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47. 真実を求めて


 翌日、最終選考は2日後に行われることを告げられた。日程が確保できたようで両者同日に選考を行うことにしたとのことだった。


 今回は普段とは逆の順番になり、お嬢様が午前中に、ベアトリーチェ嬢が午後となった。リフェイン公爵が訪れるのはもちろんだが、ラベーヌ公爵も等しくここへ訪問する。何気に初対面である。名前ばかり知っていたが、実際に会ったことは一度もなかった。


 選考当日まで、お嬢様は休息されていた。ここまでくると、後できることは少ないために静かに事の流れを見守っているのかもしれない。


 そして、選考日前日の夜。

 就寝準備中にお嬢様は不安を吐露した。


「……明日で全てが決まるのね」


「はい」


「はぁ……何だか憂鬱だわ」


 ここ数日のお嬢様は憂鬱そのものだった。どんなことをしても晴れることのない気持ちを持つお嬢様に、どうにか少しでも明るくなってほしいと振る舞っていた。その度に「シュイナがいてくれてよかったわ」と泣きそうに笑う姿は胸を苦しくさせた。


「明日で、これからの運命が決まるの。ただ、それが自分だけではないことが怖いわ。私に関わってくれた家族はもちろん……最悪王家にまで影響が及ぶ」


 深刻そうに考える表情は、どこか息苦しく見えた。


「……大丈夫ですお嬢様。お嬢様は自身が思われているよりも、遥かに優れたお方ですよ」


「シュイナ……」


「短期間傍に仕えた私ですら、お嬢様が筆頭公爵令嬢で人望があり続ける所以がわかったのです。私などより遥かに聡明な大公ならば、尚更それを感じ取れた筈にございます。ですから、大丈夫です。どうか最後まで走り抜けてください」


 長い人生の間、お嬢様は恵まれた人では無かったと思う。そう言う風に見えるような努力の量が圧倒的にあったのだ。私はお嬢様を苦労人とは呼ばない。ただ、どうにか報われてほしいと願うのだ。


「ありがとう……そうね、シュイナの言う通りだわ」


「明日は久しぶりに旦那様にもお会いできますから、どうぞリラックスしてください」


「……えぇ、そうね!」


 今度の笑顔は、腹を括って意思を固め、強い決意の表れが見えた。


 それでこそお嬢様だ、と自分の事のように嬉しくなった。


 今日に限っては、お嬢様が安堵の寝息をたてるまで傍にいた。眠る姿を確認すると、部屋を後にする。自室には向かわず、そのまま別館の裏口へと向かった。反対側の別館を見つめて、そこへと向かう意思を固める。


「……起きてるといいけど」


 寝ていた場合、申し訳ないが起こすことになってしまう。余計な騒ぎにも発展するだろうから、なるべく就寝していないように願った。誰にもわからないように暗闇を静かに歩いた。


 反対側の別館へと着く。

 普通に考えれば就寝時間だが、一つだけ明かりのついた部屋を見つける。


 恐らくベアトリーチェ嬢の部屋だ。まだ起きているという事実に安堵する。しかし、他にも問題はある。それは部屋の中に侍女がいた場合だが、今考えても仕方ないと思いとにかく部屋へと向かった。


 明かりのついていた扉の前へ立つ。


 中からは一人の気配しかしない。もう侍女は下がらせたようだ。


「…………」


 少し跳ねる鼓動を押さえてから、軽くノックをした。


「……下がっていいと言ったでしょう」


 何とも言えない答えが返ってきたが、とにかく部屋に入ってしまおうと思い、扉を開けた。


「飲み物はいらないわよ、そんな気分じゃないの。一人にして…………貴女」


「……お久しぶりです」


 一人になりたかったところに邪魔をするのは気が引けるが、こちらも譲れない理由がある。


「……何、リフェイン家の侍女は夜中に他家の令嬢を堂々と訪問するよう躾られているのかしら」


「いえ。個人的な用があってきただけです」


 ここを訪れる時、一つ悩んだことがある。それは、どこまで自分の正体を告げるかだ。色々と聞き出せる可能性を考慮して、侍女という下の身分で行くことに決めた。


「個人的な用?今更こちら側に寝返るだなんて考えられないけれど。一体何かしら」


 不作法を咎める元気は残っているようだが、話を聞こうとしてくれる姿からは悪女像はぶれる。なんだか弱っているような印象をうけた。

 

「……直球に言います。私は貴女と同じエルフィールド国の生き残りです」


「…………嘘よ」


「いえ、嘘ではありません。今までの行動と照らし合わせてもらえれば、納得していただけるかと。例えば、ラベーヌ公爵令嬢様、貴女がお嬢様にかけようとした契約魔法は上手くいかなかったでしょう」


「…………」


「お茶会で契約魔法をかけた筈のリブル夫人が公平な評価をしたり」


「………………」


「あとは────」


「もう、いいわよ。十分」


「………」


 説明は途中で途切れるが、どうやら理解したようだった。


「なるほどね。だからリフェイン公爵家は怯まず今回の選考に参加したのか……」


 どうやら納得してもらったみたいだ。それと同時に、ベアトリーチェ嬢の肩の力が抜けてどこか切ない表情が浮かぶ。


「それは違います。お嬢様や旦那様には私が生き残りだと告げていませんから」


「…………何故」


「今回雇用いただいたのは、本当に偶然です。人の縁によって結ばれたものですから」


「………だとしたら、私は本当に運がない。私から魔力量がわからないと言うことは、貴女は()()()魔法使いでしょう」


「普通、ですか」


「えぇ。エルフィールド国では特に不自由なく過ごせたのではない?」


「そう、ですね」


「まさか普通の魔法使いが生きてるだなんて。彼らは……エルフィールド国の生き残りなんてもういないと思ったのに」


「それには同感です。私も自身以外が生き延びているとは思いませんでしたから」


「……私は半端者だから。エルフィールド国が滅びてから、失敗作として生まれればよかったと思うばかりだった」


「……失敗作、ですか」


 半端者、失敗作。

 その言葉から、エルフィールド国には優秀な魔法使いしか生まれないという教えが崩れ去る音を感じた。


 それと同時に、抱き続けてきた謎がようやく明かされると確信した。

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