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54. 貫く意志



 魔方陣と重なってしまった瞬間、リズベットは意識を失ってしまった。それと同時に体ごと浮かび上がり、禍々しい光とオーラを放ち始めた。


「これはこれは、皆様お揃いで」


「公爵、私の問いに答えよ」


「大公殿下、そんな口をきけるのも今のうちということだけ述べておきますよ」


「何を言っている」


「私はこれからこの国の、デューハイトン帝国の新しき主となるのだ。立場をわきまえてもらおう」


「立場をわきまえるのは貴殿ではないか、ラベーヌ公」


「黙れリフェイン公。私が貴様の下である時代はもうじき終わる、指図できると思うな!」


 魔神召喚が発動したことで興奮しているあまり、先走って暴走をし始めるラベーヌ公爵。


「……狂ったか」


 吐き捨てるように呟く大公殿下。その傍らには護衛がいる。だが残念ながら彼らは役に立たない。魔神や魔法使いの相手には一般人はなれないのだ。


 一連の流れには一切目をくれず、私はひたすらリズベットを救う方法を組み立てていた。


 どんな格だとしても、相手は魔神。

 私の持てる魔力を全てぶつけて封印できるかも危うい。一度召喚した魔神は、願いを叶えて代償を取るまで去ってはくれない。だが、その願いを叶えさせるわけにも、代償を生み出すわけにもいかない。それが成功すればリズベットの命が保証できなくなるからだ。


 封印魔法の心得はあるものの、これは高度などという種類ではない。本来ならば、優秀な魔法使いが複数人集まって行うものだ。それを1人で行うというのだから、魔力は底を尽きるのが前提の話だ。余計な魔法を使っている余裕はない。


 ……だから私は、今自分にかけている認識阻害魔法をとく必要がある。


「……………」


「シュイナ!怪我は、貴女は大丈夫?」


 考え込む私に心配そうに腕を引いたお嬢様。


「お嬢様……私は…………」


「貴女が無事で良かったわ……」


 外傷は無いものの、悲しいことに精神的には全く無事ではない。


「ラベーヌ嬢の異常な様子からこの状況が不味いことは確かだ。騎士団をここへ。リフェイン公爵方や使用人を避難させろ」


「かしこまりました」


「そして陛下に伝達を」


「はっ」


 未だにラベーヌ公爵は高笑いをし続けている。奴にとってはこの状況はまさに計画通り。笑わずにはいられないというところか。


「シュイナ、私たちも逃げるわよ!」


「フローラ、アトリスタ嬢、急ぐぞ」


 避難しようとする二人に、私はついていくことができない。


「申し訳ありません……お嬢様と旦那様だけでお逃げください」


「何を言っているの!」


「お嬢様、私は貴女にずっと黙っていた事かございます」


「シュイナ、それは後よ。今はとにかく」


「いえ。私は魔法使いです。エルフィールドの生き残りなのです。この状況をどうにかできる唯一の存在であります。ですから、ここを離れるわけにはいきません」


「…………」


「アトリスタ嬢……」


 唐突な発言にお嬢様が固まるのも当然だ。

 私の言葉を理解するのにも時間が必要というもの。しかし、残酷なことに今そんな時間はない。


 複雑な心境の中翻してリズベットの元に行こうとしたその時、突然ラベーヌ公爵が叫びだした。


「そうだ!そこの魔法使いもここに来い!依り代は多いに越したことはないからな!!ははっ!何とついてることだ!!」


 まだ私を半端者だと勘違いし続けている。その姿は狂人そのものだ。


 ラベーヌ公爵の発言に、お嬢様は正気を取り戻した。


「……シュイナ、貴女が魔法使いだという言葉は信じるわ。納得できる要素があるから」


「ありがとうございます、では」


「だとしたら駄目よ。尚更行かせるわけにはいかない。今の発言が聞こえたでしょう。行けば貴女の身に危険が及ぶのよ。むしろシュイナ、貴女がここから一番離れた方がいい!」


「あぁ、アトリスタ嬢。これ以上事を大きくするわけにはいかない。それに、君はアトリスタ子爵から預かっている。君を守る義務が、雇用主である私にはある」


「……」


 2人の想いを一身に受け止める。言いたいことはわかる。だが、それでも頷くわけにはいかないのだ。


 そう伝えようとした時に、更に制する声が降ってきた。


「魔法使いである侍女殿、貴女が責任に感じる必要はどこにもない。全てはラベーヌ公爵の企みを見抜けなかった私の責だ。何も感じることなく、君はリフェイン公爵達と避難して欲しい」


 声の主は大公殿下であった。深刻そうな瞳で告げる言葉は、選ばれていても半ば命令のようなものであった。


 予想外の言葉に一瞬怯むものの、強い心が揺れることはない。


 例え、ここにいる全ての人に逃げろと言われても従えない理由が私にはあるのだ。どれだけ想っている言葉だとしても、受け入れはしない。


「…………申し訳ありません」


「謝る必要などどこにもない」


「えぇ。シュイナ逃げましょう」


「…………私は、守らなければいけないものがあるのです」


 リズベットとした約束を。フローラお嬢様達を。


 そして、それ以上に守らなければいけないもの。


「シュイナ!」


「アトリスタ嬢、すまないが君の意思を呑むことはできない」


「早く逃げるんだ」


 重なる声を聞きながらそっと目を閉じる。


「……騙していてごめんなさい。私は私の意志を貫かせていただきます」


 その言葉と同時に、認識阻害魔法をそっとといた。


 茶色で平凡にしか見えない筈の見た目から、あの頃の姿へと戻っていく。


 銀髪をなびかせながら、しなやかで芯のある声で告げた。


「ロゼルヴィア・エルフィールド。エルフィールド王国最後の王族として、生き残りである彼女を救いに向かいます」 

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