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57. 花は青く輝いて


 フィーディリアの花々は少しずつ輝きだし、それは離れた空からも目視できるほどだった。


「おぉ、花が力を魔神様に与えてくれるようだ!気まぐれな花もやるではないか!」


《花?》


「……うぅっ」


 歯を食いしばって最後の最後まで魔力を出し切る。魔力が尽き、敗北を感じた。


「…………ごめん、なさい」


 言葉と魔法は綺麗に消え去る。


 弾け飛んだ魔法の残骸を見ながら、自分の無力さを目の当たりにした。


《ようやく絶えたか。……何だ、これは!!》


 魔神が安堵を漏らしたのもつかの間、途端に青色の光に包まれる。


「はははっ!いいぞ、もっとやれ。花々よ!そして更なる魔神を呼び出すのだ!」


 そこでラベーヌ公爵が言っていた事を思い出した。フィーディリアは魔法使いを好むのだと。今魔力を失ってしまった私では、花達の関心を引けないのだろう。


 魔神に集まる光を動けない体で眺めながら、放心状態でいた。


《何だ、これは!》


「素晴らしい、素晴らしいぞ!」


 だが、どうにも魔神の様子がおかしい。

 魔力が増加するというのに喜ぶ姿は見受けられない。


「…………」


 どうにか隙をついて封印魔法を放ちたいと思うものの、もうその魔力はない。


 存在しない解決方法を探しながら奇跡を願うしか、もう道はなかった。


「……もう、」


 無理なんだ、そう口にしそうになったその時に何故か青い光が少しだけ周り現れだした気がした。


<諦めないで>


<まだ終わりじゃないよ>


<君しかあいつを封印できないんだ>


<最後の力を振り絞るんだよ!>


 ふと聞こえた正体不明の声の数々。


 困惑しながらも、泣きそうな声で答える。


「もう……魔力がないの」


<大丈夫!>


<魔力なら僕たちがあげる!>


<だからあいつを封印して!>


「……フィー、ディリア?」


 確信を持てずに問いかける。


<そうだよ!>


<やっと僕たちの声が届いた!>


<ずっと君を待ってたんだよ>


<生きててくれてありがとう>


「…………光が」

 

 小さな光はいつの間にか、個体として多くの光が私を囲んでいた。


「…………ありがとう、フィーディリア」


 言葉が通じたのか、光が嬉しそうに揺れる。感謝の気持ちを、ただひたすら感じていた。それはフィーディリアだけでなく……。


 この花を忘れずに、咲かせてくれたウィルも。


《散れ!何だこの鬱陶しい光は!!》


「ま、魔神様!?馬鹿な、花は力になるのではないのか!」


 フィーディリアの花は決して魔神へ力を貸しに集まったのではなく、妨害して私との接触を試みたようだ。それを知ったラベーヌ公爵は取り乱す。


<ごめん、もう時間がない>


<チャンスは限られてる>


<でも君ならできるよ>


 背中を押す光は1つずつ、私の中へと入っていく。


<何だか集まったらドレスみたいになったね>


<フィーディリアのドレスだ、似合ってるよ!>


 光と共に青く咲き誇る花びらも集まり、それはまるで着飾るような状態へとなる。


「………封印魔法」


 先ほど上手くいかなかった不安が過る。何か他の魔法が使えるわけでもないが、一瞬悩みが生まれる。


<不安?>


<心配?>


「……えぇ、少し」


 笑ってみせるものの、二度と来ない最後のチャンスに重責がのし掛かる。


<封印魔法じゃなくて、神聖魔法は?>


<うん、神聖魔法がいいと思う!>


「神聖魔法……」


 それは、太古に存在した魔法。

 昔、まだ魔族がこちら側の世界にいた時に対抗策として編み出された魔法。最高度魔法とされ、扱えるのは王族のみとされていた。だが、魔族との関らないことを良しとした世の中になってからは、使わなくなってしまった魔法でもある。私自身、直接父や母から教えられたことはない。


 しかし、私は知っている。

 あの日見つけた本の中に存在していたからだ。


 封印魔法と同等、使う魔力の量は1人の持つ限度を越している。封印魔法は最終手段として選んだが、神聖魔法を選ばなかった理由は魔力量が発動基準に満たせず使うことができなかったからだ。


 けれど、魔力を与えてもらった今ならば。


 放つ価値は、他のどの魔法よりもある。


「……神聖魔法を放つわ。フィーディリア、力を貸して欲しい」


<もちろんだよ!>


<思いっきり放って!>


「えぇ、わかったわ」


 力強く頷いて、重ねた両手を魔神へと向けた。


《失せろっ!》


 それと同時に、魔神に纏わりついていた他のフィーディリアの花々による光が散る。


《……ば、馬鹿な、魔力は底をついた筈……!》



「本来ならば私は命を落としていたでしょう。ですが、フィーディリアがいてくれたお陰でもう一度だけ、機会が得られた」


 皮肉にも、ラベーヌ公爵の画策が裏目に出た瞬間だった。


《何だ、この忌々しいオーラはっ!》


 全神経を両手に集中させ、私は魔神に告げる。


 神聖魔法の発動を感知したのか、途端に魔神の顔色が悪くなる。


「この世界に、魔神は必要ない。自分の世界へ

帰るといいわ」


《やめろ、それを放てば俺は……!》


 神聖魔法を食らえば魔神でもただでは済まされないだろう。だが、今更容赦をする気はどこにもない。


「どうか二度と世界を跨ぐことがないよう、ここに祈ります」


《神聖魔法を受けたところで、持ち主の真名も知らぬお前には救うことはできない!》


「……そうだ、そうだ!誰もベアトリーチェの本当の名前は知らない。真名でなければ追い出すことは不可能だ!!」


 どうやら神聖魔法で魔神を消し去ったとしても、真名で呼び掛けなければそのまま朽ち果てるという。


 だとするのならば、何も問題はない。


「真名ならば知っているわ」


《嘘をつくな!》


 魔神はその姿で逃げようとするものの、私のはった結界により退路を塞がれる。


《くそっ!!》


 魔神が結界を破るよりも先に、私は神聖魔法を放った。


「去りなさい、異界の者よ」

 

 逃げることが叶わなかった魔神は……リズベットの体は銀色の光に包まれていった。

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