74. 結ばれた縁 (完)
時は流れて。
あれから1年経つと、お父様とフローラ様は無事に結婚式を挙げた。順調に仲を深めた二人は歳のことも考えて早めに籍を入れたのだ。互いの相性の良さもあって、今では問題なく夫婦として生活をしている。フローラ様は名義上私の母となったが、本人と話し合い名前呼びを続行した。彼女をお母様と呼べるのは、彼女がこれから迎えるであろう子どもが持つ特権だ。
フィーディリア夫妻が誕生すると、下準備を済ませていたウィルによりすぐさま私はデューベルンの名前となった。
早々に籍を入れたが、いつの間にかこちらも準備されていた為に結婚式もとてもスムーズに行われた。私はその日久しぶりに招待したリズベットと再会した。隣には穏やかそうな男性がおり、今お付き合いをしていると報告してくれた。幸せそうなリズベットを見て涙ぐんでしまったのは内緒だ。それから2年後に行われた慎ましやかな結婚式に顔を出させてもらった。出会った時では想像できなかった、嘘偽りのない心からの笑みを見られていよいよ涙した。
そして更に時が経った今、私は2人の子どもに恵まれて幸せに過ごしている。
「お母様ーー!!」
「こら、アラン。そんなに走っては怪我をしますよ?」
「ごめんなさい、でも早く魔法を教わりたくて!」
「僕も。教えてお母様」
「シエルが走るだなんてよっぽどね」
「だって今日は面白い魔法を教えてくれるって言うから」
今年五歳となる双子のアランとシエル。幼少期を重ねると、好奇心旺盛の自由な私に似たのがアラン。物静かだが興味のあることにはしっかりと反応するウィルに似たのがシエル。
今は亡きエルフィールド王家の血を引くこの子達は、きっと優秀な魔法使いになるだろう。今は稀少なものとなってしまった分、彼らが成長した時に己の身を守るためにも私は2人に魔法を教えている。
近づく2人に優しく諭すように言う。
「教える前に何度も言うけれど、決して人に魔法を向けては駄目よ。それと人前でむやみやたらに使うのも禁止」
「うん。皆には内緒!」
「本当に危険な時しか使わない」
「約束を破ったら怒るからね、お父様が」
「お父様怖いから、絶対守る!」
「……怒られるのやだ」
「怖くて悪かったね?」
「「お父様!!」」
「ウィル」
今日は登城で家を空けていたはずだが、用事を爆速で終わらせてきたようだ。
優しく抱き寄せると、お腹を示しながら伝えた。
「魔法を教えるのは当然良いけれど、今は駄目だよ。ヴィーのここにはアランとシエルの妹がいるんだから」
「「そうだった……」」
「私なら大丈夫だけど……」
「お母様無理しないで」
「僕たち我慢できるから」
普段の性格は反対のアランとシエルも、心配する表情は良く似ている。
「ありがとう2人とも」
子どもなりの気遣いが嬉しくて、思わず2人の頭を撫でた。
「ヴィー、何かあったらすぐに言うんだよ?」
「えぇ、もちろん」
愛する人と大切な子ども達に囲まれながら、私は幸せを噛み締めた。こんな穏やかで幸福な日々が日常になるだなんて、数年前は想像できなかったから。偶然が重なって起きたこれまでの奇跡に感謝して、これからも生きていくのだった。
そしてその後、何年経っても私とウィルの恋路は奇跡が結んだ物語として語り継がれていった。
ここまでお付き合いをいただいた皆様、本当にありがとうございます。
ここで本編は完結となります。
語りきれなかったことやサイドストーリーを番外編で書こうと考えています。
こちらは毎日18:00の更新を予定しております。よろしければお付き合いください。
最後にもう一度。
見守ってくださった読者の皆様に感謝申し上げます。