。


「何を泣いてるのかな、小さなお姫様」


「……お父様」


 この屋敷の主であるウィリアードが、最愛の娘を心配そうに見つめる。


「フィーネが一人で泣いてるなんて珍しいね。良ければお父様に理由を教えてくれるかい?」


「……お母様とお兄様達に酷いことを言ってしまったの。嫌われてしまったかも……」


「酷いこと?」


「……家族じゃないって」


 そう言ってしまった経緯を一つずつ説明する。その際にも涙は止まらなかったが、優しい手が拭い続けてくれた。


「そうか、魔法がね」


「……私だけ使えないから。お兄様達は立派な魔法を使えて。お母様だって本当は使えるのに、私を気にして使ってないでしょう?」


「気付いてたのか」

 

 どうしてよいかわからなかったロゼルヴィアは、どんな時でもフィーネの前で魔法を使うことをしなかった。それか自然とフィーネにとって申し訳なさを植え付けていたとは思わず。ロゼルヴィアなりの不器用な気遣いが裏目に出てしまったようだ。


「フィーネ、魔法を使えなければ君は家族じゃないのかな」


「……わからない」


「じゃあ僕を見て。僕はフィーネと、お母様やお兄様達とは家族に見える?」


「見える。お父様は立派なお父様よ」


「それならフィーネもだよ。僕は魔法が使えないからね」


「あ……」


「フィーネ、どうかヴィーをお母様を責めないでほしい。フィーネが魔法を使えないのはお父様に似てしまっただけで、魔法使いとして生まれなかった僕のせいだから」


「お父様は……何も悪くないわ」


「ありがとう。でもフィーネ、間違いなく君は僕とヴィーの娘だよ。そしてアランとシエルの可愛い妹だ。魔法が使えなくても、関係ない」


「……うん」


「お兄様達はお母様とお揃いだけど、フィーネは僕とお揃いだから」


「うん!」


 父の言葉に心底納得したフィーネには、笑顔が浮かんでいた。


「涙の訳は解決したかな」


「うん。……あ、お母様とお兄様達に謝らないと」


「それなら一緒に着いていこう。大丈夫、一緒に謝ってあげるから」


「本当?」


「うん」


 心配そうに見上げる娘を落ち着かせようと、ウィリアードは優しく頭を撫でた。先程の部屋の扉まで抱き上げながら連れていった。


 部屋に戻れば、目が少し腫れた母と心配そうに慌てる二人の兄の姿があった。


「フィーネ!」


「ごめんなさい、お母様、アランお兄様、シエルお兄様」


 小さな体で勢い良く頭を下げる。


「酷いこと言ったけど、全部嘘だから。私は皆のこと大好きだからっ……」


 申し訳なさから流れる涙を、今度は近づいてきたロゼルヴィアが拭う。


「私もフィーネのことが大好きよ。今まではぐらかしてごめんなさいね」


「ううん、何となく理由ならわかるから。それにね、私はお父様とお揃いなの!」


「フィーネ……」


「お母様っ」


 幼いながらに母の思いを察知していた少女は、大好きな母に抱きついた。


「魔法が使えなくても、お母様は私のお母様でいてくれる?」


「当たり前でしょう。私は永遠にフィーネの母よ」


「うん!」


 愛おしい我が子を抱き締めながら、安堵と嬉しさで涙を溢した。


 ウィリアードの巧みな言葉によって、フィーネにはエルフィールドについての話をしなくても良くなった。それでも彼女が聞けば、伝えようと夫婦は決めたのだった。

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