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44. 新たな疑問と鍵

回想編が終わり、場面は現在(女子会)へ戻ります。


 かつての婚約者と過ごした日々を、自分の中でうまく組み合わせてお嬢様へと伝えた。


 一介の侍女の恋愛話にも関わらず、お嬢様は終始楽しそうに聞いてくれた。


「もしかして、今恋愛をしないのはその人のことを忘れられないからなの?」


「……いえ、出会いが無いだけです。田舎ですから限られた繋がりしかないもので。だからと言って、わざわざ別の場所に探しにいくのも手間と言いますか」


「でも、わからなくはないわ。結婚しなくても生けてはいけますもの。たとえシュイナが独身主義でも反対しないから安心して」


「独身主義かと言われれば……違うかもしれませんが」


 その言葉でライナックを思い出す。

 もしや、結婚に興味がないという発言は本意だったのかもしれない。


「どちらにせよ、私はシュイナが自分の幸せを掴んでくれれば満足よ。もしも結婚式を挙げるとするのならば呼んでちょうだいね」


「はい、その時はお願いします」


 話題に一区切りつくと、私は気になることをお嬢様へ尋ねてみた。


「……あの、話が変わるのですが」


「何かしら」


「ベアトリーチェ嬢のことです」


「うん」


「お嬢様から見て、ベアトリーチェ嬢……そしてラベーヌ家はどう感じますか」


 かなり踏み込んだ質問をしている自覚はある。だか、これに関してお嬢様の本音を聞いたことが実は一度もないのだ。何かに気づく機会として駄目元で聞くことにした。


「……ふふっ」


「お、お嬢様?やはり不味い質問でしたか、では忘れてください」


「いえ、違うのよシュイナ。質問してきてくれたのが嬉しくて。先程までの質問は何と言うか……私から促していたでしょう。だから、今シュイナから自発的に聞いてきてくれたことに喜びを感じていたわ」


「それは……何よりです」


「やはり恋愛話は心の距離を縮めるわね……」


 それに関しては何とも言えないので黙っておくが、納得されているようなのでそっとすることにした。


「ベアトリーチェ様ね……」


 敵対関係という言葉が一番当てはまるような気もするが、実際にベアトリーチェ嬢がこの縁談をどう考えているのかわからなくなっていた。何のために今回の縁談に乗り込んでいるのか、明確な答えが出せずにいた。


 そして、人を見抜く力があると私が勝手に認識しているお嬢様ならば、何か違った見方を聞けるのではないかと感じていた。


「あくまでも私の印象だけれどね?」


「はい」


「凄く必死だと感じたわ」


「必死、ですか」


「えぇ。あと見えない何か大切なことを抱えているのではないかと。どちらも何に対してかはわからないから名言できないのだけれど、昨日のパーティーでベアトリーチェ様の話を聞いた時にそう感じたの」


 お嬢様は、昨日久しぶりに会った友人方から前日のベアトリーチェ嬢の様子を聞いたそうだ。すると、態度や振る舞いに特に問題点はなく思ったよりもしっかりとした淑女としての姿があったと言う。ラベーヌ家の養子になって間もないことを知っていたご友人は、予想以上に立派な立ち振舞いで驚いたのだとか。


「ベアトリーチェ様はてっきりそういう事には興味がなくて、ただ大公妃になりたいと考えているだけだと思っていたの。実際、お茶会での姿はあまり良いものではなかったと言う話を、参加いただいた夫人から聞いたものですから」


 お嬢様の言う通り、お茶会では少なくとも身に付けられていない教養は多かった筈だ。


「ではここ一週間の学びを無駄にしなかったと言うことですね」


「そうなるわね」


 さすがに振る舞いや作法は魔法で解決できる問題ではない。


「だから今回の選考はいい勝負になっているのではないかしら。どっちにせよ、まだ決着はつかないと思うわ」


 暗に選考が続くことを話すお嬢様。


「それに、もしもを考えると謎が深まるばかりなのよね」


「もしも、ですか」


「えぇ。もしも、ベアトリーチェ様が大公殿下に全く興味がないとしたら、どうしてこのように割り込みをしたのか」


「……理由が薄くなりますね」


「えぇ。ラベーヌ家の権力を高める為等は理由として筋が通ってはいるけれど、だとしたら国王陛下の側室にまず話がいくべきだと思うの」


「……側室」


「王家と繋がりがもてるこれとない機会ですもの。ベアトリーチェ様は魔法を使える稀有な存在でもあるから、受け入れられないことはないと思うのよ」


「確かに、そちらの方が可能性としては高いですよね」


「そうなの。もしもベアトリーチェ様が大公殿下への好意がないとするのならば、何故中途半端なことをしたのか謎が深まるのよね」


 あの涙の姿から、ベアトリーチェ嬢の真意はわからなくなっていた。考えられるのは、どうにか大公妃としての地位を手に入れなければいけない様子が見られた。


「……まぁ、何か裏があるとしたら尚更私は今回の選考を勝ち取らなければならないでしょう」


 恋愛話から一変して、強い決心をする姿はとても頼もしく感じた。


 状況を多角的な視点で考えることのできる聡明なお嬢様。その姿を見て、ふと思い出したことがある。


 私は幼い頃、ロゼルヴィアだった頃、お嬢様……フローラ・リフェインに会っていたことだ。


 そうか、あの聡明でもう一度話したいと願ったご令嬢はお嬢様だったのか。


 腑に落ちた気持ちで、お嬢様との会話を再開するのだった。


 そして、その夜。


 お嬢様の視点を含めて一人で、色々と模索をしてみた。

 

 恐らく、ベアトリーチェ嬢は大公殿下に対する恋心は私達が想像しているよりは持ち合わせていない。むしろ、そう見えるように振る舞っているというのが正しい見方だろう。


 だとしたら、何故側室ではなく大公妃を望むのか。ラベーヌ公爵が裏にいるとして、権力を得たいと考えるのならば尚更疑問に残る。


 王家そのものではなく大公家ではなくてはならない理由が何かあるのかもしれない。


 これがわかれば、今回選考をするに至ったラベーヌ家の根本的な意図と何か解決策が見える気がした。

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