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61. もう一人の王族

少し残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけ下さい。


 突然の出来事な上に多すぎる情報は、そう簡単には処理できない。


 だが、魔法が使える時点で彼は本当に私の知るライナックではないのだろう。そして、認識阻害魔法が外れた姿。初めて見る筈なのに、瞳だけはその気がしなかった。


「驚くのも無理はない。君は俺の事を何も知らなかったのだから」


「…………貴方は、一体」


「俺は君の叔父にあたる存在だよ。俺の兄は君の父だ」


「そんな……」


 私が知る父は一人っ子で、兄弟はいないと本人が述べていた。周囲もそれを否定することはなかった。王弟がいるという話は一度も聞いたことがなく、考えたこともなかった。


「認識阻害魔法に一度も気付かなかった……」


「君の前では細心の注意を払って、目にしかかけていなかった。髪はかつらをつけていたんだ。どうにか気付かれないように対策はしていた」


 目だけとなれば範囲が狭い上に魔力も微量な為、注意深く見なくては気付かない。そもそも私は彼のことをライナックだと思い込んでいたために認識阻害魔法は無自覚に適応してしまったのだろう。


「………………」

 

 一体何について触れればいいのかわからずにいた時、瞳から連想される出来事を思い出した。


「壁の向こう側……」


「あぁ。俺は君に一度だけ会ったことがある。あの時は……今の大公殿下が隣に立っていた」


「ローブの魔法使いさん」


「あぁ、そうだ」


 あの記憶の中でウィルが言っていたことを思い出す。隠したいものがあるから隠すんだと彼は言っていた。今ならばその言葉に強く頷ける。銀髪はエルフィールド王家という絶対的な証になる。隠す事情があったのだと察せられる。


「……改めて自己紹介をさせてくれ。俺にはライオネルという名前がある。長らく誰にも呼ばれなかった名前がな」


 寂しそうに話す姿には、もはやどこにもライナックはいなかった。


 ライオネル。やはり、一度も聞いたことはない。


「……俺は生まれた時から普通でなかった。王家だというのに、だ。どれだけ母が絶望したかはわからない。会ったことがないからな」


「……ずっと、あの壁の向こう側にいたのですか」


 問いかけに静かに頷く。


 認識阻害魔法のかけられた壁の向こう側には、人の気配がまるでなかった。王弟でありながら、彼が一人でいた期間が長いことが容易に想像できる。


「一生あそこで、当たり前のように1人で生きていくのだとばかり思っていた。だから本当に驚いたんだよ、君が来た時は」


 絶対に誰も訪れることのない場所。穏やかに見えたあの場所は、王弟である彼を監禁していた場所だった。


「ごめんなさい、あの時は」


「謝らないでくれ。むしろ感謝をしているんだから」


「感謝、ですか」


「あぁ。君が認識阻害魔法を解いてくれたお陰で、俺はライナックと出会えた」


「ライナックと……?」


 どうやらライナックは私と出会う前にもエルフィールドを訪れた事が何度かあったようだ。ライナックは南の小国にある商団で弟子入りをしていたことがあったという。その際に、生粋の方向音痴だった彼はライオネルのいる場所へ足を踏み入れたのだとか。


「誰もよる筈のないあの場所は、一度魔法をかけて後は放置していた。食事や安否確認は遠くから魔法で行われていたから、誰もあの壁を見に来ることはなかったんだ」


 数年間、商団へ弟子入りしていたライナックは何度もライオネルの元を訪れたという。人気のない場所に他国の者がいれば普通怪しまれる。だが、私があの時探検しても誰にも止められなかった理由と同じで、あの場所の周辺は本当に人がいなかった。目撃する人もいないということだ。


「ライナックは……俺にとって唯一の友人だった。けど、ライナックが死んだのは俺のせいだ。あの日、不用意に巻き込むことがなければ……」

 

 ライナックの最後を見届けることになってしまった理由も後で話すと言われた。順を追って、ライオネルの知る出来事を伝えたいとのこと。


「話す前に1つ確認したいことがある」


「はい」


「今から俺が話す事は、君の想像を大きく超えるものばかりだ。今更知らなくていいことも多い」


「……」


「今まで信じてきたこと、エルフィールド国そのものが絶対に壊れる。それでも良いならば、俺は君に聞いてもらいたい」


「……知ったところで、後悔にしかならないとわかっています。それでも私は何があったかを知る義務が自身にあると思うのです」   


「王族としての義務か」


「いいえ。生き残った者としての義務であり役目です。覚悟はできています」


 何度も何度も、自分の知らないエルフィールド国の一面を垣間見ては不安になっていた。それと同時に、自分の無知を悔いた。


「……わかった。では話させてくれ」


 強い覚悟と想いは、しっかりと伝わったようだ。少しの沈黙を経て、ライオネルは王弟であった自身の人生について語り出した。


「魔力の少ない王族など前代未聞だった。王家の恥もいいところだ。それなのに俺は殺されず、生かされた。理解ができなかったが、俺と同じような者……所謂半端者と呼ばれる者達も生かされていると聞き、それが当たり前なのかと感じたよ」


 生かされるだけ良いと考えたライオネルは、何も考えずに過ごす日々だったという。


「でも何事にも理由がある。俺が生かされたことにも当然理由があった。今の君にならわかると思う」


 半端者の最大の価値、それは依り代。リズベットがその身をもって示したように、本当に半端者には魔神を呼び寄せる依り代としての力があった。


「そう、依り代だ。俺を始めとした半端者達は依り代として生かされていた」


「魔神を……国が呼び出そうとしたのですか」


「あぁ。国王を始めとして貴族全員がその考えに賛同していた。誰も反する者はいなかった。魔神を呼び出すのには明確な目的があり、それは長年エルフィールド国が理想としてきた考え方だった」


「理想?」


「それは、エルフィールド国こそがこの世界の支配者として相応しいという考えだ」


「え……」


 初めて聞いた理想に再び思考が止まってしまった。そんな物騒な考えを持つような国には到底思えなかったからだ。私にとってエルフィールド国は平穏そのものだった。


 途端に不安になる。


 私は一体、エルフィールドの何を見てきたのだろうか。

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