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70. 迎えた再出発


 あれからというもの、私とお父様は多忙な日々を過ごしていた。


 まずは爵位の贈呈を行うために王城へと足を運び、国王陛下に挨拶をした。正式にフィーディリア公爵家が誕生した瞬間だった。今は一件の後処理に追われているため、後に成立パーティーを開くのだとか。


 実はこの機会で私は初めて国王陛下……アレクサンド様にお会いしたのである。今まではウィルの会話から少しだけ情報を得ていただけで、お目にかかる事は一度もなかった。


 贈呈式自体は簡潔に行われ、立会人はリフェイン公爵家が務めた。その後、義妹となることから個人的に少しだけ話したが、陛下曰く「どうか手綱を握っておいてくれ」だそうだ。長年誰よりも傍でウィルを見てきた兄からすれば、ウィルにとって私がどのような存在か十分に理解しているようだった。というのも、この事後処理の間に今までに見たことのないウィルを目の当たりにしたそうで恐ろしいほどの愛の力を感じたんだとか。それでも幸せになってくれて良かったと安堵する陛下の姿は、弟を案じてきた兄の姿そのものだった。


 




 一件の事後処理について。


 ラベーヌ家は解体され、関係者は問答無用で平民への降格が行われた。直系の公爵子息は、事を知った上で加担していたようだ。よって鉱山送りとなった。一番の当事者であるラベーヌ元公爵は国家反逆罪だけでなくその他の罪も浮上した為に直ぐ様極刑が下された。


 そして、ベアトリーチェとして一連の計画に加担したとされたリズベット。こちらは私の証言があり被害者と見なされたものの、本人の希望もあり王家からの処罰は身分剥奪で終えた。

本人は、今後はリズベットと名乗って生きていくことができると喜んでいた。


 事情があったとはいえ、数々の愚行をフローラ様にしたことを償いたいと言うリズベットの意志は変わっていなかった。フローラ様は最初渋っていた。もう自由になっていいと、貴女は悪くないのだと。それでも引かないリズベットを見て、それならばリフェイン領で何か人の役に立つのはどうかという話にまとまった。そういうわけで、リズベットはリフェイン領内にある孤児院に働き先を決めた。これからは平民らしく、ただ穏やかに生きていきたいという彼女の願いも尊重された結果だった。








 そして今日、全快したリズベットは働き先へと向かうことになる。住む場所などの最低資金は、解体した際のラベーヌ家の財産で賄われた。最低な保障のみを受け、彼女も第二の人生を歩み出す。


 門前で見送るのは私とウィル。と言っても、ウィルは後ろに立っているだけだが。


「姫様、本当にありがとうございました」


 心機一転の意味もあり、彼女は長く美しかった髪を肩まで切った。


「感謝されるようなことはできていないから……でも、リズベットが無事で本当に良かった。どうかこれからは無理をしないで。何かあれば、フィーディリアの名前を遠慮なく出すのよ」


「ありがとうございます」


 ようやく見ることのできた彼女の笑顔。心から安堵しつつ、これからに期待を向ける穏やかな笑みはこれが本当の彼女なのだと感じさせた。


「いつでも手紙を書いて」


「はい」


「相談でも、近況報告でも……どんな手紙でも構わないから」


「姫様も送ってくださいますか」


「もちろんよ」


 リズベットが望んだのは小さなありふれた幸せ。どうかそれが叶うことを願った。


「……リズベット、手を出して」


「はい」


 彼女が二度と誰かの悪意に巻き込まれぬよう、私は最大限の加護魔法をかけた。


「……!」


「どうか……離れていても貴女を守れますように」


「姫様……」


「発動しないことを祈るけれど」


「……はい、できる限り平和な道を選んでいきます」


 リフェイン領内は治安がよく、心配するのも失礼というものだ。それでも使って損はない。


「忘れないで、貴女には私たちがいることを。決して縁を切った訳ではないのだから」


「最後の手段ですね」


「えぇ」


 働き先への挨拶もあるため、そろそろ見送らなければならない。


「では、姫様。またいつか」


「えぇ。必ず会いましょう」


 こうしてリズベットは新たな人生へと踏み出していった。馬車が見えなくなるまで、私は彼女を見送った。


「……どうか幸せになって」


 そう呟いて。


ーーーーーー



 見送った後は、多忙な日々に戻る。まだやらなくてはいけないことが残っているために、落ち着けるのは先になるだろう。


 今日はこの後、ドレスを仕立てなくてはならないのだ。


 実は数日後、フィーディリア家の設立とお披露目をするパーティーが開かれる。そこで私とウィルの婚約も正式に発表されるわけだが。


「……どちらも同じな気が」


「まぁ、ヴィーは何を着ても似合うからね」


 王家御用達のデザイナーと打ち合わせをするものの、ここ数年ドレスに触れてこなかった私からすれば流行などは未知の世界である。


 たくさんのドレスが行き来をしているからか、デューベルン家はここ数年で一番色鮮やかになっていた。


 ちなみにラベーヌ家の家がフィーディリア家となるのだが、解体の意味を含めて一度屋敷も取り壊すことになった。新たな家の誕生だというのに、お古を使わせるわけにはいかないと国王陛下の判断であった。ということで、フィーディリア家として建て直されるまで私とお父様は大公邸に居候となっている。


 本日お父様はアトリスタ領へ戻り、商会の引き継ぎとパーティーの招待状をアルバートさんへ届けに向かっている。私も共に向かいたかったが、残念ながらこの後は淑女教育があるために叶わなかった。念のための教育となっているが、どうか体が覚えてくれることを願う。


 パーティー当日はウィルのエスコートが決まっている。お父様はフローラ様をパートナーとした。


 あの後、お互いに惹かれあったこともあり忙しい日々の合間をぬって何度も交流をしていた。婚約の一歩手前まできていることは明らかだった。少し前に、二人が庭園を歩く様子をチラリと見かけたがとても幸せそうだった。


「婚約発表になるから、ドレスは僕の衣装と対でもいいかもしれないね」


「なるほど、そういたしましょう」


「……お願いします」


 数年のブランクは大きく、どのドレスもよく見えてしまう私にはもはや判断は厳しいものであった。


「ヴィーの髪にあう飾りも用意しないとだね」


 そう言いながら、私の髪に手を伸ばしてゆっくりと触れた。


「銀髪だから何でも合うとは思うけど……」


「そうだね。飾り全般の用意は僕がしてもいい?」


「いいけど、負担じゃ」


「むしろさせて」


「……わかった」


 こうして結局、流行についてわかることなくドレスは決定した。


 いよいよ私は遅すぎる社交界デビューを果たす。

誤字報告ありがとうございます。訂正しました。

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